第9話
「じゃあ、沙也加の行動から。私も瀬戸君も2月22日から返信がなくなった。そういえば瀬戸君は21日最後に沙也加から返信があったのって何時?」
行方不明になって以降、沙也加とのトーク画面を開けていなかったから少し懐かしい気分だ。
「えーっと、21日は22時36分が最後だね。(おやすみ)ってきている。いつもこのくらいの時間に来ていたから何の違和感もないと思っていた……」
「私も同じくらいの時間なんだけどね、世間話の途中で返信がなくなったんだ。2人とも同じような時間帯だから、もしかしたらこの日からいなくなっていたんじゃ……」
ああ、そういえば、僕は沙也加のアパートの隣人のことを話してなかったな。
「ごめん……隠していたわけじゃないけど、沙也加の行動について、22日から24日の朝までははアパートの隣人が姿を目撃していたんだよね……」
津川さんは鼓膜が裂けそうなくらい大きな声を出した。
「何でそれをもっと早く言ってくれなかったの!」
「ご、ごめん……いろいろありすぎて完全に忘れていた……」
「瀬戸君、初めて会った日に言ったよね! どんな些細なことでも情報を共有するって。言い出しっぺなのに何で忘れているの!」
「ご、ごめん……」
「まあ今はいいや。それよりももっと詳しく教えてくれる?」
「ああ、うん……前に沙也加のアパートに行って誰もいなかったって話したでしょ。その時にたまたま隣人に会って話を聞けたんだ。その隣人が言うには、22日は至って普通だったらしい。普通に朝に挨拶もしてくれて、普通に学校に行っていたらしい。それで、さっきも言ったように、24日の朝に引っ越すって出ていったらしい」
津川さんは顎に手を当て考え込んでいた。
「じゃあ、何で返信くれなかったんだろ?」
僕も同じことを思っていた。
何故、沙也加が返信くれなかったのか。
「何かしらの事情があって、それを知られたくなかったからじゃないかな?」
遠くの方から達川君がそう言った。
「それしか考えられないけど、黙ったままじゃ私たちが今のように動くって考えられなかったかな? 沙也加に限ってそれはないよね。見つけてもらうためにわざとこうしたってことは考えられないかな?」
「田尾がそんな回りくどいことをするとは思えないけど、真琴が言うならそうなのかもな」
「ごめん……私も実はそうは思えない」
実を言うと僕もだ。
沙也加は回りくどいことをするより、どちらかといえばストレートな人間。思ったことを口にしてしまう性格。僕らに助けを求めているのなら素直に相談してくれると思う。信用がないと言われてしまえば、言い返すことはできないけど、昔から仲の良かった津川さんにまで言えないということは、よほど僕らに知られたくないことだということだろう。
ここから先、もしかすれば沙也加の踏み込まれたくない領域に足を踏み入れるかもしれない。その覚悟もまた必要か。それでもし沙也加が傷つくのだったら、僕は踏み込めないかもしれない。でも今は迷っている暇はない。これ以上後悔しないように、例え沙也加を傷つけたとしても沙也加を見つけたい。
「2月23日までの沙也加の足取りは得られたね。その隣人さんと田所さんの話を擦り合わせると、2月21日の夜何か起きて沙也加は返信をしなくなった。22日の朝。アパートから学校に行く姿を目撃されているけど、学校じゃなくて実家に帰っていた」
「それは確定してないんじゃないの?」
「それは今から裏をとる。晴翔、沙也加と同じ学部の人誰か知らない?」
「あー……確か如月さんとかじゃないかな?」
「えー。私あの子苦手……」
「俺から訊こうか?」
「大丈夫……私からする……」
淡々と話は進んでいっているけど、誰なんだろう。その如月さんって。
津川さんが「苦手」って言っているあたり、高校の時の同級生なのかな。
聞きたいけど、聞ける雰囲気じゃないな。
「さてさて続きだけど、22日の夜。普段は早寝早起きの沙也加が夜遅くまで起きていたと。2日後に荷物をまとめて出ていっているから引っ越しの荷造りをしていたであろうと。23日の昼間の行動は何か聞いていない?」
「それが、その隣人さん23日は早出勤だったらしく、姿を見かけていないんだって。でも、7時くらいだったのに物音ひとつ聞こえなかったって言ってた」
「つまり、早起きで有名なあの沙也加が、7時なのに起きていなかったってことか。それは大問題だな……」
大問題なんだそれ。と聞き返したかったが、話が逸れそうだったので何も言わなかった。
「23日は1日何をしていたのか不明なのか……そして、24日。菓子折りを持って引っ越すと言いに来たと。それは何時ごろだったの?」
「確か、出勤前て言ってたから……8時ごろだったと思う」
「その日も学校に行っていたかどうか確認が必要なのか。仕方ないな、もう1度如月さんに訊こうか」
その如月さんと言う人から、タイミングよく電話がかかってきた。まるで、僕らの会話を聞いているかのように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます