6.カズヤの回想1
今日はトルク村の5年に一度の託宣の日だ。
国に選ばれた託宣士によって子供に適正を教えてくれて、場合によっては天啓を授ける事もあるという。
俺は名前はマーシュ、自分で言うのもなんだがスポーツ万能成績優秀な10才の美少年だ。
いや、この世界にはスポーツなんて言葉は無いか。
俺は異世界転生でこの世界に生まれた。
元の世界でハイブリットカーミサイルに親友と一緒にハネられて死んでしまった柊木 和也という高校2年の男子だった。
転生の際に神様がいたりなんて事は無く、ただ赤ん坊として生まれた時にしっかりと前世の記憶というものを意識出来た。
前世の記憶のお陰で身体を動かす事や学習を効率良く出来て、天才児だと呼ばれている。
腕力も体力も10才とは思えないレベルに達している。もしかしていつの間にかチート能力でも授けられれていたのか?……チートにしては地味だけど。
俺は15才になって大人になったらこの村を出て、冒険者になりたいと思っている。
冒険者として名をあげる事はやっぱ転生者としての夢とロマンだよな、ちゃんと魔物もいる世界だし、その時のために剣と戦いの訓練を欠かしたことは無い。
魔法もちゃんと存在しているらしいから冒険者をやりながら覚えたいところだ。
だから託宣でなんと言われようと俺の将来は冒険者だ、そして一攫千金とハーレムパーティで楽しく過ごすんだ。
それが異世界転生ライフってもんだろ!
◇◆◇
託宣士によって、俺には勇者適正がある事が判明した。
そして託宣士に聞くところによると、この世界には勇者適正を持つ者が現時点で40人以上いるという事も分かった。
適正が勇者だからといって必ずしも勇者を目指さないといけないわけではない、勇者を目指すも目指さないも自由であり、他の子供も適正と違う職業になる者は珍しくない。
とはいえ、魔王が現れて15年余り、出来れば勇者適正がある者には勇者になって世界を救って欲しい、と言われた。
さらに、俺には天啓があるという。
天啓を授かる者は珍しく、5年前の前回は天啓を授かった者は1人もいなかった。
そしてその天啓を託宣士が伝えてくれた。
「勇者として大きな事を成し遂げるには、親友を探せ、共に行動しろ、との天の啓示だ」
……親友?
この村に親友と呼べるような者は……いない気がする。
それに探せという言葉は今いる友だちではなく、これから探せ、という意味なのだろうか。
親友を"作れ"、ではなく、"探せ"?聞き間違いではないのだろうか。
「あの、失礼ですが託宣士様、"作れ"、ではなく、"探せ"、なのですか?」
託宣士は頷き、応えた。
「うむ、"探せ"、との天啓だ」
探せと言われても……親友って探すものじゅないだろう……無茶を言う。
親友、親友ねえ……俺にとって親友と呼べるのは未来だけだったな、そういえばあいつ無事なのだろうか……あ!!!!
そこで気付いた、俺が異世界転生でここにいるのなら、同じように事故にあった未来もこの世界に来ているのではないか、と。
それなら探せという天啓も納得が行く、作れでは無く探せとは、未来の事で間違いないだろう。
つまり、あいつもこの世界にいるという事だ、今あいつどうなってるんだろうか。
俺と同じように勇者適正を貰ってたりしてな、2人の勇者で共闘とか熱いシチュエーションだな。
考えていたらまた会いたくなってきた、よし決めた!俺は勇者になる!
想定していた冒険者一攫千金ハーレムパーティ楽ちんライフにはならなそうだけど、勇者ってのもまあ……悪くない。
早く15才になって村を出たいぜ。
「託宣士様!俺、勇者になります!!」
「うむ、小さな勇者よ、頑張りなさい」
その後、村長や他の大人たちは皆驚き、祝い、喜んでくれた。
唯一、俺の親だけがあまりうれしくなさそうだったけど。
◇◆◇
15才になり、成人となった、これで晴れて大人の仲間入りだ。
訓練も欠かさず、もう村で一番強い男となっていた。
父さん、母さん、ここまで育ててくれてありがとう、俺、勇者になって世界を救います!
