第29話 義妹と学校生活

 だが、サイトウは叫ぶだけで俺の横を素通りした。

 な、なんだ……?


「おい……!」

「……あとで後悔させてやる」


「え……?」


 人ごみに紛れて消えていくサイトウ。あとで後悔させてやる?

 なんだか嫌な予感がしてきた。


 学校に侵入された以上、俺は詩乃を常時守らねばならなくなった。もとより、その覚悟だ。


 このことを念のため、校長にも伝えることにした。

 校長室へ向かい、奥野校長に今朝のことを話した。



「用務員、ですか」

「はい。俺と詩乃を狙っている男です」

「まさか変装してくるとは。分かりました。私も先生たちに話しておきます」



 よかった。これで先生方も慎重に対応してくれるはずだ。

 詩乃のことも担任の内川先生が守ってくれる。


 だが、心配には変わりない。



「校長先生、できれば詩乃の教室の近くにいてもいいですかね……?」

「それでは不審がられるでしょう。……ああ、そうだ!」



 校長はポンと手を叩き、なにか思いついたように納得した。



「なんです?」

「八一くん、あなたを事務員として雇うのはどうでしょうか」

「え……?」


「ちょうど事務が足りていなかったのですよ。特別にバイトとして採用します。それなら、あなたは正式に学校内にいられるし、歩き回っても問題ありません」


「マジですか。お金も出るんです?」

「もちろん、労働していただく以上はバイト代が出ます」

「それはありがたいです。俺、社会経験が浅いので丁度いいです」



 自信のスキル磨きにもなるし、バイト代も出るなら稼げて一石二鳥だ。

 自分の稼いだお金で詩乃になにかプレゼントしよう。



「では、さっそく契約を結びましょう」

「お願いします」



 俺は事務員のバイトとして採用されることになった。

 本来ならこんな直ぐに対応してもらえることはないだろう。本当にラッキーだ。

 仕事としてやる以上、がんばらないとな!



 ◆



 あれから俺は事務員として正式に採用された。

 これで学校内を歩いても問題ない。


 とはいえ、あんまりウロウロするのも……慣れないというか、まだ心の準備が出来ていなかった。


 今はお昼くらいが限界だ。


 スマホで詩乃に連絡をした。



 八一:お昼会える?

 詩乃:うん! 校長室へ行けばいい~?

 八一:そうしてくれ

 詩乃:了解~



 しばらく待つと詩乃が校長室にやってきた。



「来たか、詩乃」

「お待たせー。あれ、お兄ちゃん。なにかいいことあった?」

「顔に出てたか。実はこの学校の事務員に採用された」

「え! 本当!?」


「校長先生の計らいでね。おかげで詩乃と同じ学校だ」

「わー! それ凄いね。これでいつでもお兄ちゃんと一緒だ~」


 よほど嬉しかったのか、詩乃は抱きついてきた。

 ここまで喜んでもらえると俺も嬉しいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る