第18話

 昨日は嬉しいことが起き過ぎて、逆に今までに経験したことないくらいスッキリとした朝を迎えることができた。

 今日は重要な1日だ。津川さんと達川君と共に警察署に行く。やましいことがあるからではない。沙也加の行方不明者届を提出しに行く。

 沙也加に会えるためなら僕はなんだってする。早く沙也加に会いたいな。

 朝11時ごろ。僕のスマホに1件のメッセージが届いた。達川君からのメッセージだ。僕の実家に到着したようだ。

 

「2人ともおはよう」

 

「おはよう」

 

「おはよう。乗りな」

 

「ありがとう」

 

 やましいことではないと何度自分に言い聞かせても、変に緊張する。何せ警察署なんて入ったことないんだから。

 やはり、いざ目の前にすると緊張の状態が変わるな。

 足を前に出したいのに、足が言うことを聞かない。震えなんてものを通り越して体が動かない。

 

「竜也、緊張しているのか?」

 

 達川君は僕を笑っていた。

 

「逆に何で緊張してないの?」

 

「何でって? だって悪いことしていないから」

 

 至極真っ当な意見だ。

 もちろん悪いことはしてないけど、病院で白衣の医者を見た時のように緊張するのが普通ではないだろうか。

 

「ほら、無駄口を叩いていなで早く行きましょう」

 

 津川さんの1言で僕の固まっていた足は動き出した。

 警察署の中は思ったより暗く、その薄暗さが余計に恐怖心を煽っていた。壁を見れば指名手配犯のポスターが貼ってあり、ほぼ暗闇と化しているどこに繋がっているのかもわからない廊下にはポールパーテーションで道を塞がれていた。

 室内でも明るい方向へ進んで行くと、半円のカウンターに女性が1人。この人が達川君の言っていた案内の人か。

 津川さんはその女性に話しかけた。

 

「すみません、生活安全課はどこにありますか?」

 

「はい、生活安全課は後ろの廊下を真っ直ぐ進んでいただいて、左手側にあります。後ろを見てもらうと、会計課のプラカードが見えると思います。その隣にあります」

 

「ありがとうございます」

 

 言われた通りに道を進んでいくと、生活安全課のプラカードが現れた。

 津川さんが生活安全課の前で「すみません」と一声かけると、1番手前に座っていた女性が僕らの元へやってきた。

 ここからは僕の番だと思われたが、ここからの手続きも津川さんがしてくれるらしい。対面式の席に移動し、津川さんは僕の代わりに椅子に座ってくれた。僕と達川君は背後に用意してくれた椅子に座った。

 

「それでどうしましたか?」

 

「あの、私の友人……いえ、彼の恋人が行方不明になりまして」

 

「失礼ですが、恋人だと証明できるものはありますか?」

 

 津川さんは僕の方を見つめていた。これはつまり、写真を出せと言うことだ。

 僕はスマホのロックを開いて、全ての写真を見せつけた。

 

「あの……これで大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ。では、手続きの方に移させてもらいます。こちらの用紙の、行方不明者の住所、電話番号、職業、学生の場合は高校、大学名もこちらの括弧内にご記入ください。そして、行方不明者の名前、生年月日、年齢、性別は当てはまる方を丸で囲ってください。今度は下の方に移りまして、この書類を提出するご本人さんの住所、職業、氏名、続柄の部分は恋人でしたら空けておいてください。下の括弧に、行方不明者との関係と書いてあるその後ろに恋人とお書きください。電話番号は連絡時に必要なので、書き間違いはないようにお願いします。最後に前後しますが今日の日付、2023年3月5日とお書きください。書き終わりましたらご一報ください」


「はい」

 

 受付をしてくれた女性は僕たちの元から離れ、元いた場所に落ち着いた。

 緊張しているから津川さんにでも代筆をして欲しいけど、そうはいかないようだ。僕と津川さんは席を変わり、僕は出された書類を黙々と書き進んでいた。僕の情報の部分だけ。

 初めは上から書いていこうと思っていたけど、初っ端から詰まった。僕は沙也加の実家の住所を知らない。だから自分のところだけ先に書いた。

 

「ごめん津川さん。沙也加の実家の住所ってわかる?」

 

「ああ、待ってて。口で言ってもわからないだろうから、メモにでも書くね」

 

 津川さんがいてくれてよかった。

 ここに18年住んでいたのに初めて見た地名が紛れていた。津川さんがいなければ詰んでいた。

 

「これで完成っと……」

 

「もう呼んでもいい?」

 

「待って……電話番号の確認する……よし大丈夫だ……」

 

 その声を聞いた途端に津川さんは受け付けてくれた女性を呼んだ。僕の心の準備がまだ整ってないと言うのに。

 

「書けましたか。ではお預かりします。少し時間がかかるのでくつろいでくださって構いませんよ」

 

「はい。お気遣いありがとうございます」

 

 警察署でくつろいでと言われましても、何もすることがない。こんな場面でスマホも碌に触れないし、わいわいとは話せないし。2つの意味で。ぼーっと待つしかないな。

 ぼーっと受け付けてくれた女性を待っていると、僕らは2階の別室に案内された。その別室とは、所謂ドラマとかでよく見る取調室というものだった。

 やましいことはないはずなのに、案内されただけで何かを懺悔しなければという気持ちに苛まれる。


「あの……何かあったのですか?」

 

 取調室に受け付けてくれた女性が現れて、津川さんは早速話しかけた。今回も僕の代わりに話をしてくれるそうだ。

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