第17話
「え! ど、どう言うこと?」
「火曜日の具体的な作戦はこう。どこのお店に沙也加が来るかはわからないけど、私と晴翔は例のドラッグストアに張り込もうと思うの。もし、沙也加が現れたら瀬戸君にすぐに連絡する。私たちは車で沙也加を追いかけるけど、土地勘がないから狭い道とか歩行者と自転車しか通れない道とか入られたら追跡はそこで終わる。そこまで警戒してる沙也加なら、こっちの様子を伺ってすぐに来るのじゃなくて一旦家に戻るんじゃないかと思うんだよね。そこを瀬戸君が捕まえる。正直この作戦は2回くらいが限界だと思う。もし失敗したなら会える可能性はうんと下がると思う。だから絶対に1回で成功させよう」
「うん!」
「それよりも明日だね。私、警察署に行くのなんて小学生以来だよ」
「まあ、普通の人はあんまり用事ないよな。俺は免許証の住所変更の時にお世話になったけど、それを除けば道端で1千円拾った時以来だな」
「そう言えば、行方不明者届ってどこの部署に行けばいいんだろう?」
なんせ警察署に行くのなんて初めてだから、何をどうしていいか何もわからない。
スマホで調べてみると、生活安全課に行けばいいと書いてあるのがほとんどだった。ありがたいことだが、中の構造なんてわからないからどうせ悩むんだろうな。
「俺も初めて行った時どこに行けばいいかわからなくて挙動不審になっていたら、入ってすぐの案内に人に声かけられたから、その人に聞けばなんとかなるんじゃないか」
それは有力情報。これでなんとかなりそうだ。なんせ初めてだから、僕も絶対に挙動不審になる。そうなる前に自分から案内の人に訊こう。そうすればギリ不審者じゃないと思われる。
「それよりも、このあとどうする?」
「警察署にも行けないし、田尾さんも動きはなさそうだしすることないな」
「沙也加の実家近くを聞き込みしたいけど、日曜日に押しかけるのもな」
「それじゃあ、沙也加の実家に様子だけ見に行って解散するのは?」
「いいねそれ! 瀬戸くんたまにはいいこと言うね!」
「そうと決まれば行くか」
「あ、ごめんね……達川君の負担ばかりで……」
「大丈夫、大丈夫。運転好きな方だから」
達川君の優しさで、沙也加の実家に再び行くことになった。
今回は沙也加に会える可能性は限りなく低い。本当に様子を見にくだけになる可能性もある。それでもいい。もしその家に沙也加がいるのなら、僕の声を聞いてくれるそれだけでいい。
沙也加の実家に着いたものの、昨日来たばかりだから昨日と全く同じ風景が広がっていた。
「津川さん……今回は僕らも中に入っていいかな?」
「うん。いいと思うよ。不法侵入で訴えられる前に勝手に入っておこう」
それは大丈夫なのか。普通に大丈夫じゃない気がする。まあ、前回のように、入り口付近で不審者になりながら立ち止まっているよりかましか。
「全部の窓にシャッターがしてあるから、何もわからないね」
「郵便物も昨日と何も変わりない。日曜日だから当たり前か」
津川さんに案内されて僕らは家の裏手に回った。
「あそこ……あそこの部屋が沙也加の部屋だった……」
津川さんが2指差した2階部分もらシャッターが閉められていて外からは何もわからない。
それでもいい。今日はいるかもわからないさやかと話をしに来たんだ。
「沙也加! 何があったのか聞かないから、顔だけでも、いや、声だけでいい聞かせてくれ! 声を出すのが嫌だったら、メッセージの返信をしてくれるだけでいい。沙也加、僕はもう1度君に会いたい。沙也加と会って話がしたい」
これでいい。今日はこれだけでいい。いつか何事もなく沙也加が顔を出せるように、準備しておくのが僕の役目だ。
「変わりないから今日は帰ろうか」
「そうだね。達川君もありがとう」
「いいってことよ」
「バイバイ沙也加。また来るね」
津川さんは別れの言葉を口にした。僕はその言葉を言う勇気がない。だから……
「沙也加また来るね。今度は顔くらい見せてよ」
この言葉が沙也加に届いているといいな。いつ沙也加が帰ってきても大丈夫なように僕の懐は常に空けておく。
「行こっか」
「うん」
僕らは沙也加の実家を後にした。
今日だけは迷惑はかけられないと、達川君のアパートではなく2人を説得して僕の実家まで送ってもらった。2日振りに実家へ帰ると、今日はいないと思って晩御飯を用意するつもりがなかったと……その夜の僕の晩御飯は、冷凍うどんになった。親だけでなくうどんまで冷たかった。
晩御飯を終えて、何気なく部屋に戻った時のことだった。
沙也加にメッセージでも送ろうとトーク画面を開くと、過去に送って未読だったメッセージに既読の文字がついていた。
居場所が突き止められたわけでも、メッセージが送られてきたわけじゃないのに、単なる安否確認に過ぎないのに、見つかったかのように嬉しかった。嬉し過ぎて自分のベッドで飛び跳ねていたら、ベッドから転落し、親にはうるさいと怒鳴られた。
今日は何気に災難な1日になった。
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