第24話

 津川さんが苦手だと言っていた理由が何となくわかる気がする。正直言って僕も如月さんは苦手だ。他人と、特に初対面の女性と話をするのが僕が苦手だと言うこともあるけど、津川さんのように怒ると笑顔を向けるタイプの人間だ。怒らせると後で痛い目に遭うから、怒らせないようにしないとな。


「それで、何で如月さんが?」


 津川さんは如月さんに鋭い目を向けていた。


「その責任の所在は私ではなくて弥生ですよ。同じ高校だってことくらい知っているのに、何も言わないとはどう言うことですか?」


「いやー。知らないと思っていたから名前伏せていたんだよな。まさか知り合いだったとは。あははは」


 弥生も下手な芝居をする。どう考えてもわざとにしか受け取れない。


「あほ」


 如月さんはとてもストレートな人だ。ここまで直接的な言葉を聞いたのは久しぶりだ。

 如月さんの言葉に弥生の反発は必須であり、この後僕たちは姉妹喧嘩のようなものを見せられた。


「そんなことより。如月さん、話を聞かせてくれるの?」


 弥生と如月さんの言い合いをそんなことと。僕には言えなかった言葉だが、流石は津川さん。おかげで言い合いは止まって、弥生は元の席、如月さんは空いていたもう1つの1人用のソファーに座った。


「それで私に聞きたいこととは何ですか?」


 如月さんに訊きたいことは山ほどある。あるんだけど……初めましてでどう聞けばいいかわからない。機嫌悪くなったら話してくれなさそうだし。

 僕は津川さんに視線を送った。津川さんは頭を抱えながらため息を吐いた。

 ごめんなさい……津川さん……


「私からいい?」


 津川さんがそう言って、如月さんは無言で頷いた。


「単刀直入に訊くけど、沙也加の現状、今知っていること全部話して欲しいの。言えないこととかは無理にとかは言わないから」


「知っていることだけなら大丈夫ですよ。ただ、あなた方と大して変わらないと思いますよ」


「それでもいいから、何でも話して」


「わかりました。1から情報を整理します。田尾さんは、2月21日を最後に連絡がつかなくなり、24日以降の足取りがあまりつかめていません。その様子だと実家も伺ってみたけど、何も得られなかったようですね」


 区切りのいいところではあったが、如月さんが次を話そうとしていたのに津川さんがそれを遮った。


「如月さん……何であんたが沙也加が行方不明になっていることを知っているの?」


「弥生に呼ばれて盗み聞きをしていたので」


「最低」


「何とでも言ってください。それで話は続きますが、田尾さんは今どこにいるかですが、今は実家の方にまだいます」


「まだってどう言うこと?」


「まだはまだですよ。いずれ実家からは出て行くのでしょう。行動を起こすなら、早めのほうがいいですよ」


「どう言うこと?」


「そのままの意味ですよ。もっと砕いて説明すると、あの家はいずれ売りに出されます。その後の足取りをあなた方では掴むことは不可能でしょう。会いたいのであれば、行動は早めに。私としてはあまり動いてほしくはないのですが、どうぞ好きに動いてください。それと、もしこの話を聞いて動くのをやめると言うのなら、いつもの場所で待っててください。私が必ず連れていきます」


 最後の言葉は僕の方を向いて如月さんは話していた。つまりは、この言葉だけ僕に対して言っている。いつもの場所……それは、夏祭りの成都駅前。


「いつもの場所って?」


「それは田尾さんの彼氏さんに聞いてください」


「条件なしでその場所に連れてくることはできないの?」


「わかりました。津川さんがそう言うのならそうします。同級生の誼ですよ」


「ありがと。それで、夏希ちゃんのことも聞いていい?」


「ええ。お話ししますよ。田尾さんの妹さんは、2月24日午後2時20分ごろに道端で見つけました。講義が終わり用事に出掛けているときでしたので、見つけてすぐに弥生に連絡しました。弥生が来るまでに何があったのか彼女には訊きましたが、錯乱状態だったので何も聞けませんでした。でも彼女はずっとこう呟いていたんですよ。『さや姉に殺される』と。顔も似ていたのでまさかと思い、本人が持っていた財布から生徒手帳をお借りして、名前の確認を行いました。まさか姉妹だったとは。意外でしたね」


「如月さんは沙也加が妹に手を出したと思っているの?」


「本人がそう証言しているので、事実確認ができない今、彼女の言葉の方が信憑性が高いですよ」


「そう言う話じゃなくて、如月さんはどう思っているのか聞いているの!」


「真琴……落ち着いて……」


「津川さん落ち着いて……」


 津川さんは声を荒らげた。ここまで怒っている津川さんは初めて見た。それを達川君が必死に抑えていた。如月さんは驚いた様子も何も見せず、至って普通の落ち着いた態度をとっていた。僕には逆にそれが違和感だった。


「ごめん……興奮しすぎた……」


「話は落ち着いてしないと内容が入って来ませんよ」


 如月さんはとことん津川さんを煽るなあ。この2人は今後あまり近づけない方がいいかもしれない。


「如月さんもごめん……」


 津川さんも大人だな。僕だったらこの場面で謝れるかと言われても、謝れない自信がある。と思う僕であった。

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