27.武御雷
カズヤの新武器、オリハルコンの剣、
5日ほどでオリハルコンの剣は完成した。
本当にこんなにも早く出来るようなものとは思えず、ザックに聞けば、この早さは1等鍛冶師のワシだから出来たんだとザックは自慢気だった。
この世に希少なオリハルコンの剣、名前は何というのか聞いてみるとそんなものは無い、とあっさり。
そんなの勿体無い、と私が命名をする事にした。
カズヤが使うこの剣に負けない名前を付けてあげたい。
カズヤと言えば雷属性が得意だ、それに覚醒状態の時も剣から雷を発していた。
となれば雷が関係する神様の名前だよなあと思い、閃いた。
うん、雷神で剣の神様でピッタリ、それに強そうだし響きも良い、これだ!
「この剣の名前は武御雷!そうしよう」
「武御雷?何だそりゃ、名前なのか?」
ザックがまるで聞いた事も無い言葉だ、とばかりに疑問符を浮かべている。
そりゃそうか、この名前は前世の私が生まれた国の古い神様の名前なんだから。
「あ、いや、エルフに伝わる古くて雷に関係する名前なんだよね」
と、適当な事を言って誤魔化した。
剣の柄や鍔、鞘部分はファビオとザックが協力して作ってくれた。
凄く格好良い、片刃で切れ味鋭そうな、オリハルコンの剣だ。
でもこの形状、すごく見覚えがあると思う、どうみても──
「それにしても遅いな、カズヤなら朝から来てもおかしくないんだが……」
「そういえばそうだ。朝からウキウキして、まだかザック!なんて言ってても不思議じゃないのに」
ふと胸騒ぎがした、なんとなく嫌な予感がする。
そう思うともう居ても立ってもいられなくなって、着替えてギルドへ向かった。
ギルドで受付から話をきくと、4日前にAランククエストを受けて、それから戻ってきていないらしい。
場所も1日と少し程度の場所で、そんなに遠くない、クエスト内容だって今のカズヤなら問題無いだろう。
だとすれば、戻ってきていないのはやっぱりおかしい。
何かが起きたに違いない!私の直感がそう告げる。
予定が入っていないならゆっくりしている事も考えられるけど、オリハルコンの武器を作っているんだし、それに私もここに居る、だからカズヤだって早く戻りたいと思うはずだ。
ザックの鍛冶屋へと戻り、事情を説明する、今からすぐにカズヤを追うと話をするとザックも付いてくると言う。
腕前がCランク程度のザックでは危険だと言ったけど、頑として聞かず、露払いくらいなら出来る、それにこれはワシが直接手渡したい。と硬い意思を示していた。
気持ちは分かる、だけどせめてもう一人は同程度のランクで戦える者が欲しいと話した、2人ならお互いをカバーしながら戦えるからだ。
するとファビオが提案をしてきた。
「うちの弟子を連れて行って貰えませんか?Cランク程度の実力はありますよ」
と。
というわけでザックとクララを伴って急ぎ街を出て、カズヤを追った。
1日半ほどの時間を掛けて目的の場所につくと巨人族と戦っているカズヤの姿が遠目に見えた。
素早く魔法を連続で唱え、一先ずはカズヤを窮地から救い出す事に成功する。
◇◆◇
カズヤがザックとクララを安全な場所へ移し、戻ってきた
そして風呂敷から武御雷を取り出し、鞘から抜いてその形状に驚いていた。
「え、これって……日本刀?」
カズヤが私を見る、私も見合って頷いた。
「ビックリだよね、ザックの知るオリハルコンの剣の製法で日本刀が出来ちゃうなんて。作り方も日本刀みたいだったよ」
刃の長さは120cmと長く、日本刀の分類としては大太刀と呼ばれる物になる。
武御雷の刀身は銀色に輝いていて、見ていると吸い込まれそうなほどに綺麗だ。
「えーと、ザックが言うには、折れず、欠けず、しなるが曲がらず、斬れぬもの無し。だったかな?そう言ってたよ。それじゃカズヤ、雷の魔法を武御雷に込めて見て」
そう言われたカズヤは武御雷に雷の魔法を込めた。
すると刀身が光を放ち、バチバチと放電し始めた。
元々、武御雷には私の膨大な量の純粋な魔力が込められている、そこへカズヤの雷の魔力が流し込まれる事で反応し、正真正銘の武御雷の刀となったのだ。
「これ……俺の魔力に反応して変化したって事?武御雷……良い剣、いや名刀だね、これをザックとミキが……凄く気に入ったよ。ありがとうミキ!」
カズヤと私はテュポーンに向き直った。
そこへテュポーンの一撃が迫る、テュポーンが手に持つ剣による攻撃だ。
すでに身体強化を掛け終わっていて、カズヤは黄金覚醒を発動し、迫る巨大な剣を横薙ぎに切り払うとテュポーンの巨大な剣は綺麗に寸断された。
「ヤバい……ニヤニヤが止まらない。武御雷の切れ味はとんでもないし、久しぶりの身体強化はあらためて凄い効果だし、隣にミキがいる安心感が堪らないしで、調子に乗っちゃダメだと分かってても、負ける気がしない!」
カズヤを見ると頬がゆるゆるになっていて、嬉しさが溢れているようだった。
これはダメなパターンだ。
ここは一つ釘を差しておかないと。
「おい!分かってるだろうな!」
それを聞いたカズヤは、すぐさまキリッとした表情に戻った、だがすぐに頬が緩む。
「あ、ダメだ、分かってても頬が緩む」
ダメそうだ。
全くしょうがない、ここは一つ私が気合を入れてあげよう。
「カズヤ」
声を掛け、カズヤをこちらに向かせる。
そして両手で頬を挟み込むように軽く手の平を当て、そのまま引っ張り込み、カズヤと私のおでこをくっつけた。
パチッ!コツン
「しっかりしろ!浮かれたままで勝てる相手じゃないんだぞ!また負けるつもりか!?」
そう言ってぎゅっと頬を思い切り挟み込み、手を放した。
カズヤは少し固まっていた。
「そうだな……そうだな!お陰でスッキリした!……やっぱりミキは最高だよ!」
すぐに立ち直り、頬を撫でながら嬉しそうに言った。
カズヤはすぐに私を褒める、持ち上げる。……まあ悪い気分じゃないけども、今はそれどころじゃない。
「余計な事は言わなくていいから!」
全く手間の掛かる、しょうがないやつめ。
「ったく世話がやける……行くぞ!」
よし!戦闘の再開だ!
