第11話

 沙也加も本当は、どこかのタイミングで僕に助けを求めていたのかも。僕がそのメッセージに気づかずに見逃していたのかも。

 考えれば考えるほど、自分の愚かさに気付かされ、自責の念に駆られる。

 

「ごめん……」

 

「いいよ。何を信じるかなんてその人の自由なんだから。さっきも言ったけど、これは単なる私の考察であって妄想に近いかもしれない。でも、可能性が全くないわけじゃない。どんな小さい可能性でもその藁に縋らないとこのままじゃ見つからないと思うんだ」

 

「そ、そうだよね……ごめん……」

 

「だから謝らなくたって……もう、そんなに落ち込まないでよ。これも可能性の話だけど、2人に質問。人目を避けるなら何曜日に行動する?」

 

「うーん……俺だったら平日かな……もっと絞るなら火曜、水曜、木曜の3日かな」

 

「それは何で?」

 

「単に、土日はどこも人が多いから狙うなら平日だと思ったから。月曜は祝日が1番多いってのもあるけど、会社から好きな日を休みにできるって言われた時、3連休にしたいじゃん。そうすると必然的に月曜か金曜になるし、最近、金曜日は早く帰ろうとかあるから、祝日も少ない火曜、水曜、木曜かなって。単純すぎるかな?」

 

「いや。それでいいと思うよ。僕もそれを聞いて納得したよ」

 

「確かに、ハッピーマンデーの影響で月曜日に祝日が多くなって、プレミアムフライデーの影響で金曜日に買い物をする客が増えた。そう考えるとその3つだね。そういえば、沙也加って車運転できる?」

 

「僕の知っている沙也加は運転できない。だから、大学に近いアパートを借りて自転車で通学していた」

 

「こっそり免許をとっている可能性もあるけど、大学に通いながらだったら自動車学校に通うのは難しいよね。そう短時間では取れない。まだ免許が取れていないのだとしたら、今はまだ自転車で移動している。自転車なら重たい荷物は大量には運べない。それに、移動も含めた昼間の買い物時間はたったの1時間。通えるスーパーは限られる。沙也加の実家から自転車で片道20分以内に通えよスーパーやお店はいくつある?」

  

「ちょっと待ってて……全部で5つだ」

 

 達川君はすかさずスマホを取り出して、スマホに内蔵されているマップを使って近場のスーパーを割り当てた。

 

「1番近いスーパーは田所さんが通っているスーパー。ここのスーパーは火曜日が確か、ポイント10倍だから人が多いんだよね」

 

「そうだけど、俺が田尾の立場だったらここには行かないな」

 

「何で?」

 

「だって、昼間のレジ係って大半がパートの人だろ。パートをするのにそんな遠くの職場なんて選ばないだろ」

 

「そっか。近所に住んでいる人の可能性があるのか。それだったら、1番遠いスーパーは?」

 

「距離が8・5キロ。全力で漕げば何とかなるくらいだから、ここも消して大丈夫だと思う」

 

「信号のこととか考えたら思った通りには行かないからね。それを考えると。3番目と4番目に近いお店が怪しいね。4番目はドラッグストア。薬から日用品まで数多く揃えてあるお店。時間がなく1つの店舗で買い物を終わらせるとしたらもってこいの店。そしてこの店は水曜日がポイント5倍で人が多い。人目を避けるのなら、火曜日か木曜日。買い物頻度は1週間か少なくとも2週間。どちらにしても来週は現れるんじゃないかな」


 津川さんと達川くんは淡々と話を進める。着いていくのがやっとだった僕は、2人には悪いけど、話を止めた。

 

「ちょ、ちょっと待って。確かにそのドラッグストアに買い物に行くのならそうかもしれないけど、2番目に近いスーパーに行くって可能性はないの? それに昼に動く想定で話を進めているけど、夜に動くってことはないの?」

 

「あるよ。私が沙也加だったら確実に夜に動くね。夜の方が大学生が買い物に来てもおかしくないしね」

 

「だったら何で?」

 

「沙也加の行動を制限するため」

 

「それって、どう言うこと?」

 

「沙也加と晴翔って学部は違うけど、同じ大学だから晴翔がもう春休みに入っているってことは知っていると思うんだよね。私たちももうすぐ春休みに入ることも。私たちが例え3人だったとしても、いつも行っているお店にいたら中には入れないでしょ。朝から夕方まではどこのお店も人が多いから「この人ずっとここのお店にいる」って気に留める人は少ないと思うんだよね。流石に夜までずっといたらお店の人に注意されそうだけど。そうやってお店に近づけさせなかったら、短期間だけど行動を制限できると思うんだよね。私の作戦としてはこう。朝から夕方まで3つのお店を順番に周って沙也加をお店に近づけさせないようにする。昼間は行動できないと感じた沙也加は夜に買い物へ行く。夜自転車を漕いでいると目立つと思うんだ。それを尾行すれば、沙也加に会える。もし瀬戸君が協力してくれるなら、沙也加をもっと追い込める。もちろん強制はしないよ。どう?」

 

 誘いは嬉しいけど、まだ大学で授業がある。でもそれは、僕だけじゃない。津川さんも同じなはず。津川さんはその授業を捨ててまで沙也加を探そうとしている。それなのに僕は大学のことばかり考えて、沙也加のことなんて考えられない人間だったのかもしれない。沙也加はそれを突然いなくなってしまったのかもしれないな。

 でも、このままでいいわけがない。

 覚悟を決めろ僕。大学の授業がどうした。単位はギリギリ取れているんだから、1回くらいでなくったって平気なはずだ。

 

「わかった。僕も協力する」

 

「ありがとう。これでやっと沙也加に会えるね」

 

「うん。会って言いたいことがたくさんある。何を言うかも考えておかないとな」

 

「その調子だぞ瀬戸君。絶対に沙也加を見つけようね!」

 

「うん!」

 

「それじゃあ。明日の行動についてだけど、沙也加は動かないと踏んでアパートの隣人さんに会いに行くのはどう?」

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