第31話 命の選択

 ガッチャっとドアを閉められた。

 しまった、こちらからは開けられない!



「……タクシーの運転手を巻き込んじまったが、そんなのはどうでもいい」



 ギロリとこちらを睨むサイトウ。

 コイツ、まさかタクシーの運転手を襲って……乗っ取ったのか!

 これはもう完全な犯罪だぞ。



「そこまでして……!」

「仕方ないさ。こうでもしなければお前達には近寄れなかった」



 車を発進させるサイトウは、どこか目指して走っていく。

 いったい、どこへ連れていくつもりだ……?



「降ろせ」

「ああ、そのうちな」



 詩乃は怯えて声を出せない状況だ。

 震えている……可哀想に。

 俺が守ってやる。


 やがて車は、人通りの少ない場所に到着した。……なんだここは?


 いや、考えている暇はない。

 この状況をなんとかしないと。



「どうするつもりだ」

「車を降りてもらう」


「なに……?」



 ロックが外れた。

 ドアを開け、俺も詩乃も車から降りた。

 これはチャンスだ。

 タイミング次第では逃げられるぞ。



「ここがお前たちの墓場だ」



 サイトウは、ニヤリと笑う。

 コイツ、なにを言っていやがる。


 先は行き止まりだが、反対方向は逃げられる。


 詩乃の手を取って逃げようとするが、反対方向から人が現れた。……あれは!



「逃がしませんよ、八一様」

「西東さん……なぜ」


「あなた方を挟み撃ちにするためです」



 まさか元メイドの西東もいたとは。そうか、最初からそのつもりで……!


 ジリジリと寄ってくる二人。

 このままでは俺も詩乃もきっと……殺される。


 仕方ない。

 こうなったら拳でなんとかするしかない。


「いいのか、サイトウ。俺はいざとなったらケンカだってするぞ」

「ほう。言っておくが、こっちはナイフがある」


 ポケットからナイフを取り出すサイトウ。おいおい、反則だぞ。

 元メイドの西東は警棒を取り出していた。それも反則だ。


 くそっ、二人とも凶器持ちかよ。


 ふざけるな!!



「怖いよ、お兄ちゃん……」

「大丈夫だ。詩乃。俺が必ず守ってやる」



 詩乃を庇うようにする俺。

 だが、サイトウが邪悪に笑う。



「ハッハッハ! 兄妹愛だな。だがな、お前たちはここで終わりだ。柴犬家はこれで潰えるのだ……」


「兄さんの言う通りよ。柴犬家なんて消えてしまえばいい!」



 サイトウも西東さんも俺たちを恨んでいるようだ。そんな、勝手な。

 あまりに一方的すぎる。

 こんなのはおかしい。


 なぜ俺と詩乃ばかり不幸にならなければならない。

 間違っている……!!



 けれど、二人を相手にするのは少々厳しい。しかもナイフと警棒を持っている。素手では対処が難しい。



 でも。



 それでも俺はやる。

 こうなったら、詩乃だけでも助ける。


 俺の命はどうなっても構わない。

 せめて大切な妹だけでも……!



「サイトウ、それに西東さん。本気なんだな」



 確認するように俺は二人を睨む。

 両方とも悪魔のように笑うだけ。



 それが“答え”か!!



 なら、やるしかない。

 俺は拳を構えた。


 そうだ。武器なんてなくても、俺には立派な腕と脚がある。詩乃を守るなら、これで十分だ。


 ここ最近は、詩乃を守るために肉体を鍛えていた。

 わざわざ護身術も習った。


 今こそ力を発揮するときだ。



「死ねええええええええ!!」

「私は妹の方を……殺す!!」



 西東兄妹が向かってくる。



「させるかあああああああああああああ!!!」



 俺は詩乃を抱えてサイトウの方へ向かっていく。この右ストレートに運命が掛かっている。


 今こそ全力で、命懸けで……!

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