そして親と別れ、村を出て、街へ行く。
シリンダールの街につき、すぐに冒険者ギルドに登録をして晴れてFランク冒険者となった。
その時に受付で勇者適正の話をして、託宣士から貰った勇者適正の証を見せるととギルド長との面談となった。
なんでも勇者適正を持つ者に対しては実力に見合ったクエストをやらせても良い事になっているらしく、つまりFランクでもEランククエストを受けさせて貰えるだとか。
これは従来のランクアップ方法だと勇者として認められるのに時間が掛かりすぎて、魔王討伐を少しでも早めるためのギルドと国の方策であるとか。
とはいえ実力の見合っていない者は勇者適正を持っていてもランクを飛び越えてクエストを受けさせると危険なため、ギルド長自ら実力を確認して、勇者適正持ちの無駄死にを避けるという。
そして勇者とは、勇者適正を持つものがBランクになってやっと正式に勇者として国とギルドに認められる。
現時点で勇者と認められた者は6名おり、それぞれが仲間を集めて魔物や魔族の討伐を行いながら力を蓄え、魔王討伐を目指している、だとか。
その後、ギルド長に実力を認めさせ、一つ上のランクのクエストを受けても良い事となった。
ちなみに俺が勇者適正を持つ事は秘密となっている。
パーティを組む事も考えたが、今は未来を探しているのでパーティを組むと色々と自由行動が出来ないだろうと思い、ソロでクエストを受けつつ、臨時のパーティに参加するのみに止め、冒険者との交流を図りながら未来を探していた。
◇◆◇
2年が経ち、17才となってそろそろCランクへの昇格試験を受けられそうな頃合いとなった。
Dランクになった時に魔法の勉強をし始め、魔法に関しては勇者適正のお陰か、雷の魔法に適正があり、雷魔法を中心に使う事が出来るようになった。
そしてその日、クエスト帰りにギルドで女エルフを見かけたのだった。
やはり剣と魔法の異世界、噂には聞いていたが本当にエルフがいるとは。
まだギルドに来たばかりのようで回りをキョロキョロと見回している、俺好みだった。
その美しさは群を抜いていた、まさに前世で思い描いていた理想の女エルフ、なんとしてでもモノにしたい、俺は他人に先を越されまいと冒険者仲間との会話を早々に切り上げ、エルフに声を掛けた。
──それがまさか……探していた前世の親友の未来だったとは……今思えば運命だったんだろう。
てっきり未来も勇者だとばかり思っていたから、いやそういうレベルの話じゃなくて、まさか、女エルフになってるなんて、想像の遥か上も上、嘘のような本当の話だ。
しかも俺好み、どストライク、飲んでる最中に未来でさえなければと何度も思ってしまうくらいだ。
俺たちは大いに盛り上がって普段以上に酒を飲み、珍しく酔いつぶれてしまった。
探していた親友に再開出来た事は嬉しい、嬉しいけど、それは無いだろ……。
◇◆◇
翌朝、目覚めると飲みすぎたのか少し頭が痛い。
水でも飲もうと身体を起こすと手に柔らかい感触が。
んん?なんだこの柔らかいものは、と何度か揉むとそれは柔らかく沈み込み、そして押し返してくる。
これはアレか?誰か連れ込んだっけ?と確認するとそこには裸の未来が。
一瞬で目が覚め、血の気が引く、なんで俺のベッドに裸の未来が!?ま……まさか俺、未来と!?