◇◆◇
「先ほどまでとは随分と違うではないか、そのエルフの力か?」
半分になった剣を放り投げながらテュポーンは言った。
「だが剣を斬ったくらいで良い気になられても困る」
テュポーンはそう言うと、身体の大きさを増した。
さっきまでは5m程度のサイズだったけど、今は10mくらいにはなっている。
普通の巨人族なら最大サイズだろう。
そしてそのまま蹴りを繰り出してきた。
身体が大きくなればその分だけ動作は遅くなるものだけど、テュポーンの速度は変わらなかった。さっきまでと同じ速度で、10倍以上の重量の蹴りだ。
想定外で反応が遅れた、そもそも私は魔法使いなので身体能力はお察しなのだ。
大体が防壁や結界を張ってやり過ごすのが精一杯。
しかし、カズヤが私を抱き抱えてそのまま跳んで回避し、テュポーンと距離を取った場所に降ろしてくれた。
「ミキはここから援護してくれ、俺が近接戦闘をするから」
そう言って返事を待たずテュポーンとの距離を詰めた。
正直、近くにいたらカズヤの邪魔になるだろうから、これが正解だろう。
少し寂しくはあるけど相手が悪い、攻撃に巻き込まれでもしたら私は保たないだろうし。
カズヤだってあの攻撃を正面から受け止める事は出来ない、それほどの重さを持つ攻撃だ。
気持ちを切り替え、カズヤの補助をするべくテュポーンの顔目掛けて爆発魔法を飛ばす。
出来るだけ威力を上げつつ連発し、爆発と大量の煙でテュポーンの視界を奪う作戦だ。
カズヤも足を斬り付けてはいるけど切り口は浅く、深手を負わす程じゃない。
そして驚いたのだけど、テュポーンの肉体はすぐに再生され、その再生速度は早かった。
浅い切り口程度なら直ぐに塞がれ、傷が癒える。
なるほどこれは厄介だ、巨人族としては素早い動きに硬い皮膚、再生能力、魔王幹部だけはある。
◇◆◇
さてどうしたものか、と考えあぐねているとカズヤから提案があった。
「ミキ!こいつの弱点は雷だ!再生能力もあるから一撃で決めるつもりで大技を叩き込む!タイミングを合わせて雷魔法を撃ってくれ!」
なるほど、テュポーンの弱点は雷なのか、という事はカズヤとは相性は良いんじゃないか?
そして一緒に雷系統の技と魔法を叩き込み一網打尽にしよう、と。
良いんじゃないか?うん、良い。
だけど、カズヤが武御雷を持った今なら私が雷魔法を打ち込むより、もっと良い方法がある。
「分かった!合わせる!」
カズヤはテュポーンの攻撃を回避しつつ、攻撃を加えるタイミングを図っているようだった。
私は私で、爆発魔法を使いつつ、ターゲットをロックオンし、狙いを外さないように定めていた。
中々隙らしい隙が出来ないテュポーンに対し、私は今までより強い爆発魔法を放った。
僅かに隙が出来たように見えた。
「ナイス!」
叫んだカズヤは跳躍し、武御雷を上段に構える。
その時、武御雷が一際大きく光を放ち、バチバチと大きな放電状態になった。
それを待っていた私も、さっきから狙いを定めていたカズヤが持つ武御雷に向けて特大の雷魔法を放つ。
それはまるで武御雷に大きな雷が落ちたように見えた。
そしてその雷は武御雷に吸収されていき、黄金覚醒状態のカズヤの身体は一際輝き、身体能力はさらに強化されたのだ。
これは武御雷と武御雷に込めた私の魔力が合わさって起きる能力だった。
この状態のカズヤは雷属性の技や魔法が大幅に強化され、身体能力は更に強化される。
私が個別に雷魔法を放つよりも、効果は大きいだろう。
しかし、欠点としてはこの状態は数秒程度しか保たないという事だ。
だから今、まさに斬りつける瞬間を狙って発動させたのだ。
「いけ!カズヤ!」
「天剣絶刀!稲妻雷光斬!!」
カズヤがそう叫ぶと
そして切断面から稲妻が全身を走り、肉体全てを焼け焦がしたのだった。
そのまま巨体はズズン……と大きな音を立てて倒れ、残っていた魔物たちを下敷きにした。
それはもう再生せず、ぶすぶすと焦げた嫌な匂いを発するだけの塊だった。
着地し、覚醒状態を解いて呆然と武御雷を眺めるカズヤ。
武御雷はまだバチバチと放電していて、刀身も淡い光を放ち、余韻が残っていた。
残っていた僅かな魔物たちはちりぢりに逃げだし、そこにはテュポーンの死体とカズヤと私だけとなった。
戦闘は終わった、カズヤは魔王幹部を倒したのだ。
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