第32話 諦めない心
この拳の一撃に……!
俺の全てをぶつける……!
向かってくるナイフ。それを俺は詩乃の学生カバンで防御。緊急事態につき、許せ……!
「なッ! カバンだとぉ!?」
「中には分厚い教科書が詰まっているんだぜ。そんなナイフごときでは貫通できない。そして、引き抜くことも難しい!」
「し、しまったああああああ!!」
カバンを捻り、手繰り寄せるとサイトウの手からナイフを引き剥がすことに成功。これで凶器はなくなった。
「すまん、詩乃。カバンは必ず弁償する!」
「ううん、いいの!」
良かった。
そして今はサイトウをぶっ飛ばす。それが先決だ。
今度こそ拳を――!!
「サイトウ、てめぇはここで沈め!!」
「や、やめ……!!」
足を、体を捻り強力なバネにして俺は、サイトウの顔面に拳を捻じ込んだ。
「この馬鹿野郎がああああッ!!」
「ぐヴぁぉああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ…………!!!!!」
サイトウの顔面の右半分がメチャメチャに潰れ、そのまま数十回転して地面に転がっていく。
数メートル吹き飛んでバタリと通れた。
だが、まだ勝利ではない!
すぐに振り返り、警棒を持つ西東に立ち向かった。
「若い女だからって容赦しないぞ」
「女に手を出すんですか!? 最低ですね!!」
「だからどうした。詩乃とお前と考えた時、俺は詩乃を守るために拳を振るう。正義の名の下にな」
「こ、この……! 暴力男!」
「凶器を持って襲い掛かっているヤツのセリフか!」
非常に心苦しいが、ここで彼女を止めねば俺と詩乃が殺される。
せめて顔は避けてやろう。
「まあいい、こっちは違法改造の警棒。これが当たれば痛いってレベルじゃない。骨が砕けるよ!!」
ブンブンと振り回してくる西東さん。その表情は完全に狂気に取りつかれていた。
そこまで俺たちを恨んでいるとはな。
だが、これで終わらせる。
これで本当の最後だ。
俺はもう、ただ平和に暮らしたいだけなんだ!
だから、相手が女だろうが容赦しない。
「そうかよ!! 骨が砕けようが、俺の心は絶対に折れない!! 俺は詩乃の為なら強くなれるんだあああああああああああああ!!」
全力疾走して、俺は西東の放つ警棒の一撃を顔面スレスレのギリギリで回避。……正直、危なかった。あと少しで俺の顔面は破壊されていただろう。
だが、俺は父上に教えられていた。
『いいか、八一。お前は真っ直ぐな男だ。だから前だけを見て真っ直ぐ走るんだ』
そうだ。一度は逃げ出したが、今は違う。
今は前だけを見ている。
あの女を倒す……!
風のように俺は前へ走り、そのまま拳を西東の腹に捻じ込んだ。
「ぶふぁああああああああああ!?」
見事に命中し、彼女はしばらく悶絶した後に意識を失った。
……お、終わった。
「お兄ちゃん、終わったんだね……?」
「ああ。二人を相手にするのは、さすがに骨が折れた……」
足が震えて、俺はその場にがくっと腰を抜かす。
さすがに怒りが爆発しすぎだ。
ここまで脱力してしまうとはな。
「警察、呼ぶね」
「頼む……」
正直、勝てるかどうか怪しかった。でも、俺は最後まで諦めなかった。諦めない心があれば……勝てるものだな。
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