第36話
他に思い当たる番号といえば、沙也加の誕生日くらい。
「『1112』これも違う……」
もう思い当たる節がない。ダメ元ではあるが一つ可能性の低いものがある。
「『0611』開いた……何で……」
何はともあれスマホは僕の元へと帰ってきた。
警察署を後にした僕らは近くのファミレスで昼食を摂っていた。その間ずっと考えていた、何でロック番号が変えられていたのか。
元々の番号「0816」は0000から始めれば817回目に到達するが、それだけの回数を試せばスマホのロックがかかって1日では達成できない。4桁のロックの場合、当たる確率は1万分の1。「0816」の数字を当てられる可能性は極めて低いと思う。それに、問題はどちらかと言えば変えられていた番号の方だ。遊び半分でロックを変えるのならもっと複雑で規則性のないものの方が開かれる可能性は低い。これは単なる悪戯ではない。誰かが意図的に僕のスマホのロックを変更した。その人間は初めから僕を狙っていたのなら、スマホは落としてしまったのではなくて取られていたのか。だが、何故そんなことをする。僕のスマホから抜き取れる情報なんて高が知れている。僕よりももっと売れる情報を持っている人間はごまんといる。僕を狙う理由はないはずだ。わざわざあの番号に変えていた辺り、考えられるのは沙也加だが見た記憶はない。本当に沙也加なのだろうか。でも沙也加以外に考えられない。
「瀬戸君。考えているところ悪いけど、私たちにも話を聞かせてくれないかな?」
津川さんたちの存在を忘れてしまうほど考え込んでしまっていた。
「ごめん……」
「顔からして相当のことなんでしょ?」
「うん……もしかしたら沙也加なのかもしれない」
「ど、どう言うこと?」
「だって、僕のロック番号を知っているのは沙也加だけだし、沙也加と付き合った日だから沙也加と仲のいい人、津川さんなら変えることは可能だったかもしれないけど、それでも変えられていた『0611』の方が納得がいかないんだ」
「適当に選んだ数字じゃないってこと?」
「うん。だってその数字は僕の誕生日なんだ。2人とも流石にそれは知らないでしょ。こんなことができるのは沙也加しかいないよ」
2人とも驚いた顔を浮かべていた。正直僕も驚いている。あれだけ必死に探していた沙也加を見落としていたなんて認めたくはないけど、それが現実なのだ。
「だったら本当にあの人混みの時にスマホを取られたってこと?」
「そうなると思う」
「スマホに何か変化とかなかったの?」
「それがロック番号を変えられていた以外何もないんだ」
「それはそれで変ね」
「メモが増やされていたり、知らない番号が登録されていたりは?」
「それもないんだ」
「スマホのカバーとかも全部外して見た?」
「いや……そこまでは……」
達川君にそう言われ、スマホのカバーを外してみると、1枚の紙が挟まれていた。そこにはこう書かれていた。
『ごめん。もう会えない』
こんな紙を挟むのは沙也加しかいない。沙也加はあの祭り会場のどこかにはいたんだ。
「沙也加だ……やっぱり沙也加が僕のスマホを……」
「こんな回りくどいことをするのなら直接言ってくれればよかったのに……」
「田尾らしくないよな……それにあの田尾が竜也のポケットからスマホを抜き取るなんてできないと思う……」
沙也加の運動神経を考えれば確かにそうだ。そう上手くできるとは思えない。なら、沙也加の依頼を受けて誰かがそうしたのか。それはないな。沙也加にそこまで頼れる友人は津川さん以外いないと思う。そうなればやはり沙也加か。
「瀬戸君?」
「どうしたの?」
「無理は承知で、山根さんに誰が瀬戸君のスマホを交番に届けたのか聞けないかな?」
「沙也加以外の情報は厳しいと思うけど、ダメ元で聞いてみる」
山根さんに連絡をすると、仕事終わりの18時半にファミレスで話をしてくれるそうだ。2食続けての外食は財布に響きそうだ。
山根さんとの話し合いを前に、僕たちは予定していた通り、近くの大きめの公園に向かった。主な目的は情報収集。これも沙也加の行方を追うためだ。だが、平日だってこともあり人は言うほど多くはなかった。それでも津川さんは道ゆく人に聞き込みをしていた。そんな津川さんに感化されて僕も聞き込みをしてみるが、僕の前で足を止める人はいなく、僕は心が折れた。
「まあ、竜也……男女の壁ってものもあると思うから仕方ないよ……」
「5人から話を聞けている達川君に言われても説得力がない……」
「こ、こう言うときは身体を動かして忘れよう……久しぶりに身体を動かすと気持ちがいいぞ!」
達川君に誘われて、僕は3年ぶりにグローブに手を通した。達川君の言う通り久しぶりに身体を動かすのは楽しいものだった。嫌なこと全てを忘れ去ってしまえそうな気持ちだった。そこに疲労が水を差して達川君とのキャッチボールは終わった。
「どうだった。久しぶりに身体を動かしたのは?」
「疲れたけど、たまには運動をするのも悪くないね」
「だろだろ」
「何2人で勝手に楽しんでいるの?」
聞き込みを終えたのか津川さんが僕らの元へやって来た。
「もうへとへとで動けない……」
「俺もー」
「じゃあ、そろそろ帰ろっか」
「まだ約束の時間には早くない?」
「山根さんに会う前に情報をまとめようと思って」
「そっか。じゃあ帰るか」
この時の僕たちは知らなかった。吉野川を渡る橋がこの時間はひどく混むことを。そのせいで山根さんに指定されたファミレスにはギリギリの時間に着いてしまった。
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