第10話

「も、もしもし如月さん……」

 

 今まで見てきた津川さんでは想像もつかないほど恐怖に怯えていた。

 

「いやー……沙也加、最近どうしているかなって……そうそう、元気なさそうな様子だったから、学校ちゃんと行っているのかなって思って……あ、ううん……大丈夫……特に問題ないよ……うん、ありがとう……じゃあね」

 

 津川さんは聞いたことないくらいの深く長いため息をついた。

 

「あの子と話すの疲れる……」

 

「そうかな? 男子からしてみれば話しやすい子だったけどな」

 

「晴翔。あんた騙されているよ」

 

「そ、そうなのかな……」

 

 気持ちぼっちだ。

 

「あの、か、関係ない話だけど、その、如月さんってどんな子なの?」

 

「ああ、そうだよね。会ったこともないからどんな人か知らないよね。えーっとね、端的に言えば気持ちの悪い子。全てを見透かしたようなことを言うし、あなたの全てを知っている。って言われているような気がして、話してて気味が悪いんだよね」

 

「それは真琴の主観的意見だけど、客観的にみれば、明るくて頭も良くて運動神経も抜群で、学校の人気者でクラスでもいつも中心の人物だったよ」

 

「へえー。じゃあ、モテてたの?」

 

「いや。うちの学校にはもう一人完璧な女子がいてその子はめちゃくちゃモテてたな」

 

「ふーん。へえー。碧ちゃんみたいな子がタイプなんだ」

 

「いや、ち、違うって!」

 

「ふーん。へえー」

 

 ああ、どうしよう。僕が余計なこと言ってしまったせいで、2人の仲を険悪にしてしまった。

 

「確かに、山河内さんは美人で完璧だったよ。でも、それがなんか逆に怖くて。裏の顔がありそうで手なんて出せないよ。それに今は大智がいるんだから、狙えないだろ」

 

「つまりは私くらい欠点がある方がいいと」

 

「そ、そうじゃないよ……」

 

「わかってるよ。冗談。ありがとう」

 

 達川君は、顔を赤らめてあからさまに照れていた。

 僕は一体何も見せつけられているんだろうか。

 

「は、話が逸れてしまったね。如月さんのと電話で得た情報を今まで集めてきた情報と擦り合わせて沙也加の行動を特定しよう」

 

 真面目な話をしているから言うのをやめたが、津川さんも頬を赤くして照れていた。

 本当に僕は何を見せつけられているんだろうか。

 

「もう一度最初から情報を整理すると、21日の20時ごろ。沙也加の実家の前に救急車が停まっていた。それから約2時間半後。22時36分に瀬戸君が送った(おやすみ)ってメッセージには既読がついたけど、22時42分に私が送った(沙也加はどう思う?)ってメッセージに関しては未読のまま。22日に朝8時ごろ。アパートの隣人が部屋から出ていくのを目撃。ただ、向かったのは大学ではなく、実家。その実家で何をしていたのかは不明。15時ごろ。買い物帰りの田所さんが沙也加が出かけている姿を目撃。その時の沙也加は人目を気にしているようでキョロキョロしていたらしい。時間は飛んでそに日の夜中。早寝早起きの沙也加の部屋の電気がついていて、何かをしていた。23日も22日と同じような行動をとっている。24日の12時ごろ。田所さんがスーパーモーニングで沙也加の妹、夏希ちゃんらしき人を目撃。その日の朝、8時ごろ、たまたま出会した沙也加に引っ越すと言われ、アパートの隣人さんは菓子折りを受け取る。25日。12時ごろに田所さんがスーパーモーニングで沙也加を目撃する。その時に話しかけようとしたらしいけど、ひどく疲れている様子だったから、躊躇ったらしい。26日は目撃証言なし。27日14時ごろ。買い物に出かけようとしていた田所さんが、沙也加のお母さんを久しぶりに見たらしい。お母さんも疲れきっている様子で話しかけられなかったらしい。それに前に比べて随分と細くなっていたって。28日の14時ごろ。買い物に出掛けていると、2階の窓から睨みつけるように見てくる沙也加を見たらしい。それ以外は何も……それ以降、あの家から人が出ていくのも入ってくるのも見なくなったらしい。そして今に至る……か。もっと情報が欲しいね」

 

「それにしてもなんで途中から見なくなったんだ?」

 

「それは多分、こう言うことだと思う。田所さんっていつも14時から買い物に行っているでしょ。平日のお昼から夕方にかけてって再放送のドラマをよく見ていて、たまたま14時からは好きなドラマがなくてその時間に毎度出かけているとしたら。28日に沙也加がとっていた行動もそれで納得いくし。見なくなったんじゃなくて、意図的に見られない時間に行動していたってこと」

 

「で、でも……彼氏の僕がこんなことを言うのは違うと思うけど、沙也加ってそこまで頭が回る人? 今まで付き合ってきた限りでは、こんなこと到底できると思えない……」

 

 やはり僕の発言は間違っていたようだ。

 2人は黙り込んでしまった。

 

「……実は私も。でもそうでなきゃ納得がいかない。私たちの知っている沙也加ではこんなことはできない。それはそう思う。だけど、誰にも何も言わずにいなくなるなんて、私たちの知っている沙也加じゃない。その時点で沙也加らしくない行動をとっている。今までの考察も全て私の勝手な意見だよ。瀬戸君が信じたくないって言うのならそれでもいいよ。この考察は所詮は私の自己満足だよ」

 

 津川さんを怒らせてしまった。

 僕はいつもこうだ。せっかく協力してくれた人に突き放すようなことを……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る