と恐ろしい考えが浮かびパニックになる。
そうやって騒いでいると未来が起きて事情を説明してくれた。
とりあえずそういうモノなんだと自分を納得……出来るわけがない、俺のベッドに裸で寝るなよ。
しかし俺の脳にはしっかりと未来の裸体が記憶され、頭から離れなかった。
そして俺は、未来に対して昨日までとは質の違う感情が湧いていた、今にして思えば、既にその時に未来を女として認識し始め、好きになり始めていたのだと思う。
ただ、その時はまだ自覚していなかったのだけど。
◇◆◇
それから暫く、2人でクエストをこなす日々。
俺は再会してから2週間もする頃には未来を好きになってしまっていた。
仕方のない事だった、必然だった。
だって、見た目が超好み、顔も身体も最高だ、そこに性格は俺が唯一認めた親友の未来なのだから、好きになるなというのが無理な話だ。
未来に会ってから女遊びは一切しなくなった、もう他の女など俺の目には映らなくなってしまっていた。
だけどこの気持ちは知られてはいけない事だと思っている。
未来は俺の事を親友の和也として見ていて、異性としては見ていない。
そんな状態で俺の好意が知られてしまったら全てが終わるだろう、それだけは避けなければ、そう思っていた。
◇◆◇
俺はやらかした、ある朝いつものように未来を起こしに行った時、その前の晩の話題で出た事をきっかけに寝ている未来の前で本心をつぶやいてしまったのだ。
そして寝ていると思っていた未来が実は起きていて、それを聞いてしまっていた。
それに対し、未来は無茶なこじつけで勘違いしてくれた、それが本心かどうかは分からないが聞かなかった事にしてくれたのだ、俺は助かったと思った。
しかしその後、未来の様子は変だった、やはり気にしているのだろうか、でも俺は未来との関係を終わらせたくなかったし、ゆくゆくは勇者としての俺を助けてもらいたいとも考えていた。
未来は凄かった、その魔法はAランクか下手をすれば伝説級のSランクはありそうだと思った。
魔王を倒す為には未来の力が必要だと思っていた。
いや、魔王なんて関係無く、俺には未来が必要だった。
俺は出来るだけ何事も無かったのように振る舞い、未来の心に負担を掛けまいとしていた。
だけど、未来はあれ以来、俺の顔を真っ直ぐ見る事は無くなった。
それは本当に辛く、当時の俺にとって、朝起こしに行った時に寝顔を見る事だけが心の安らぎだった。
関係は徐々にギクシャクし始めた、だけど俺はそんな事に気付かないように、いつものように、いつもの距離感で未来に相対していた。
今思えば、それは未来との距離が離れて行くのを認めたくなかっただけかも知れない。
そして、その時が訪れた。
朝起こしに行くと、あれだけ言っても着なかった寝巻きを着ていたのだ。
本来ならそれは嬉しい事であるはずだった、だけど当時の俺にはそれが、未来が俺を拒絶しているかのように感じた。
それが何日か続いた時、俺は悟った。
それ以降、朝起こしに行くのを止めた。
◇◆◇
2人の時間はズレ、距離はさらに開いた。
それでも俺は未来に少しでも近づこうと出来るだけ今まで通りに接し、そして未来が起きてくるまでの時間でエルフというものを学んだ。
驚いた事に、エルフは一生の内に人間のように恋愛感情をあまり持たず、性的な欲求も薄いらしいという事が分かった。
だから数千年という寿命にも関わらず数も少なく、そして年中発情中の人間は寿命が短いのに数が多いのだという事が。
つまりエルフである未来に俺を好きになって貰うのは簡単な事じゃないという事だ。
だとすれば今みたいなやり方で好きになって貰うのではなくて、こちらから積極的に気持ちを表現して、動いて、俺への恋愛感情に目覚めて貰うしかないと思った。
後はそれを言うタイミングの問題だ、気持ちを伝えるタイミングというのは大事な事だ、場合によってはそこで関係が終わるかも知れないのだから。
そして、そのタイミングがやってきた。
やっと俺の気持ちを伝える時がやってきたのだ。
俺は未来が好きだ、だから未来にも俺を好きになって欲しい。
まだまだ先は長いだろうけど、俺はやっと一歩を踏み出せた。
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