第5話

 暖とのやりとりを見る限り、津川さんに会える可能性はないなと思っていたが、まさか津川さんの方から接触してくるとは。

 

「私も沙也加のことについて、君に話したいことがあったんだ。でも、1つ言っておくよ。あのバカだけは巻き込んじゃだめ。大騒動に発展するから」

 

 津川さんの言う「あのバカ」とは多分、暖のことだろう。

 

「えっと……それはどうして? ですか……」

 

 津川さんはあからさまなため息をついた。

 

「沙也加の彼氏だからあんまり言いたくないけど、1年一緒に過ごしてわからなかった?」

 

「え? ご、ごめんなさい……いいやつだとしか……」

 

 津川さんはまたため息をついた。

 

「あいつ誰よりも口が軽いってのは知らない?」

 

「……初めて聞きました」

 

「そっか。ならこの機会に等々力のこともじっくり話してあげる。それよりもまずは、沙也加の話でもしようか」

 

 僕は固唾を飲んで津川さんの言葉を見守った。

 

「沙也加からのメッセージが来なくなって、今日でちょうど1週間。彼氏の君は何か知らない?」

 

 津川さんの話を聞いて僕は落胆した。

 君と仲の良かった津川さんなら何か知っていると思っていたから。まさか僕と同じだったとは。

 

「……ごめん。僕も何も知らないんだ……この間も沙也加のアパートに行ってみたけど、もう既に引っ越していて何もなかった……」

 

「なるほどね。君が等々力を使って私に接触しようとしていたのはそのためだったのか」

 

「ごめん……」

 

「いやいや。君が謝る必要はないよ。むしろ、私のほうこそ何も知らずにごめん……」

 

「いや、津川さんは謝らないでよ。沙也加はきっと僕に嫌気がさして連絡を絶っているんだと……」

 

 僕が話している途中なのに、津川さんは力強く割り込んだ。

 

「それは違う! それは違うよ。第一、君に連絡をしないのはそうだったとして、私まで連絡をよこさないのはおかしいでしょ。それに、沙也加、君との思い出話をいつも楽しそうに話していったから、それはないよ。連絡を絶つ少し前も(会えなくて寂しい)って言っていたから、絶対にない。あ、そうだ。それよりも、沙也加を探すのだったら私の協力必要じゃない? 連絡先交換しよ」

 

「あ、う、うん……」

 

 暖から聞いていたイメージとは少し違う。これといって男を毛嫌いしているわけでもなく、威圧的な人でもない。暖へのあたりは少し冷たいなと思うけど、話してみれば話しやすいし、根は優しい女子ってのが今日1日のイメージ。初めてだったからと言うのもあるかもしれないけど、良好な関係を築けそうな気がしていた。

 

「そろそろ昼休みも終わるし戻ろうか。あ、それと、等々力には絶対にこのことを話さないことと、等々力に私たちが話しているところを見られたらまずいから、これからはメッセージだけでやりとりを行う。ってことでいい? あいつ厄介だから」

 

「あ、うん。わかった……」

 

 前言撤回。

 仲良くはなれそうにない。

 暖の言っていた通り、めちゃくちゃ警戒心が強い。

 

「津川さんはどうしてそんなに暖を避けているの?」

 

「う〜ん。避けているって言うよりかは自己嫌悪かな。ほら、あいつ勉強はそこそこできるけど、バカじゃん。人をできるだけ多く巻き込んで軽犯罪でも大事件に仕立て上げる達人なの。そんなやつにこのことを知られたらどうなると思う?」

 

「学校中の噂になる?」

 

「そう。そうなれば、自由に行動できなくなるよ」

 

「確かにそれは困るかも……」

 

「それだけで収まったらいいけど、元クラスの直接関係ない人達まで巻き込んで、変な方向に進みそうな予感がするんだ。君もことを大きくされるのは嫌だろ? だったら、等々力には何も言わない方がいいよ」

 

「わかった。暖には話さないでおく。その代わり、どんな小さなことでもいい沙也加に関することがわかったら連絡して欲しい」

 

「そんなの当然じゃん。それについては君もだよ。私は沙也加に何と言われようと連絡があれば君に言う。君もそうしてくれ。じゃあ、また夜にメッセージ送るよ」

 

 津川さんはそう言って颯爽と走り去って行った。

 僕もそろそろ戻らないと暖に不審がられる。暖には津川さんと会ったことは秘密にしないといけないけど、僕にできるかな。嘘をつくのが苦手だから自信はない。でも、相手が暖だったら何となくできそうな気がしていた。

 

「竜也遅かったじゃん。どこで何をしてたんだ?」

 

「ごめん。お腹壊してトイレに篭っていた」

 

「昨日の飯なんて食うから」

 

「いや、お腹の調子は昨日から悪かったんだ。最近喉が渇くから」

 

「何かの病気か? 大丈夫なのか?」

 

「心配ありがとう。大丈夫だから」

 

 何とか誤魔化せたのか。

 余計なことを言ったせいで、余計に心配させてしまった。今晩は暖につく嘘でも綿密に考えよう。そうしないと、いつかボロを出してしまいそうだ。

 その夜だった。

 津川さんは言った通り、本当にメッセージをくれた。そこにはこう書かれていた。

 

(等々力は大丈夫だった?)

(それと、3月の4日と5日に一度帰って沙也加の実家の方に行ってみようかと思っている)

(君も来れるなら一緒に行かない?)

 

 手がかり唯一があるかもしれない君の実家。僕としては断る理由はない。もしそこに何もなかったら手がかりは全てなくなる。でも行かずにはいられない。

 僕は一緒に行く決意をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る