第22話

 それから今度は5分後。その女性に案内されて奥の部屋へと進んだ。

 年季の入っていそうな机とソファーが中央に置いてあり、奥には弥生のであろうか大きめのデスクとパソコンが置かれていた。

 こ綺麗な応接間に案内されたが弥生はいなく、ここで待つように言われた。

 お茶を用意すると言い女性は部屋を出た。

 小学生の時に入った校長室に似てて座りずらく立ったまま弥生を待った。

 

「これって弥生さんに会えるってことでいいのかな?」

 

「多分そうじゃないかな。これも弥生らしいと言われてみれば弥生らしいかも」

 

「でも真面目で正義感の強い子だったんでしょ」

 

「そうだけど、それよりも僕らには生意気なガキのように映っていたからね。本当はこの部屋のどこかに隠れていたりして」

 

 僕の予想は当たった。

 

「本当、瀬戸って面白味のないやつ」

 

 背後から声が聞こえたから何より驚いたが、どこに隠れていたというのだ。

 

「相変わらずだね。弥生」

 

「本当。せっかく脅かしてやろうと思っていたのになんで先に言うのかな」

 

「悪かったな」

 

 弥生は高校の時から何にも変わっていない。そんな弥生が、この施設を運営しているといのか。全然想像もつかないな。

 

「瀬戸。私が施設長をしていたらおかしいか?」

 

「そ、そんなことは言ってないだろ」

 

「まあいい。それより話があってここに来たのだろ。普段なら約束もなしに会ったりはしないのだがな、瀬戸とは高校の同級生だからな特別だぞ。どれ、座って話でもしようではないか」


 弥生に案内されて僕らは左側の3人がけのソファーに僕、達川君、津川さんの順番に座った。弥生は対面する形で僕の正面に座った。

 案内してくれた女性は僕らの前に温かいお茶を置いて部屋を後にした。その直後、弥生から早く話せと言わんばかりのアイコンタクトを受け取った。

 僕は津川さんにアイコンタクト送った。

 もちろん僕が弥生に話を通すのが1番信用もできてスムーズに話が進むと思う。だけど、正直なところ僕の頭ではキャパオーバーなのだ。うまくまとめている津川さんが話した方が弥生も理解ができると思う。

 津川さんは呆れたようなため息を吐いた。

 

「まず自己紹介からいですか?」

 

「おうよ。瀬戸の友達なら敬語なんて不要だよ」

 

「ありがとう。それじゃあ、まずは私から。私は瀬戸君と同じ大学に通う同級生、津川真琴。こっちは私の彼氏の達川晴翔。2週間くらい前に私の友達であり、瀬戸君の彼女でもある田尾沙也加が失踪したの。彼女のアパートに行ったらもう引っ越した後だって、実家も全ての窓にシャッターがしてあって外から中の様子は伺えなかった。近くで聞き込みをしていると、平日のスーパーで制服姿の沙也加の妹、夏希ちゃんを見たっていう話を聞いた。それから警察署に行って……」

 

 津川さんが話している途中だったが、弥生が割り込んだ。

 

「警察署に行って、妹がここにいると聞いたと。全く、最近の警察官は秘密保持の原則を知らないのか」

 

 弥生は今まで見たことないくらい険しい顔をしていた。

 

「あの弥生さん……夏希ちゃんと話をさせてくれない?」

 

「悪いけど、それはできない」

 

「何でか聞いても?」

 

「警察でここにいることを聞いているのだったら、ここに来ることになった事情ももちろん聞いているのだろ。今は誰とも話そうとしていない。真琴ちゃん。君なんて尚更会わせられないよ。夏希ちゃんのことはもうしばらく諦めていてほしいね」

 

「沙也加は……沙也加は夏希ちゃんに暴力を振るったりする子じゃない……」

 

 津川さんが怒っていたのはそっちだったか。

 まあ僕も沙也加がそんなことをするとは到底思っていない。弥生のことも信じてはいる。

 

「真琴ちゃん。一旦落ち着いて。そう言うと思って私が引き継いだ時の写真がある。これを見ても同じことが言える?」


 弥生が見せつけた写真には、全身泥だらけになっているセーラー服を着た女子が写っていた。写されている横顔は虚な目をしていて、自分の存在価値を見出せていないようだった。


「女子高生の写真をそんなにマジマジと見て、相変わらず変態だな、瀬戸」


 何故か津川さんまでも白い目をして僕を見ていた。


「い、いや、ち、違うって……」


「それはそうと、この写真のどこに沙也加が暴力を振るった証拠が?」


 それはそうとと流されてしまった。

 誤解なんだけどな。今は言えないな。


「明確な証拠と言うのは、こちらもまだ掴めてはいない。ただ、彼女の体には至る所に殴られたような跡があった。それに彼女自身もそう証言している」


「夏希ちゃん自身がそう言っているの?」


「ああ、そうだとも。初めは母親から次第に姉からも暴力を受けるようになったと。正直なところこの手の人は、大抵記憶が曖昧になっている。全てが真実じゃなかったとしても、一旦は彼女と家族を引き離す必要があった。彼女の身を守るためにも。友達を信じたいのはわかるが、今は彼女が唯一の真実を知る者なんだ。もし暴力はなかってただの家出だったら、もうとっくにここへ来ていてもおかしくないだろ。それが、まだ来ていないんだ」


「でもそれは弥生さんが阻止しているのでは?」


「ああ、不受理届のことかな。それはわざとだよ。もし本当に暴力を受けているのなら、早々に居場所を伝えるわけにはいかないからね。だから私は条件をつけた。彼女の母親か姉がどちらか又は2人揃って現れた場合に県警本部に呼んでもらって、私から説明すると。そしたら案の定釣れたんだよ。姉の沙也加は警察署に行っていない。それなのに夏希ちゃんの行方不明者届が提出された。そこで私は次なる手を打った。子ども・家庭暴力相談支援センターから施設名は伏せたまま保護をしていると言うことを書いた紙を送付してもらった。もう既に3枚もだ。それなのに、子ども・家庭暴力相談支援センターには一切の連絡が来ていない。連絡の1つでもくれれば何かしら対応もできるのにな」


「ま、待って話についていけない」


「なんだ瀬戸。もっと頭を回せよ」


 逆にこれについて行けている津川さんの頭の構造がおかしいのでは、と思う僕であった。

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