第19話 また寝取られた…

 あれから昼になって、俺は久しぶりの大学へ。

 あんまりサボると父上がうるさいからな。


「詩乃。幸来。俺は行ってくる」


「お兄ちゃん、本当に大学生だったんだ」

「うん、あたしもそう思った」


 二人とも俺が大学生であることに、ようやく納得したようだ。なんでだよっ!


「残念だが、また後で。二人とも一緒に行動するように」


 あとメイドも三鷹さんにも、詩乃と幸来を監視するように言っておいた。門も閉めておくように強く言っておいたし、第三者に侵入されることはないだろう。


 それでも心配だけど――。


 しかし、もうそろそろ行かねば。



 手を振って別れ、俺は邸宅ウチを出た。



 目指すは慶應義塾大学。



 ◆



 講義を終え、急いで大学を出た。

 なんだかんだ十七時を回った。

 詩乃と幸来が心配だ。早く戻らないと。


 駆け足で邸宅へ向かう。


 だが、俺の方へ向かってくる人影があった。……ん、なんだ?



「……見つけた」


「え」



 ブンッとなにやら包丁らしきものが俺の頬を掠めた。


 な……なんだ?



「八一くん!!」


「うああああああああ、可奈!!」



 そこにいたのは可奈だった。

 な、なんで大学ここに!



「……どうして無視するの」

「どうしてって、可奈こそ大学にいたのか」

「当たり前じゃん。私だって同じ大学だもん。だからね、この時をずっと待っていたの」


 ブンブンと包丁を振り回す可奈。

 無視し続けた結果がこれか。

 可奈を逆上させてしまったようだ。


 けど、これではまた逆戻りだ。



「おい、やめておけ。また警察のお世話になるぞ」

「もうね、八一くんをぶっ殺すしかない……」

「ちょ、おい!」



 構わず包丁を向けてくる可奈。俺はギリギリで回避していく。……あっぶね! マジで突き刺さるところだった。


 てか、病み過ぎだろ!!



「なんで、なんで私に振り向いてくれないの! こんなに好きなのに!!」

「凍夜に浮気したからだろ。反省しているのか!?」

「私は被害者よ。なんで分かってくれないの……」

「もういい、分かった。可奈、俺たちは終わりにすべきだ」


「そんなこと言わないで!!」



 また包丁をブンブン振り回してくる可奈。もう会話は通じないのか。



「円満に終わるべきだ」

「嫌だ……嫌だ。こうなったら、八一くんを殺して私も死ぬ!」



 もう無理だ。話すだけ無駄だ。

 俺は背を向けて逃げた。

 だが、可奈はしつこく追いかけてくる。


 くそっ!!



 逃げて、逃げて、逃げまくった。



 けれど、それでも可奈は追ってきた。どこまで追いかけてくるつもりだ!!



 とうとう家まで来た。



「……はぁ、はぁ」



 邸宅の中に入ってしまえば、こっちのモノだ。門を直ぐに閉めてしまえば――しまった。門は閉めっぱなしだ。

 開くまでに時間が掛かる。



「や、八一くん……追いついたわ」


「か、可奈……やめろ。やめてくれ……!!」



 包丁が俺の胸に突き刺さった。


 絶望的な激痛で俺は直ぐに意識が飛んだ。



 あ……だめだ、死ぬ。



「やっとこれで一緒になれるね」



 俺の鮮血を浴びながらニヤリと笑う可奈。その後、何度も刺してきた。



 ……終わった。



 ◆



「うああああああああああああああああああ!!!!!!」



 叫んで目覚めると、まだ講義中だった。

 ――って、俺ってば寝ていたのか。



「おい、そこのキミ。講義中だがね」

「す、すみません……」



 みんなから笑われ、俺は赤っ恥をかく。くそう、可奈のせいだぞ!!


 どうやら夢を見ていたらしい。


 リアルな夢だったな。



 それから、やっと邸宅へ帰れた。もちろん、帰りは可奈に警戒したが、彼女の姿はなかった。……ふぅ。



 無事に帰宅すると、門が開いていた。



 え……なんで。


 三鷹さんには閉めるように言ったはずなのに。それとも、誰か出掛けたのか?



 中へ入って玄関まで向かう。

 すると違和感があった。



 な、なんだ……。



 中でなにか聞こえる。



『…………はは、最高だなァ!!』



 この声、まさか!


 俺は扉を開けた。


 すると、そこには凍夜がいた。



「お、お前……」


「よう、来たか。八一!」


「なんで!!」


「お前ば馬鹿だな。俺の親父は落ちぶれたとはいえ、それなりの権力はある。警察の上層部に掛け合ってくれたよォ! おかげでこの通り、釈放されたぜ!」



 凍夜が釈放されたことにも驚いたが……しかしそれよりも。



「幸来……嘘だろ」


「お兄さん……ごめんなさい。あたし、凍夜さんに襲われて……」



 壁に押さえつけられ、背後から襲われている幸来。

 暴力を受けたのか頬に傷を負っていた。



「八一! 幸来はよぉ、もともと俺の婚約者だったんだぜ。なら、犯しても問題ないだろ!! ほぉら、最高に締まりがいいぜ!!」



 パンパンと強引に腰を振る凍夜。

 くそ、くそ、くおおおおおおおおおお!!



 また寝取られた・・・・・・・……!



 コイツ、コイツだけは許せん!!



「凍夜てめええええええ!!!」

「馬鹿が! 俺がこんな無防備で無警戒なわけねぇだろ!!」



 陰から二人の大男が現れた。

 ガードマンを雇っていたのかよ!!


 サングラスをかけた屈強な男が二人。くそ、なんでこんなことになるんだ。


 そんな中、ボロボロになった父上が現れた。



「や……八一。すまない。幸来ちゃんを奪われた……」

「ち、父上!! どうした、その姿!!」

「幸来ちゃんを必死に守ったのだが、男達に……暴行を受け……。だが、安心しろ。詩乃ちゃんだけは……逃がした……」



 そのまま意識を失い倒れる父上。


 そんな、うそだろ!


 でも、詩乃は守ってくれたのか。

 いったい、どこにいるのか分からないけど、ひとまず安心だ。



「あははは! 八一、お前はもうおしまいだ! 次はあの詩乃って子もお前の目の前でブチ犯してやるよ。その前に幸来に一発お見舞いしてやるがなァ!!」



 悪魔顔で凍夜は、絶頂を迎えていた。


 コイツ……幸来の中に……!


 幸来はそのまま倒れ、目も死んでいた。……だめだ、目を開けたまま意識を失っている。こんなのは人間のやることじゃない。


 凍夜は悪魔だ。


 コイツは殺す!!



「凍夜、あとでお前をぶちのめしてやる」

「やれるものなら、やってみな!!」



 その前にガードマンを二人をなんとかする。

 大丈夫だ。


 父上がいざという時に隠してある“武器”を使う。


 きっといつか資産を狙われると予想していた父上は、玄関のある場所に登録済みの“刀”を隠してあった。あれを使う――!

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