第11話 寝取られ神回避。怒りの鉄拳
一日が経過して、平和な日々が戻った。
今日からいよいよ本格的に詩乃、幸来と共に過ごす。この二人と。
そう考えていたが、スマホがバイブした。
ブルブルと震えていた。相手は誰だ……?
それは非通知で相手が分からなかった。……怪しいな。
けど、一応出てみるか。
スマホを耳にあて、俺は電話に出た。
「誰ですか……?」
『……八一くん』
こ、この声はまさか……可奈なのか……?
まてまて。
昨日、逮捕されたばかりだぞ。
こんなことがありえるのか……。いや、まぁ……人を殺したわけではないけど。
「可奈、か」
『……うん、そう。私、昨日は警察にお世話になったけど……でも、釈放された』
「そうか。じゃあ……」
『まって! 謝りたくて』
「いいよ、そんなの」
『本当にごめんなさい』
この声は本当に反省しているように聞こえた。可奈は……そこまで俺のことを思ってくれているのか。でも、それでも……。
あぁ、くそう……!
分かっていたさ。
可奈が騙されていたことくらい。
でも俺は認めたくはなかった。
けど、今朝になって幸来がこう言ったんだ。
朝七時頃、俺は朝シャワーを浴びに風呂へ向かっていた。その時、幸来とばったり会った。
「あの、お兄さん……」
「どうしたんだい、幸来」
「お姉ちゃんを救ってくれませんか」
「可奈を? なんで?」
「あんな人ですけど、でも本当はお兄さんのこと好きだったんですよ」
「……え」
「凍夜さんが騙していたのは本当です。彼はそういう人です。だから……もう一度だけチャンスを」
そこまで真剣に言われてはな。
――それから俺はずっと思い悩んでいた。
可奈をどうするべきかと。
もちろん散々な思いはした。でも、そこまで恨むほどなのか……? 俺が可奈を不幸にすれば、それは凍夜と同類になってしまうのでは。そう思い始めてきた。
俺は凍夜とは同じになりたくはない。
だから、もう一度だけ可奈にチャンスをやろう。
「分かったよ、可奈。迎えに行く」
『本当に……嬉しい。八一くん、本当にありがとう』
「ただし、俺たちの生活の邪魔はするな。あくまでこれは救済処置だ」
『うん、分かった。もう乱暴もしないし、八一くんの生活の邪魔しない。これからはサポートしたい』
「助かるよ、可奈」
それから俺はジークフリートの運転で警察署まで向かい、可奈を迎えに行った。
警察署の前でポツンと佇む可奈を見て、俺は不憫に思ってしまった。
そうだな、これが幸来の願いであり、俺の僅かな慈悲。
邪魔をしないというのなら、その言葉だけ信じよう。
「八一くん!」
「可奈……迎えに来た」
「……八一くん、本当に本当にありがとう。……好き」
その言葉をもっと前に言って欲しかった気がする。
そう思っていると可奈は抱きついてきた。
「か、可奈……離れてくれ」
「だって本当に迎えにきてくれると思わなかったんだもん。だからね、嬉しくて涙が……」
なんだかなぁ。昨日はあんなに暴走していたというのに、ここまで態度を変えられると俺は弱い。
可奈はとうとう俺の腕に、ぎゅっと抱きつく。
「ちょ、ちょ……顔が近いぞ」
「もう離さないからねっ」
「少しの間だけだぞ」
「それでいいから」
「分かったよ。八塚家まで送る」
再び車に乗り込む。
後部座席で座っている間も、可奈は俺に胸を押し当てていた。何度も何度も好きを連呼。しまいには愛しているとさえ囁かれ、俺は甘い言葉に落ちそうになった。
……ぐっ、これは女の魔力か。強すぎるぜ。
八塚家に到着し、可奈を下ろした。
「八一くん、行っちゃうの?」
「しばらくは大人しくしろ。それが条件だ。もし平和に、何事もなく過ごすのなら……絶縁だけは避けてやる」
「うん、それでいい。それでいいから……」
別れようとすると、可奈はキスを求めてきた。
「……マジか」
「唇にしてくれる?」
「ば、ばか。ジークフリートもいるし、無理だ」
せめて頬にしてやった。
すると可奈は喜んで飛び跳ねていた。
そこまで照れられると、こっちも照れるって――!
