第38話
「あー確かに。竜也のことをか」
「え? どう言うこと?」
「沙也加はあの子に瀬戸君とのことを相談していたってことよ。まあ、これは全く関係ないけど」
「確か、竜也と田尾が付き合ったのって夏だったよな」
「ああ、うん。でもそれがどうしたの?」
「つまり、俺が見ていたのは如月さんに竜也のことを相談していた田尾ってことだ。夏以降に見なくなったのは、付き合えたからなんだ」
「でも本当に何の関係もない話。晴翔それ以外に沙也加を見ていないの?」
「見たことないな。田尾って基本教室にいたし他のクラスに遊びに行っているのも見たことないよな」
「テニス部以外じゃほとんど関わりは持っていなかったしね」
この2人に心当たりがないのだったら、沙也加の協力者を探すのは困難か。
「逆に瀬戸君はないの?」
「え? 何で僕?」
「だって瀬戸君と沙也加って塾で会ったのでしょ?」
「まあそうだったけど……勉強に集中していたから、友達とかほとんどいなかったんだよな……」
「瀬戸君の話はいいから沙也加はどうだったの?」
「初めは沙也加をそうなふうに意識していなかったからわからない。きっかけをくれたのだって沙也加からだったし、塾では沙也加とも頻繁に話していなかったし……」
もしかすればあの中に沙也加の協力者が紛れていたのかもしれない。あの当時のことは今でもよく覚えているが、人の名前と顔はほとんど思い出せない。全員関わりがなさすぎて、特に女子なんて沙也加以外に覚えている人はいない。
「まあ、そうだろうと思ったよ」
「ごめん」
「大丈夫だよ。沙也加も塾では友達いなさそうだったから」
「え? 沙也加が?」
「うん。みんな勉強勉強でついていくのがやっとだったってよく言っていたから」
「そうだったんだ……」
「そうなれば、田尾の協力者は大学の友人ってことになるのかな」
再び遠くから達川君が参加した。
「それならお手上げね。沙也加の学部の知り合いといえば、突然留学して音信不通になったあの子しかいなから」
あれから津川さんは如月さんのことが一層嫌いになったようで、ついには名前で呼ばなくなっていた。
「協力者の捜索はできないね……何も情報がなければ探しようがないね」
「そうだね。沙也加を探すことに集中しないといけないってことだね」
沙也加の行方を掴めそうな情報は僕らにはない。そんな僕らにできることは、沙也加が行きそうなところを周るくらい。もうかれこれ2年くらいそれを続けているが、未だに沙也加は見つかっていない。このまま見つからないんじゃないかとずっと思っている。
「そう言えば、津川さん。山根さんと会う前に情報をまとめたいって言ってなかった?」
「ああ、うん。車の中でまとめてはいたよ」
「何か有益な情報はあった?」
「うーん……特にこれと言ってはないんだけど、クエーサーのことについて知っている人がいて話を聞いたんだ。その人が言うには、三間市にクエーサーの本拠地があるって」
「それって坂田夜織の住んでいる地域と重なる」
「そう……だから、沙也加はそこにいるのかもしれないって思って……」
「クエーサーの本拠地に行けば沙也加が……」
「瀬戸君。クエーサーの本拠地に乗り込もうとしているのかもしれないけど、やめておいた方がいいよ」
「ど、どうして……」
「竜也。普通に考えてみろ。シンプルに危ないだろ。それに、門前払いされるのが関の山だ。下手したら通報される。あっちには弁護士もいるんだから行動は起こさない方がいいぞ」
「それにほら……これ見て」
そう言って津川さんは僕にスマホを渡した。
「住所がない!」
「そうなんだよ。クエーサーの本部は登久島市にあるって住所も書いてくれているけど、本拠地は三間市にあるとしか書かれていない。私たちだけで探すのは無理だよ」
「三間市をまわれば見つけられるんじゃないかな。こっちほど人口はいないし、建物も目立ちそうじゃん」
「竜也。それは無理だと思うぞ。10年前の市町村再編で三間市は西で面積が1番大きな市になった。飛び地もあるし、車かバイクがなければ探し回るのは無理だろうな」
「そんな……」
「手伝ってあげたいけど、俺も学校があるから頻繁には車は出せない。すまんな……」
僕は沙也加のことで頭がいっぱいになっていたが、もう僕らは大学3年生なのだ。就活の時期に入ろうとしているんだ。暇な時間はこれからもっとなくなる。この夏を過ぎて見つからなければ諦めることも視野に入れないといけなくなる。
沙也加を諦めるか……
今の僕にはどうしても沙也加を諦めることはできない。沙也加は何があっても見つける。沙也加に会って言いたいことがたくさんある。その言葉を伝えるまでは僕は諦めない。
「僕のほうこそごめん。達川君にはいつも迷惑かけてばかりだと言うのに……」
「竜也……」
「2人で盛り上がっているとこ悪いけど、今日はもう解散しましょ。遅くなりすぎると瀬戸君の家族に迷惑でしょ」
「それもそうだな」
「達川君運転よろしくね」
「ああ、任せろ!」
こうして僕らは解散し、達川君に実家まで車で送ってもらった。
その夜のことだった。祭りに行った影響もあってか、僕は沙也加と夏祭りに行く夢を見た。夢の中の沙也加は僕の知っている沙也加そのもので、ずっと見ていたい夢だった。
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