第28話


 僕らにとっての運命の日がやってきた。

 

「最終確認するよ。私と晴翔は4番目のドラッグストアで待機。瀬戸君は1番近いスーパーで待機。私たちのところに沙也加がやって来たら、すぐに瀬戸君に連絡するから、沙也加の実家に全力で向かう。2人とも分かった?」

 

「ああ、俺はとりあえず運転すればいいから」

 

「うん。大丈夫。沙也加の会えると考えたら走れる気がするよ」

 

 この作戦が失敗すれば会える可能性が極端に減ってしまう。絶対に今日、成功させるんだ。そして沙也加に言いたいことを言う。昨日も散々考えた言葉を全てぶつける。ぶつけちゃいけないのか、伝えると言うべきか。

 

「それじゃあ、作戦を開始するよ!」

 

「おおー!」

 

「お、おう……」

 

 僕がテンションの高さについていけなかったのは置いといて、僕は沙也加の実家から1番近いスーパーに1人降ろされて、自転車置き場のところでスマホを触りながら突っ立っていた。スマホの充電が切れないように達川君がモバイルバッテリーを貸してくれて充電の用意も万全だ。

 僕の役割としては、さっきも言ったけど、沙也加が見つかったと津川さんから連絡があれば全力で沙也加の実家に走る。のだが、もし沙也加がこのスーパーに来た時は、気付かれていなければ先に実家まで走って先回りして待つ伏せする。その際にはまず津川さんに連絡を入れる。もし沙也加が僕の存在に気付いた時は、下手に追いかけずに気付かないふりをして沙也加の実家まで全力で走る。僕は何にしろ、沙也加の実家まで走らないといけないようだ。それだけ重要な役でもある。そう考えていると変に緊張してくる。それに、まだ20分くらいしか経っていないのに、もう既に何やっているんだろうあの人。みたいな目で見られている。気にせずスマホを触っていたいけど、気になり過ぎて道行く人を見てしまう。目があったら一瞬で逸らされて、見てはいけない人を見てしまった。みたいな態度を取られている。早く津川さんから連絡来ないかな。そろそろ、僕の心の方が限界を迎えそうだ。

 そんな時だった。

 津川さんから電話がかかってきた。

 

「もしも……」

 

 思わずスマホを耳から離したくなる、そんな大きさの声で僕の言葉を遮った。

 

「瀬戸君! 沙也加いたよ! 見つけた! 今沙也加を車で追いかけているから、瀬戸君は沙也加の実家に急いで!」

 

 津川さんに返事をすることなく僕は走り出した。

 多分だけど、運がいいのは津川さんだ。もし僕のところや、その他のスーパーに現れたのなら、多分沙也加を見つけることは出来なかったと思う。それに、僕が全力で走っても自転車を漕いでいる沙也加より早く実家に着くには3番目以降だったから、どんなに沙也加が急いでいても、僕が先に沙也加の実家に着く。ただ、全てにおいて都合が良すぎる。津川さんが考えていた、本来の作戦とは少し違う形になったけど、大方読み通りことが運んでいる。これは偶然だろうか。もし、偶然じゃないのだとしたら、津川さんは沙也加とグルだと言うことになるが、それだったら、今沙也加は逃げる必要ないんだよな。店にはいなかったと言えばそれで僕を納得させられることができる。それをしないと言うことは、津川さんはグルじゃないと言うこと。達川君も同じことが言える。でも、この作戦を知っているのは僕ら3人だけ。津川さんも達川君もこの作戦を他人に漏らすとは考えられない。つまりは、本当に偶然ということか。

 走りながらに考えているから、頭が本来の力を発揮していなく途中で考えるのをやめた。

 そんなことを考えているうちに僕は沙也加の実家前までやって来た。津川さん曰く、家の目の前に僕がいたら、沙也加は見つけた瞬間に別のところに行くと思うと。それで沙也加の実家を監視できて、尚且つ人通りが少なそうで、スーパーとは反対側のところに隠れていてと言われていた。ただ、そんな都合のいい場所はなく。道にある電柱に隠れるのがやっとだった。

 背後から沙也加がやって来れば、この作戦も終わるけど、流石にドラッグストアとは反対側だから来ることはない。それに、焦っていればこんな電柱に隠れているのが僕だって気が付かないはずだ。沙也加が気付きにくいように達川君から服を借りていつもの僕じゃなくなったし、普段は被らない帽子を被って怪しさを増して、最近忙し過ぎて髪を切る時間がなかって結構伸びているからまるで別人だ。怪し過ぎて逆に近づけなくなっても、逆に足止めになるからそれはそれでいいと思っているが、結構しんどい。人が誰もいないことはいいけど、田所さんとかに見られたらもう2度とこの地に足は踏み入れれらないようになりそうだ。

 僕はずっと沙也加の実家を見張っていたのに、沙也加よりも先に達川君の車が沙也加の実家の前に着いた。慌てて僕も駆け寄ると、津川さんがいなく達川君だけだった。

 

「津川さんは?」

 

「田尾が本当に狭い裏道に行ったから、2手に分かれたんだ。真琴に走って追いかけてもらっている。田尾はまだ?」

 

「うん。まだ見ていない」

 

 沙也加がこの場所に現れず、急に不安感が込み上げてくる。このまま会えなくなったらどうしようと、焦りばかりが僕の頭を埋め尽くしていた。

 そして僕らは沙也加を見ることなく津川さんと合流する。

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