そして、ようやく俺と可奈は別れた。
しばらく会うことはないだろう。
さて、そろそろ家へ戻らないと。詩乃と幸来が心配する。
ジークフリートの車で再び家へ。
到着早々、不穏な空気を感じた。
父上は、いつも門を開けっぱなしにしているからなぁ……。また凍夜が無断で入ってきたら許さんぞ。
番犬も飼おうかなとも思うけど、父上が大の動物嫌い。
そのせいでセキュリティがやたら甘かった。
というか、父上が基本的に邸宅を解放にしていた。不用心だ。
そもそも、父上は田舎の出。田舎では玄関を閉めないなんてよくあったらしいから、そのクセが残っているようだ。それにしても、だけどな。
玄関へ向かうと、誰か叫んでいた。
なんだ、幸来っぽい声だけど。
「きゃっ……!」
お、おい、今の……。
ジークフリートも聞こえたようで、気のせいではなかった。
「坊っちゃん、今の声は……」
「ああ、まさか!」
急いで向かうと、凍夜の声が聞こえた。
「大声を出すなよ。殺すぞ」
「…………っ!」
凍夜は、幸来を脅して腕を引っ張っていたところだった。コイツ、無断で邸宅に上がり込んで……俺の義妹に手を出しやがって……!
もう許さねえ!!
「凍夜、おまえ!!」
「チッ……。八一か。出掛けてる情報があったからな、邪魔させてもらったんだがな。最悪なタイミングだったようだな」
幸来はすっかり怯えていた。
俺に助けてと視線を送るくらいしかできず、恐怖していた。
酷い、酷過ぎる。
凍夜、コイツこそが“諸悪の根源”だ。
この男をぶっ潰さないといけない。
そうだ、可奈も幸来も、この男が原因で不幸になった。そして、俺も絶望のどん底に。
「……捕まえるべきは凍夜、お前だった」
「ほう、この俺を捕まえる気か? 今流行りの私人逮捕ってか!? だが動くなよ、雑魚八一。こっちには幸来がいる。人質だ」
悪魔のような笑みを浮かべる凍夜。腕で幸来を乱暴に抱えた。
「……お兄さん」
「幸来、待ってろ。すぐに助けてやる」
「……はい」
今日に至るまで俺は体を鍛えまくった。この男を超える為に。
だが今の状況では力では対抗できない。
幸来が人質にされているからだ。
だからと言って諦めるつもりもない。
必ず救出する。
「どうした八一! かかってこないのか!? それとも、幸来をこの場で犯してやろうか!? えぇ!?」
酷く威嚇してくる凍夜。
馬鹿な男だ。
「ジークフリート、幸来を頼むぞ!!」
俺が叫ぶと同時に、ジークフリートは
「ぎゃあああああッ!?」
さすがに気絶はしなかったが、幸来を救出。ジークフリートに任せ、俺は飛び跳ねた。
「くらええええええええええ、凍夜あああああああああああ!!」
「……!? し、しまッ!!」
握り拳を凍夜の体に。
俺は全力のボディブローをかました。
『ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……!』
そんな骨が砕ける音がした。
きっと凍夜の肋骨が折れたのだろう。
「これは幸来の分!! そして、俺と可奈の分だ」
さらに拳を捻じ込む。
「ぶふぁあああああああああああああ!?!??!?」
吹き飛ぶ凍夜は、庭に転がっていき花壇の中に突っ込んだ。泥まみれになり、さらにコンクリートに頭を打ちつけていた。
俺はひとりじゃない。
最強の執事がいる。
こんなこともあろうかと不審者を撃破する為の訓練をジークフリートと共に積んでいた。
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