第35話 義妹の勝負下着

 扉まで向かうと、三鷹さんが顔を真っ赤にした。


「……ッ!」

「あ……」


 しまった。

 腰にバスタオルを巻いただけの状態だった。これではヘンタイ魔人ではないかッ!


「にゅ、入浴中でございましたか……ご無礼を」


 なぜか俺の体をジロジロと観察してくる三鷹さん。こんな美人メイドに見られると、逆に恥ずかしいというか……。照れる。


「いや、いいんだ。むしろ、こんな状態の俺を許してくれ」

「は、はい。大丈夫です。それより、こちらをお願いします」


「ん……これは?」


「詩乃様の新しいお洋服と下着、生理用品など――」

「ちょ!? そういうのは三鷹さんが直接渡してくれよぅ!?」


 さ、さすがに下着だとか生理用品はマズいっしょ。男の俺が持っていたら、それこそヘンタイ魔神・・だ。


「いえ、それが詩乃様のご要望でして」

「なぬッ!?」


 詩乃のヤツ、わざと!

 な、なんてご褒美を――いや、いかんいかん。

 三鷹さんが妙にドン引きしているし、俺がヘンタイになってしまうだけだ。あとで言っておくか。


「お願いしますね……」

「あ、ああ……ありがとう」


 ダメダ。白い目で見られてるぅー!

 三鷹さんは自室へ戻っていった。


 ……くうぅ。



 ◆



 ホテル生活も慣れてきた。

 むしろ快適と言っていい。

 ここには何でもあるし、清掃員によって勝手に掃除がされて常に清潔だ。

 それに、三鷹さんの生活補助もある


 彼女は、俺だけでなく詩乃も全力でサポートしてくれていた。

 やはり男の俺では限界があるからな。

 女性にしか分からない事情があるのだ。



「んー…」

「どうした、詩乃。浮かない顔をして……って」


「あ、お兄ちゃん。今日の下着、白か黒か……新品のピンクどれがいいと思う?」



 ベッドの上に並べられている詩乃の下着。って、なんでバザーみたいに並べているんだよ!



「し、詩乃。なぜ俺に選ばせる……?」

「お兄ちゃんに、わたしの勝負下着を選んで欲しいんだよ~」


「なにィ!?」



 な、なんだそれは!

 てか、勝負下着!? そうなのか!?


 それをいったい誰の為に…………あ、俺か。


 嬉しすぎるおおおおおおおおおおお!!


 俺は心の中で叫んだ。

 顔は冷静に。



「やっぱ黒かな?」

「イ、イインジャナイカ~」


「うーん。やっぱり、ピンクかな」

「オ、オウ。イイト、オモウゾ」



 だめだ、だめだ、だめだあああああああああ!


 選べない!


 無理! 不可能!


 義妹の下着を選ぶとか無理いいいいいいい!!


 嬉しいけど!!

 嬉しいけれど!!


 無理いいいいいいいいいいい!!



 ――詩乃は、なぜか隠し持っていたワインレッドのド派手なのにしていた。



 マジの勝負下着じゃねえか……!



 ◆



 学校へ到着した。

 詩乃も交え、奥野校長に昨日のことを詳しく説明。

 理解を示してくれて、むしろ心配してくれた。


「そうだったのですね。犯人が捕まって良かったです」

「申し訳ございません、奥野校長。数日と経たず迷惑を」

「謝る必要はありませんよ。悪いの犯人なのですから」


 そんな風に言ってくれて、俺は気が楽になった。

 奥野校長は理解が早く、そして、優しかった。こんなに親身に話を聞いてくれるし、常に味方になってくれている。


 こんなにありがたいことはない。


 さすが父上の旧知。


「また警察からお話があるかもしれません」

「分かりました。八一くんは事務の仕事をこなしながら、警察の対応にあたってください」


「ありがとうございます」



 話は終わり、校長室を後にした。

 詩乃は教室へ戻る事に。


「じゃ、行ってくるね。お兄ちゃん」

「気を付けてな。西東兄妹のことが終わったとはいえ、やっぱり心配だ」


「大丈夫だよ。わたし、お兄ちゃんにしか興味ないもん」


 笑顔で答えてくれる詩乃。

 きっと大丈夫だ。

 俺はしばらくこの学校の事務員として勤務するし、問題はない。


 今は見守ろう。


 そして、今日こそは行けなかった『病院』へ向かう。

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