第30話

 次の日も同じように、僕は1番近場のスーパー。津川さんと達川君は、今日は3番目に近いお店に待機した。だが、いつまで待っても沙也加は現れなかった。津川さんたちからの連絡もなかった。

 津川さんは他のお店も回ってみると言うもんだから、僕も手持ち無沙汰に待機しているのは我慢できず、沙也加の実家に向かってみると、津川さんに報告した。津川さんからは(分かった)と連絡が来て、僕は沙也加の実家に向かった。昨日来た時と実家は何も変わっていなかった。しばらく実家の前で待機していたが、家から誰か出てくるなんて事はなく、完全な無駄足に終わった。

 達川君は沙也加の実家まで車を動かしてくれて僕はその車に拾われて、その場を後にした。

 次の日も同じように、僕は1番近場のスーパー。津川さんたちは今日は3店舗を順番に回っていくらしい。僕はもうそろそろ、この場所で待機しているのが不審で不安でもう感情を無にすることしかできなくなっていた。だから、津川さんが順番に回るのならと、僕も沙也加の実家とこのスーパーを行き来して、道中も探しながら移動するのならと、津川さんの了承を得て沙也加の実家に向かっている。相変わらず遠目からでも見てわかる、窓にシャッターをしているのが。

 実家に近づいていくと、見覚えのない看板が沙也加の実家の前に置いてあった。僕はすぐさま津川さんに連絡を入れた。僕の連絡を聞いて駆けつけた津川さんと達川君。2人はその看板を見てその場に座り込んだ。だって看板にはこう書かれていたんだ。


 [売物件]


 せっかく順調に進んでいると思ったのに、まさかここで振り出しに戻されるとは……もう僕らになす術はないのだろうか。

 2人は落胆しているが、僕はまだ可能性を捨てきれずにいた。ただ、僕が縋りたいのは藁のようなもので協力が得られるのかわからない。津川さんと達川君の様子から、望みは薄い。だって、それは津川さんの嫌いな如月さんだからだ。

 彼女は前に話した時にこう言った。「いずれあの家は売りに出される」と。その言葉の通りになった。本当に家は売りに出されて、沙也加の行方は全くわからなくなった。如月さんは本当に見透かしたように話をする人だ。2人の話を俄かには信じられなかったが、僕もよく分かった。確かに達川君の言うように、そんな先を読める如月さんが、あんな簡単なミスをするとは思えない。沙也加の父親の死は、僕らにわざと伝えた。気づいてもらうために、わざとあんな簡単な演技をしていた。でも何故だ。津川さんと達川君の話が正しいとしたら、僕も実感じたが、如月さんはストレートにものを言うタイプ。あんなに濁して誤魔化す理由がないな。

 津川さんがイラつくのもわかる。どれだけ考えても答えに辿り着けそうにないや。そうなれば、また本人に訊くしかない。


「ねえ、津川さんに達川君?」


「……どうしたの?」


 津川さんの顔を改めて見ると、八方塞がりでもうなす術がないと言う顔をしていた。


「もう一度如月さんから話を聞くことってできないかな?」


 津川さんは余計に落ち込んだ。

 そんな津川さんの代わりに達川君が答えてくれた。


「多分できない。あの様子の如月さんなら、多分だけど、もう会ってくれる事はないと思う」


「どうしてそう思うの?」


「経験上って曖昧な根拠しかないけど、如月さんって逃げるのも得意だから、今回のことで僕らを避けるようになっていると思う。竜也も今回ので分かっただろ、如月さんの先見の明を。如月さんを探そうにも絶対に見つからないよ。如月さんはそんな人間だ。彼女のしていることは誰にもわからないんだ」


 せっかくの可能性なのに、やはり望みは薄いか。


「学校で待ち伏せとかは?」


「それでも会えないと思う。さっきも言ったけど、如月さんは先見の明がある。僕らより先に手を打っていると思う」


「電話をかけてみるのは?」


「多分だけど、電源を落としていると思う。連絡するだけ無駄かな」


 やはり如月さんは何かを知っているのだろうか。そうでなければそこまでして、徹底的に僕らを避ける理由が見当たらない。どうにかして連絡を取れたりできないものなのか。

 僕には1人心当たりのある人物がいる。


「弥生に言って、如月さんと会えないか?」


 僕としては画期的な発想だと思ったが、達川君の反応はイマイチだった。


「弥生さんと如月さんがどんな仲なのかよく知らないけど、如月さんに限ってそれはないんじゃないのかな」


 突然津川さんは立ち上がった。


「あの人ならなんとかなるんじゃないかな? 晴翔よく話してたじゃんか。上野君」


 それでも達川君の反応はイマイチだった。


「確かに、一也ならなんとかしてくれそうだけど、彼は高校を卒業してから音信不通なんだよね……堺さんがいたらな……真琴こそ、山河内さんに連絡してみるのは?」


「多分ダメだと思う。山河内さん正直な子だから、如月さんが断れば無理に会わせようとはしてくれないよ……ないものねだりだけど、真咲ちゃんがいてくれたらな……」

 

「ないものねだり」つまりは如月さんは仲のいい友人を失っているのか。これは僕が詳しく聞いていい話なのだろうか。いや聞かない方がいいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る