第34話

 それから2日過ぎた、8月14日。僕も暖と共に地元へ帰った。同じ新幹線には津川さんも乗っていて、話しかけようか悩んだけど、話しかけるなのオーラが滲み出ていて話しかけるのをやめた。

 暖とは地元で1番大きな駅の前で別れた。津川さんは駅に着いた時に見失って、それからは探していない。

 津川さんのことはさて置き、実家近くまで走るバスに乗って僕は実家へ向かった。道中では今回はどれくらいの期間滞在しようか。沙也加を探すために今回はどこへ行こうか。そんなことばかり考えていた。取り敢えずは財布と要相談だが、長くはいられそうにない。入院していたことが財布にも身体にも重く響いていた。夏祭りまでは3日ある。それまでやることがないが、バイトは親からの許しを得られないだろう。だが、お金は欲しい。

 親に相談すると知り合いの店でならと場所を限定されたけど、バイトができることになった。時給は普通、賄いつき。知り合いだけある高待遇だ。そこで3日間1日6時間働き、2万円弱を得た。これで行動の制約がある程度解除された。が、その前に今日は夏祭りの当日だ。人が増える17時よりも1時間早く着いて沙也加を待っていた。現れそうな気配はないがひたすら待つことしか僕にはできないのだ。

 17時ごろになって人が増え始めて、浴衣を着た津川さんと達川君がいた。2人とも今年も本当に来てくれていた。もし2人がいなかったら地獄のようなことになっていただろうから本当に良かった。


「瀬戸君。食べたいものがあったら言ってね。ここで待機できるように買ってくるよ」


「うん。ありがとう。じゃあ、後でいいから焼きそばだけお願いできるかな」


「わかった。それだけでいいの?」


「うん。来る前に少し食べてきたから大量にはいらないかな」


「そう……じゃあ、また後でね」


 沙也加が姿を現すことはなく、花火は終わった。

 花火が終わった頃に焼きそばを持ってきてくれた津川さんたちの途中報告でも沙也加はいなかったそうだ。如月さんとはいまだに連絡取れないし、もう僕らにできることなんてないのか。

 おまけに僕はスマホを落としたようだ。いつ落としたのかはっきりとした時間はわからないが、多分20時半から21時の間の時間だ。駅で待っていると人が続々と現れ、一時的にではあるけど身動きが取れなくなってしまっていたから。それ以外に考えられない。その辺に落ちているかもと、人混みが少なくなってから周辺を探したけど、落ちているスマホは1台もなかった。津川さんたちも探すのを手伝ってくれて捜索の範囲を広げてみたけど、スマホは見つからなかった。


「瀬戸君元気出してよ。明日また3人で警察署に行ってみようよ。そしたらスマホはあるかもよ」


「うん……」


「竜也。明日11時ごろに迎えに行くよ。そんで警察署行って、終われば3人で昼でも食べようよ」


「それいいわね。最近の捜索もマンネリ化していたから、新しいことをするのもいいね」


「うん……そうだね……」


「今日も終電まで待つの?」


「うん。待ってみようかなって思っている。沙也加がいつ来るのかわからないからね」


 僕も薄々わかっている。沙也加はもう2度とここには来ないことを。如月さんが言っていたのも間違いなく去年のことだし、来年も祭りには来るつもりだけど、そこで沙也加に会えるとは思っていない。でも信じてはいる。言っていることはおかしいかもしれないけど、僕は何が何でも沙也加を信じると決めたのだ。


「そっか……じゃあまた1分前になったら教えるね」


「うん。お願い。まさかスマホまでなくすとは思ってもいなかったよ」


「笑えない冗談を言わないでよ」


「ごめん。でもこうでもしないと限界を迎えそうなんだ……」

 

「明日……もしスマホが見つかったら、昼から3人で遊びにでも行こうよ」

 

「え……でも……」

 

「いいなそれ。久しぶりに身体を動かしたい気分だし、大きめの公園とかどうかな」

 

「いいねいいね。私も運動不足解消のために運動したいと思っていたんだよね」

 

「ちょ……ちょっと……」

 

「久しぶりにサッカーボールでも出そうか」

 

「えー私、球技苦手なんだけど」

 

「真琴はそもそも運動が苦手だろ」

 

「まあそれはそうだけど……」

 

「そう言えば竜也は高校の時何部だったの?」

 

「や、野球部だったけど……じゃなくて、何で勝手に遊ぶことが決まっていっているの?」

 

「野球部だったのか。家にグローブあったかな」

 

「だってたまには息抜きは必要でしょ?」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「私たちだってまだ沙也加を諦めてないよ。でも沙也加の行方が何もわからない今人が集まりそうなところに行ってみるのもいいとは思わない。沙也加が公園に遊びにいっていないとも限らないし」

 

「でも……」


「人が集まるということは、それだけ情報があるということ。聞き込みするには最適だと思うよ」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「話しているとあっという間に時間が過ぎるね。もう電車が来てしまったよ。あと2分だね」

 

「もうそんな時間か……」

 

 結局今回も沙也加は姿を現せず、またしても無駄足に終わった。

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