第32話

 それからの1年間。僕は度々地元に戻りながら沙也加を探した。手がかりは何もない。大型のショッピングモールや観光スポットを周って探し続けた。そのおかげで何度も金欠になった。寝る間も惜しんで勉強とバイトに明け暮れ、連休があれば地元に帰って……ずっとその繰り返しだった。しばらくは疲れるなんて言葉を忘れていた。

 夏祭りを迎える1週間前、僕はバイト中に倒れた。倒れるまでの記憶は曖昧だ。何が起きたのは僕はわからなかった。目を覚ました時、僕は病院のベットにいた。


「あ、起きたんだ」


 目を覚ました僕にそう声をかけてくれたのは、母親ではなく津川さんだった。


「津川さん……何でいるの?」


「何でって……瀬戸君がバイト中に倒れたって、等々力から聞いて……働きすぎの過労だって……ビタミンの欠乏で貧血だろうって。瀬戸君ちゃんと食事摂ってんの?」


 そう言われてみれば最近碌な物食べてないなと、その時初めて気がついた。

 そんな僕を見て津川さんはため息をついた。


「だと思った。ほらこれあげるから、今は早く体治してよ」


「ありがとう……」


 渡されたビニール袋には、インスタントのシジミの味噌汁、鯖と鰯の缶詰、それに、うずら卵の燻製だった。

 僕は酒飲みだと思われているのかな。


「ビタミンの多い食材と言えば、レモンとかすだちのような酸味の強いものを思い浮かべるけど、ビタミンB12の場合は魚とか肉とか動物製の食品に多いんだって」


「そうなんだ……ありがとう……」


「地元とこっちをずっと行き来ししていたの?」


「うん……まあ……」


「沙也加を捜し続けるために地元に帰るのはいいけど、瀬戸君も今は身体が資本なんだから、たまには休まないとダメだよ。身体が使い物にならなくちゃ意味がないでしょ」


「……そうだね」


「……今年も参加するの?」


「うん……沙也加が来るかもしれないから」


「だよね。私たちにも協力させて。まあ、去年と同じことしかできないけど」


「うん。ありがとう……色々と助かるよ」


 去年は大変だった。沙也加にすぐに会えると駅の前で結局6時間待って、沙也加は現れず。すぐに来るもんだと思っていたから、軽食で済まして時々空腹と闘いながら待っていた。それも男1人でだ。周りにはカップルしかおらず、振られてドタキャンされたやつ、みたいな視線で何度も見られていた。途中何度も心が折れそうになっていたけど、時々様子を見に来てくれた津川さん達に励まされて何とか心を正常に保っていたんだっけ。

 沙也加が来なかったと如月さんに言おうとしたら、如月さんまで音信不通になるし、津川さんの提案で如月さんと仲の良かった子に連絡できないか聞いても、その子までも如月さんは音信不通になっているそうだし、弥生も連絡が取れないままだと言うし。流石に僕らも如月さんまで捜す元気はないから、もう如月さんのことは諦めている。だから、祭りにも沙也加が自主的に来てくれているのではと、その希望を込めて見に行っている。そうしないと……何かしらのアクションを起こしていないと、沙也加がもう2度と現れないんじゃないかと怖いから。


「あ、そうだ。そろそろスマホ見た方がいいよ。メッセージ大変なことになっていると思うから」


 津川さんがそう言うのでスマホを見てみると、見たこともないような数のメッセージが来ていた。


「こ……これはすごい……」


 その殆どが暖からだった。

 津川さんも僕がバイト中に倒れたってのを暖から聞いたと言っていたから、もしかして大学中で言いふらしているのだろうか。


「悪い奴じゃなんだけどね。そう言うところが関わりずらさを演出しているんだよね」


 暖も心配しているからと、急いで返信をすると、1秒も経たないうちに既読がついて、返信が来る前に電話がかかってきた。

 これには流石の僕も引いた。


「え⁉︎ で、電話がかかってきたんだけど……」


 そう言うと、津川さんは頭を抱えていた。


「本当、等々力ってばか。病室だから電話に出れないのに……本当空気読めない奴だな」


 僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

「とりあえず、電話には出れないと、メッセージ送っておくよ」

 

「面倒だけど、病室にいて電話は他の人の迷惑にもなるし、決まった場所でしかできないって言った方がいいよ」

 

「うん。そうだね。そうするよ」

 

「じゃあ、私はこの辺でお暇させてもらうよ」

 

「うん。ありがとう……」

 

「瀬戸君。等々力だけじゃなくて、晴翔にも返信してあげてね。じゃ」

 

 津川さんは僕の病室を後にした。

 津川さんに言われた通り、メッセージを確認すると、暖に埋もれていたけど他にも結構な数のメッセージが僕の元に来ていた。達川君や弥生からもメッセージは来ていたが、沙也加からは来ていなかった。そこだけが少し寂しかったけど、僕の周りにはこんなにも優しい人がいるだなんて気付きもしなかった。前に比べて1人の時間が格段に減った。なんだかんだ交友関係が増えた。後は沙也加さえいれば、僕の世界は完璧に近づくのに……沙也加……会いたいよ……

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