第38話 男の悪行
事務所へ向かうと、扉が少しだけ空いていた。
中には人の気配。
川辺がいるようだ。
コッソリ覗くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
ヤツは、水口さんの私物を漁り……匂いを嗅いだり、舐めたりなどしていた。更にスマホでその様子を撮影していたりもした。
ま、まさかSNSに投稿しているのか……? ウソだろ……?
「ねえ、お兄ちゃん。どうなの?」
小声で話しかけてくる詩乃。
俺はこのことを水口さんに話すべきか悩んだ。いや、言わなきゃならない。
いったん離れようとするが、川辺の行動がエスカレート。
冷蔵庫にあるペットボトルを取り出していた。
お、おい……あれって水口さんのだよな。
俺は今日ずっと事務所にいたから分かる。
……ま、まさか。
まさか本当にこんなことをする男がいるとは。
川辺はズボンを下ろし、下腹部を露出。そして、水口さんのペットボトルに……マジかよ。それはダメだろう。犯罪だ。
急いで現場を離れ、人気のない場所で俺は水口さんに見たことを話した。
「――というわけだ。信じられないだろうが、さっきアイツがやっていたことだ」
「…………う、うそ。うそでしょ……。だって、川辺さん、そんなことする人じゃないって……思っていたのに」
青ざめ、今にも吐き出しそうな水口さん。
詩乃が水口さんを背中を擦る。
「大丈夫ですか」
「あ、ありがとう……詩乃ちゃん」
きっと、指紋だとかDNA鑑定だとかすれば、一瞬で川辺が犯人だと特定されるだろう。
しかし気になる点があった。
奴は、自分の悪行をSNSに投稿している様子だった。
俺は嫌な予感がしてスマホを覗く。
すぐにSNSを検索してみると、なにやら話題になっているアカウントがあった。
なんだこれは。
【とある事務員の私物を漁ってみた】
【とある事務員の飲み物に――】
【Mさんのカバンの中身で~す】
【裸で遊んでみた!】
【椅子の匂い最高です】
などなど奇行が投稿されていた。
アカウント名は『Mr.Kawaura』か。川辺の裏側という意味で、kawauraということか? いや、そんなことはどうでもいい。
写真は、明らかにこの高校の事務所のものだ。
「水口さん、このことを校長先生に話しましょう」
「そ、そうだね。私……このままだと仕事が辛い……」
泣きそうな表情の水口さん。
彼女の為にも俺は悪と戦う。
大至急で校長室へ向かう。
扉を開けると、そこには奥野の校長がいた。
「どうしたのですか、八一くん。詩乃さんに水口さんまで」
「お話があります」
俺は、事務員の川辺のことを告発した。奴が水口さんの私物を漁ったり、ペットボトルに体液を入れていることなど。
もちろん、SNSの裏アカウントも伝えた。
「……こ、これは間違いなくウチの事務所ですね」
「そうでしょう。妙にバズっていますし、こんなの酷過ぎます!」
「すぐに警察に通報をします。川辺さんは、まだ事務所に?」
「はい、いると思います」
「分かりました。先生たちにもすぐに対応してもらいます」
◆
数十分後、事務室へ向かうと川辺が取り押さえられていた。
「や、やめろ!! なにをする!!」
「川辺さん、あんた最低だぞ」
「私はなにもしちゃいない!」
「嘘をつけ。証拠は自らSNSに上げているだろうが!」
複数の先生が川辺を確保。
こうなってはさすがに逃げられない。
そして、数分後には警察が到着。事情を話すと連行された。
「私は無実だああああああ!!」
最後まで無実を訴えていたが、証拠がありすぎて川辺は逮捕された。結局、罪を認めたのであった。
川辺は、自分の性欲を満たすために若い女性である水口さんを狙ったという。馬鹿な奴だ。
「……ありがとう、八一くん」
「いえいえ、水口さんの為ですから」
泣いて抱きつかれた。今は慰めてやることしかできない。
水口さんはしばらく休むことになった。
こんなことになったんだ。しばらくは安静にしたいよな。
それまでは俺ががんばらねば。
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