第13話

 他愛もない会話を繰り返し走ること20分。僕の実家から達川君のアパートまでを移動した。

 

「狭い部屋で悪いな」

 

「僕のアパート1ルームだから、もっと狭いよ……」

 

「そっか、広く感じてくれているならよかった。これでも最大で5人泊まったことがあるからな」

 

「それは狭くなかった?」

 

「ああ、夜中にトイレに起きたら、扉の前に1人寝ていて開かなくて無理やり起こしたくらいだよ」

 

 その友人は災難であっただろうな。

 この間取りなら。ベッドに1人。部屋の床に2人。廊下に2人。と言ったとこだな。廊下の2人は完全にはずれだな。

 

「あ! そういえば。布団持ってくるの忘れた……」

 

「ああ、大丈夫だよ。こんなこともあろうかと、常に2式用意してあるから。ちなみに、右が真琴用の布団で、左はそれ以外の来客用だから。使うのは左の布団ね」

 

「ありがとう……」

 

 そんな決まりがあるのか。教えられていなければ、僕は間違いなく水色の右の布団を取っていたよ。

 

「お風呂先に入って」

 

「え、で、でも……」

 

「綺麗に掃除しとかないと真琴に何言われるかわかんないから……掃除するチャンス、今日しかなさそうだから……」

 

 達川君は空な目をしていた。

 心はこのアパートにはないみたいだった。

 

「わ、わかった……お先に入らせていただきます……」

 

「独立洗面台の下に個包装の入浴剤があるから好きなの入れていいよ」

 

「そ、それは、大丈夫なやつ?」

 

「大丈夫、大丈夫。俺のだから」

 

「なら、お言葉に甘えて適当に何か使わせてもらうよ」

 

「うん。あ、バスタオルも洗濯機の隣にあるやつ適当に使って。真琴のはないから安心して」

 

「わかった。ありがとう」

 

 他人ん家のお風呂に入るなんていつぶりだろうか。最近は、沙也加の家に行ってもお風呂に入ることはなかったからな。半年ぶりくらいかな。沙也加を除けば、2年ぶりくらいか。大学友達はみんな近所みたいなものだから、暖のアパートにはよく行くけど1度もお風呂には入ったことはないんだよな。

 

「確か洗面台の下に入浴剤が……」

 

 無意識ではあったけど、パッケージの青いやつや赤いのは避けていた。無難な黄色。柚子の香りのする入浴剤を選んだ。

 同じようにバスタオルも、ピンクや水色を避けて黄緑色のバスタオルを選んだ。

 

「ごめん。お先……」

 

「ああ。じゃ、俺も入ってくるわ。長風呂になるから適当にくつろいでいて……」

 

「ああ、うん。わかった……」

 

 くつろいでいてと言われても……他人の家で一人寛ぐなんて至難の業だよな。することもないし、スマホでゲームするくらいしかやることないよな。

 スマホを開けると、画面には充電をしろと言わんばかりの絵が表示されていた。

 鞄の中から充電器を探すが見つからない。達川君に充電器を借りたいけど、今は入浴中だ。絶望的状況。そして僕はすることがなくなった。

 幸いにも勉強もする気だったから、ペンとノートは鞄の中に入ってある。津川さんがうまくまとめてくれていたことを、僕はノートにでも書き写そう。

 2月28日までの沙也加の行動を買い終えたタイミングで達川君はお風呂から出てきた。リフレッシュできるはずのお風呂から出てきたのに顔は疲れ切っていた。

 

「お疲れ様……」

 

「はあ……おかげで綺麗になったぜ……」

 

「あ、そうだ。疲れているところ悪いんだけど、充電器を忘れてきてしまって、貸してくれないかな?」

 

「ああ。予備に3本くらいあるから任せろ……」

 

「ありがとう」

 

 携帯の充電は確保できた。だが、ゲームをしたいと言う感情にはなれない。達川君もお風呂から出るなり布団に直行し、そのまま眠ってしまった。電気をつけっぱなしにするのも申し訳ない。僕も寝よう。

 朝から頭を使いっぱなしだったから、割と疲れも溜まっていて布団に入ってからすぐに寝れた。

 朝は、大音量の音楽で起こされた。

 僕は昨日、目覚ましをしていない。この音は達川君のスマホからだ。だが、部屋中に音楽が響き渡っっていると言うのに達川君は起きない。勝手に止めるのも悪い。仕方なく、達川君の体を揺らして起こす。

 

「達川君起きて」

 

「あと5分……」

 

 僕は確信した。

 これは絶対に起きないやつだ。

 

「達川君! 起きて!」

 

「あと10分……」

 

 時間が増えてる……

 

「達川君! 津川さんが来たよ!」

 

 これは魔法の言葉だった。

 

「ごめん! 寝坊した!」

 

 達川君は起き上がった。それも寝起きとは思えないくらい目を見開いて。

 

「あ、ごめん。津川さんいないよ……」

 

「もう〜。竜也か脅かすなよ……」

 

「ごめん、ごめん。まさかここまでとは……達川君。朝弱いんだね」

 

「俺もごめん……目覚まし煩かったよな……いつも通りにしていたよ……」

 

「いつもあんなに大きな音で起きているんだね」

 

 ここまでの音になるまで一体何があったのだろうか。想像できるけど、したくないな。

 

「起きてしまったし、朝ごはんでも食べて真琴に連絡しよう」

 

「ああ、うん」

 

 達川君は朝はパン派らしい。

 ベーコンと卵をフライパンで焼いて、それをトーストしたパンに乗せ、合わせてインスタントのコーヒーを用意してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る