第25話 義妹が心配な一日

 二人で登校をはじめた。

 いや、俺は付き添いだけど。


 少し歩いて見えてきた。


 あれこそ、日比谷高等学校。

 俺もかつて通っていた高校だ。


 すでに多くの生徒が学校を目指している。あぁ、こんな空気感だったなぁ。当時を思い出す。


 それにしても。

 詩乃の様子がおかしい。



「大丈夫か?」

「き……緊張してきた」

「なるほど、緊張でロボットのようにガタガタになっているわけだ」

「うん。だって、こういう都会の学校って始めてなんだもん……」



 それもそうか。詩乃はずっと福井県で過ごしていたんだ。環境は大きく異なるだろうから、圧倒されているんだろうな。



「落ち着け。まずは校長室へ向かうから」

「……わ、分かった」



 学校に到着し、そのまま校長室へ。

 父上の代わりに俺が挨拶をしなければ。それに、滞在の許可も貰わねば。


 廊下を歩き、窓口で事情を説明。

 校長室へ向かうことに。


 ここまで来ると、俺も妙に緊張してきた。

 校長とはもうずいぶんと会っていないし、卒業以来だ。


 校長室の前に来た。

 ノックをすると、直ぐに反応が返ってきた。



『どうぞ、入ってください』



 扉を開けると、中には校長の奥野がいた――はずだった。


 あれ。


 違うぞ。

 奥野校長は60代の老人だった。だが、そこにいたのは20代後半の男性。わ、若返った……?



「失礼します。お、奥野校長ですよね?」

「その通り、私は校長の奥野です」

「俺が知っている奥野校長は御老体でしたけどね……。どうなっているんです?」


 焦っていると、奥野らしき人物は爽快に笑った。


「はっはっは。私は息子です。校長の座を引き継いだのですよ」

「な、なるほど!」


 そういうことか。紛らわしいっ。

 それにしてもイケメンだな。

 前校長の若い頃にそっくりなんだろうなぁ……と、少し上を見るとそれらしい昔の写真があった。マジでソックリだった。

 納得した。


「そちらが詩乃さんですね」


 校長は優しい目で詩乃を見つめる。

 急に振られて困惑する詩乃。おいおい、ガチガチじゃないか。


「…………そ、そうです」


 だめだこりゃ。

 緊張に支配されている。


「あなたと八一くんの出会い、それと柴犬家のお父様のことも聞いております。いろいろ事件があったようですね」


 そうか、父上があらかたの事情を説明しておいてくれたのか。話が早くて助かる。

 詩乃は少し落ち着いたのか、校長に返答した。


「はい。辛いことが多かったですが、今日から新生活をがんばります」

「応援しています。がんばってください」


 激励の言葉を校長先生からもらえ、詩乃は少し楽なっていた。優しい人で良かったな。

 その後、担任が校長室に現れた。



「はじめまして。内川と申します」



 詩乃の担任の先生は、美人な女性だった。

 おぉ……若くて綺麗な人だなぁ。

 フローラルな香りが漂い、俺は頭がぼうっとした。

 詩乃も美人担任に驚いて、ぼうっとしていた。


 おいおい、挨拶を忘れているぞ。

 俺は肘で合図した。すると詩乃は我に返って挨拶をした。



「は、はじめまして……よろしくお願いします」

「柴犬 詩乃さんね。よろしく」



 挨拶を済ませ、俺は詩乃を内川先生に任せた。



「では、詩乃をよろしくお願いします」

「はい、お任せください」



 こんな美人先生なら、きっと大丈夫だろう。



「行ってくるね、お兄ちゃん」

「がんばれ、詩乃」



 最後まで見送りつつも、俺は心がザワついていた。やっぱり、こう離れると心配だな。



 ◆



 俺は特別に校長室を利用できることになった。


 さすが父上の力は偉大だ。

 おかげで奥野校長と話も弾み、退屈はしなかった。



「なるほど、八一くんは可奈さんという婚約者と……それで事件が」

「そうなんですよ。今はその妹の幸来が入院中で」



 未だに幸来は意識を取り戻さない。

 容体はあまりよくないようだ。

 今日、隙があればお見舞いに行きたい。



「それで詩乃さんのことが、とても心配なのですね」

「誰かに狙われる可能性があります。昨日だって不審なニセ警官が現れたりしたんです」

「それは物騒ですね。ですが、安心してください。学校には多くの先生がいますし、人の目も多い。大丈夫でしょう」



 そうだな、少なくとも大事件が起きることはないはず。登校・下校さえ気をつければきっと……。



 心配になりながらも、俺は一日を過ごした。



 そうして一日が過ぎ――ようやく放課後。



 校長室に詩乃がやってきた。



「お待たせ、お兄ちゃん」

「詩乃! 無事だったか!」



 久しぶりに会えて俺は泣きそうになった。詩乃の無事な姿が見れてホッとした。

 思わず抱きしめてしまった。



「く、苦しいよ~」

「めちゃくちゃ心配したんだ、許せ」

「うん、わたしも凄く不安だった。でも、直ぐに友達もできたから楽しかったよ」

「友達!? まさか男じゃないだろうな」

「安心して、女友達だよ」

「それならいい」



 どうやら、今日一日は充実していたようだ。

 転校生は珍しいらしく、詩乃の愛嬌もあってみんな優しかったようだな。


 無事を確認できたところで学校を出た。

 空はすっかり夕日に染まっている。



「新しいホテルへ帰ろう」

「わぁ、楽しみ」


「けど、その前に外食だ」

「お兄ちゃんの奢り?」

「おう、いいぞ。初登校祝いだ! 好きなお店を選べ」

「わ~い」



 街中を歩いて行くと、目の前からやってきて立ち止まった。



「ちょっといいかな」

「……? あ、あんた……!」



 そこには、あのニセ警官のサイトウがいた。


 な、なんでコイツが!


 逃げなきゃ……!!

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