第27話

 津川さんは何が何でも沙也加を信じている。それに対して僕は、如月さんの言葉を信憑性高いものだと判断している。津川さんと如月さんが、犬猿の仲だったから話さない方がいいと判断した。


「3人にも話を聞いたもんね。メモでも持ってくればよかったよ」


「今からでも俺が書記をしようか?」


「そうだね。記憶が新しいうちに書いとかないと忘れそうだもんね。じゃあ晴翔、よろしくね」


 僕だけ何の役職もないけど、まあいいかな。まとめ役も書記も僕には不向きだしね。


「それじゃあ、改めて。如月さんと弥生さんの話を整理しましょう。弥生さんが言うには、夏希ちゃんは母親と姉から暴力を受けて逃げていたところを如月さんに保護された。暴力を受けた痕があったから、調査の時間を稼ぐために警察署に行方不明者届不受理届を提出していた。その後に警察幹部が夏希ちゃんの行方不明者届を提出していた。警察幹部だから、沙也加たちは夏希ちゃんの居場所を知っているはずなのになぜか迎えがこない。その理由は如月さんも弥生さんもわからないと言っていた。そして如月さんの話によると、夏希ちゃんは沙也加によって逃がされたと。そこにクエーサーが関与している可能性が高いと。それと如月さんが言っていた『生前』の言葉。2人は誰が亡くなったと考える?」


「俺は田尾さんのお父さんかな。家族構成はどうなっているのか知らないけど、如月さんの文脈的にそうかなって思っている。でも、あの如月さんがそんなミスをするとも思えない。何か意図があると思うな」


「僕も沙也加のお父さんが亡くなったのだと考える。理由は達川君と同じかな」


 如月さんの言い方的にそれしか思い浮かべなかった。でも、達川君の言う通り家族構成を知らないから、死んだのが祖父母の可能性だってあった。それを直感的に父親だと思わせたのは如月さんの話し方だ。達川君はその話し方を意図があると言っている。だけど、あの焦った表情を見るに、とても意図的だったとは思えない。言うほどのミスじゃないし、たまたま話してしまっただけだと思うが……


「私も2人の意見と同じ、沙也加のお父さんは亡くなってしまったのだと思う。如月さんにの言い方がそうだったもんね。また如月さんだ……」

 

 言い方的に過去にも何かあったのだろうけど、津川さんが悲哀的な顔を浮かべているから、それは聞かない方がいいな。


「如月さんがわざと話したって2人とも思っているの?」


「うん。瀬戸君は初めてだからわからないよね。如月さん前にも言ったけど、全てを知っているって言わんばかりの態度だったでしょ。それなのに自分の欠点は1度も見せたことがないの。運動も勉強もどちらも優秀で、クラス委員ではないもののクラスの中心はいつも如月さんだった。クラスのみんなからの信頼は絶大で、みんな悩み事があれば如月さんに相談していた。それなのに如月さんと仲の良かった友達も、他のクラスの人間も含めて誰1人如月さんの愚痴も悩みも聞いたことがないって。そんな人間なんていないだろうと、一度だけ如月さんの弱点を嗅ぎ回っていたことがあったんだけど、嫌いな食べ物もない。誰にだって平等で優しく接していて、腹黒いところはあったけど、それ以外は完璧だった。猫をかぶっているのだとしてもそれを600日以上できる人間なんていると思う。私はいないと思う。認めたくないけど、認めるしかないんだ。如月さんはそれが素なんだと。瀬戸くんは3年間一緒に過ごしてないから半信半疑になるのもわかるけど、そこまで完璧な人間がそんな簡単なミスをするとは思えないんだ。考えられるとすれば、私たちは如月さんの掌で踊らされていると言うこと」


「津川さんの言いたいことはわかったけど、如月さんは何でそんなことを?」


「それは私たちにもわからないの。如月さんがしようとしていることは、誰にもわからないから。3年間ずっとそうだった……」


 もし津川さんの言うように如月さんが一枚噛んでいるのだとしても、如月さんは何の目的があってそんなことをしているんだ。如月さんと話していて、津川さんのような沙也加を見つけたいという執念みたいなものは感じなかった。となれば、目的は沙也加じゃない。妹を見つけたのも如月さんだけど、学生証を確認するまで妹だとわからなかったあたり妹も目的ではないか。仮定として父親が亡くなっているのだとしたら、沙也加の母親が目的だった。そもそも面識があったにかさえ怪しい。可能性としては低いか。そうなれば、もう残っているのは田尾家の資産しかない。家にお宝があったか、あの土地。遺産や保険金が目的だったとしても如月さんがそれを手に入れるのは困難だろう。この線はなさそうだな。


「俺も1ついいか?」


 達川君は手を挙げてそう切り出した。


「晴翔が意見を出すなんて珍しいな。どうしたの?」


「如月さんについてだけど、今回の件、如月さんにしてはおかし過ぎないか?」


「わざと私たちに話しったってところでしょ?」


「違うよ。わざと話したのもそうだけど、あの如月さんにしては回りくどいっていうか、変に遠回りをしている気がするんだよ」


「どう言うことなの?」


 僕にはさっぱりわからなかった。


「ああ、そうだな。竜也はわからないよな。でもよく思い出してみて、如月さんが弥生さんに言った言葉を」


「どの部分のこと」


「『あほ』って言った部分だよ。あれ聞いて昔と変わらないな。って思っていたんだよ。俺の知っている如月さんはストレートに物事を言うんだ。たまに鋭過ぎて肝が冷えることもあるけど、3年間過ごしてきた如月さんはそうだった」


 確かに、弥生に向かって「あほ」とストレートに発していた。それなのに僕が誰かが死んだのかと指摘すると、態度が急変し一気に挙動不審になっていた。話をしている時も一貫して落ち着いていたから尚のことそれが目立っていた。まるで気づいてほしいかのように。本当に津川さんの言うよに、僕らは如月さんの掌で踊らされているだけかもしれないな。

 そう考えていると突然津川さんがこの話に終止符を打った。


「もう、この話やめよう。如月さんのこと考えていたら無性に腹が立ってくる。私たちの本来の目的は沙也加に会う。それだけ。さやかの家が大変だったとしても、私たちの目的は、沙也加だけ。沙也加にだって知られたくない秘密の1つや2つくらいあるよ。もう探るのはやめよう」

 

 津川さんの意見に達川君も僕も賛成し、この話はここで終わった。続いて今度は、明日の行動確認を行い解散した。

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