第37話

 情報をまとめることができないまま、僕らは山根さんと対峙した。

 

「やあ、今日ぶり。ここは人生の先輩である私が奢ってあげるから好きなも頼んでね」

 

 何故だろう。もう陽は沈んでしまったのに山根さんに後光が差しているように見えていた。

 

「あのそれで……僕のスマホは誰が交番に届に来ていたのですか?」

 

「本当は機密情報だから教えたりしたら私が犯罪者になるんだけど……端的に言えば、君の彼女の名前じゃなかった」

 

 あまりの衝撃に津川さんが注目を浴びるくらいの大きな声を出した。僕は何が起こったのか分からず頭を抱えていた。

 

「持って来てくれた人の名前を訊いてもいいですか?」

 

「君前から思っていたけど、積極的だよね……わかったからそんな顔しないで……私としても市民を守る義務がある。無関係の人の名前を簡単には教えることはできない。今から話すことは、君らは誰にも言わずに墓場まで持って行くと約束できる?」

 

「はい、約束します!」

 

 津川さんは力強くそう言った。津川さんに続いて達川君も大きく頷いた。

 

「僕も必ず誰にも言いません」

 

「分かった。では本題だけど、瀬戸君、君のスマホを持って来た人物は“坂田夜織”と言う人物だ。年齢は君らより2つ上。大学を卒業以来仕事をしていないそうで、三間市の実家で母親と暮らしているそうだ。免許証を所持していて本人確認も取れた。残念だけど、教えられる情報はここまで。これ以上は坂田さんの方に迷惑がかかるからね」

 

「そうですね……」

 

 僕のスマホを拾った人は沙也加じゃなかった。なら、挟まれていたあの紙は何だったんだ。それにロックを変えられていたのも変だ。何故坂田と名乗る人物は僕のスマホのロックを変えたんだ。沙也加の行方を追う助力になると思っていたが、逆に謎が増えてしまった。

 

「また何か、君の彼女についての情報があったら共有するよ」

 

「よろしくお願いします……」

 

 有益な情報は得られないまま山根さんとは別れた。時間も時間だしもう僕らも解散しようかと達川君と話していると、津川さんがそれを拒んだ。

 

「晴翔。今から晴翔のアパート行かない?」

 

「え⁉︎ そ、それは……どう言う意味ですか……」

 

「また部屋汚しているの?」

 

「ごめんちょっとだけ……」

 

「まあ今はいいわ。それよりも2人に話したいことがあるから、アパートに向かって」

 

「は、はい……」

 

 僕らは達川君の運転する車で達川君のアパートへ向かった。達川君の汚部屋は過去にも何度も見ているから今更何位も驚くことはないと思っていたけど、過去1番に汚されているその部屋を見て僕は足が竦んだ。部屋の中に入ることを体が勝手に躊躇ってしまっていた。津川さんも頭を抱えながらため息を吐いていた。それから何があったかは、言わずもがな、あまりの光景に僕は1人で外に出ていた。5分くらい経って津川さんに呼ばれようやく僕は達川君の部屋に入ったのだった。

 達川君は1人片付けをしながら津川さんの話を聞くという、2年くらい前にも同じようなことをしたのをまた繰り返していた。

 

「それで、大事な話をするけど、晴翔ちゃんと聞いててね」

 

「聞いてますって……」

 

 ちょっと達川君が可哀想に見えていた。だが、汚部屋にしたのは達川君だから、津川さんには進言はできないな。

 

「瀬戸君のスマホを拾ったのはやっぱり沙也加だと思うんだよね」

 

 津川さんの言葉に驚きすぎてしばらくは開いた口が閉じなかった。

 

「でも山根さんは別人だって……」

 

「私も初めは全く違う人だなと思ったのだけど、名前に変に違和感があったの」

 

「変に違和感って?」

 

「沙也加の名前に何でか似ているなって思って、その名前を聞いてからずっと考えていたの。山根さんと別れた辺りで閃いてしまったの“サカタヤオ”の文字を入れ替えると“タオサヤカ”になっていることに。これは偶然じゃない。沙也加が意図的にしていること」

 

 僕の口は再び閉まることを忘れていた。

 

「でも、免許証で本人確認が取れたって山根さんが言っていたぞ。流石に田尾がそれを偽造するのは困難じゃないか?」

 

 遠くから達川くんも参加した。

 

「私もそこは引っ掛かっている。沙也加が1人でそこまでのことはできないと思う。必ず誰か協力者がいる。その人の正体を突き止めない限りは沙也加には辿り着かないと思う」

 

 沙也加に近づいたのか遠ざかったのか、問題は増えるばかりで解決しなかった。

 

「津川さん的には沙也加の協力者に心当たりはないの?」

 

「沙也加と仲の良かった友達に当たってみたけど、誰も沙也加が行方不明になっていることも知っていなかった。協力者は私の知り合いにはいないと思う」

 

「達川君から見てはどう?」

 

「何で俺が?」

 

「津川さの知らないところで、他の誰かと仲良くしていたりしているかもって……多分ないと思うけど」

 

「う〜ん……田尾が真琴以外と仲良くね……」

 

「私に気を遣わなくていいから言ってみて」

 

「あ! そう言えば、何度か校舎裏のところで如月さんと話しているとこを見たことがあるな」

 

「それっていつごろ?」

 

「えーっと……確か、高3の春から夏にかけてかな」

 

「それならきっと恋愛関係じゃないかな。あの子ってあの変な部活にいたし」

 

 あの変な部活、気になるけどここは遮らないほうがいいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る