23.もう一つの勇者パーティ


「──こんな感じでさ、中々面白いし熱いし、いかにも勇者っぽいやつだったよ」


 カズヤは1人でダンジョンで修行している時、9階層で別の勇者パーティにあった。

 それはドミニクみたいなやつじゃなくて、熱血漢で熱く、火属性を操り赤色のオーラ、爆炎覚醒を操るAランクの勇者ロイだった。


 そしてそのパーティには50才近い元Sランクの引退勇者ジョセフがいて、弟子としてロイを育て、カズヤと同じ様に修行を目的としてダンジョンに潜らせていたようだ。

 ジョセフもロイと同じ火属性を操り、元Sランク勇者だけあって蒼炎覚醒がまだ少し使えるという。


 爆炎とか蒼炎とかなんだよ、って思ったけど、覚醒の前の部分は好きなようにつけてるらしいから、そういう事らしい。

 言葉からのイメージだとロイが赤い炎でジョセフは青い炎というところだろうか。


 他にもロイの彼女でジョセフの娘、Aランクレンジャーのクラウディアや、ロイの幼馴染で盾役Aランク戦士ウィンダム、王都までの道中で仲間になったBランクの双子シスター、エリンとコリンがそれぞれヒーラーと支援を行う役割、これで計6人パーティ。

 中々バランスが取れているパーティで、面白そうな関係性だと思う。


 うちのパーティから見れば殆どのパーティはバランスが取れているように見えるけどね、なんせアタッカー兼盾役のカズヤと回復支援攻撃その他役の私だからね。


 そしてロイと意気投合したカズヤは一時的にパーティを組み、下の階層で2日ほどAランク相手に修行をしてきたと言う。

 さらにジョセフに覚醒の使い方を教えて貰って、黄金覚醒のコツを掴んだとか。

 目的は忘れてないのは良い事だね。


「まだ暫くダンジョンで修行するって言ってたからまた会うかもね。ところで、明日からはミキも一緒にダンジョンに潜るんだろ?」


 うん、その予定だ、だけど一つだけ気になる事がある。


「そのつもりだけど一つだけ、ドミニクがまだいるんじゃない?同じダンジョンでバッタリ会うとか嫌だぞ」


 そう言うとカズヤは朗らかに応えた。


「その事なら安心してくれ、ドミニクはもう王都にもダンジョンにもいないよ、幹部を倒した事で王城にお呼ばれして、それが済んだらさっさと王都を出たんだってさ。だからダンジョンで会う事は無い」


 それなら問題はないかな、正直もう2度と会いたくないぞ。


「……そっか、それなら一緒にダンジョンに潜るよ」


 そう言うとカズヤは嬉しそうに微笑むのだった。


◇◆◇


 翌朝、いつものように抱き締められる、ただ、今回は今までのようなカズヤからのみの一方的な抱擁では無く、私からもカズヤのを求めるように背中に手を回すと、カズヤが私の名前を呟き少し強く抱きしめてきた。

 それは今までの様に強すぎる事も無く、程良い密着感を与えてくれた。

 カズヤの匂いと温もりと、その逞しい身体に包まれる感覚に私は高揚感と嬉しさで小躍りしたくなるような、跳ねたくなるような感覚になっていた。


 そんな幸せな時間の時、カズヤは何を思ったのか私の耳の先端ををはむと咥えてきた。


「ひゃ!?」


 突然の事に言葉が漏れたけど、カズヤは口を放す事無く、そのまま耳の先を優しく愛撫するように甘噛みし、まるで味わっているかの様だった。

 その感覚がこそばゆくてくすぐったくて、そして舐められる音が脳の奥に響いて、変な感覚を味わう。

 初めは気持ち悪さを感じたが、慣れてしまうと気持ち悪い感じゃなくて、癖になりそうな感覚だった……。

 結局、嫌と言えずじまいで少しの後、カズヤは口と身体を放した。


「ご馳走様!」


「……ご馳走様じゃない!なんだよ急に!びっくりしただろ!?」


 耳を押さえながら抗議する。

 耳の先は少しだけシットリとしていて、カズヤの口に含まれ、舐められていた事が分かる。


「だってさ目の前で長い耳が可愛くぴょこぴょこと動くんだぞ?今まではそんな事無かったからさ、可愛すぎて我慢出来なくて思わず口にしたんだよ」


 あっさりと言ってのけるカズヤ。

 耳がぴょこぴょこって、なんだよそれ、そんなの、まるで私が嬉しがってるみたいじゃないか、そんな、犬の尻尾みたいな事が……そんな!嘘だろ!?


 ──もしかして、私が自覚し始めたから?意識しだしたから?そういう感情が表に出始める様になったとでも言うんだろうか。

 それにしても耳が動くなんて、そんなの分かり易すぎだろ!


「ところでさ、思わず耳を舐めちゃったけど、嫌じゃ無かった?"嫌だ"って、言わなかったけど」


 う、それ聞く?


「……まあ、初めは変な感じだったけど、別に嫌じゃ無かったかな、……うん」


 ……なんで正直に答えたんだろう。

 嘘でも嫌だったとか気持ち悪かったって言えば、もうされずに済んだのに。


「そう?なら良かった。嫌ならちゃんと嫌だって言ってくれよ、ミキに無理強いするつもりは無いんだから」


「ああ、うん、分かってる」


 そう応えて、あらためてカズヤに舐められた耳を撫でるのだった。


◇◆◇


 2人でダンジョンに潜る。

 カズヤはたった5日間だと言うのに見違える様に強くなっていて、あっさりと階層を進む。


 今回は身体強化の魔法は使っていない、基本的にダンジョン内ではよっぽど危険でない限りはカズヤに対して支援魔法は使わない事にしようと2人で話し合ったのだ。


 それでもあれよあれよと5階層までを楽々と突破した。


 6階層からは私も戦闘経験を積むために魔物の群れに対し交互に戦闘を行う事にした。

 それでも10階層を突破するまでに1日とかからず、11階層の小部屋でやっと就寝する事になった。


 11階層からはAランクの魔物も出現するため、修行のためにもマッピングの魔法を使わずじっくりと攻略する事に。

 単体の場合は交互に、群れの場合は2人で協力する事にして順調に進んでいく。


 すると13階層で別のパーティに会った。


 それが先日カズヤから聞いたロイたち勇者パーティだった。


「ようカズヤ!その人が自慢の恋人のミキさんか?」


 ん?恋人?んん?まさか?


 カズヤの手を引っ張り、小さな声で話す。


「おい、どういう事だ?」


 なんともバツの悪そうな表情で応えるカズヤ。


「えーと、なんというか、その……ほら!ドミニクの時や、他の男みたいにミキに色目を使われても困るからさ!俺の恋人って事にしておけばさ!そうすりゃ安全だろ?」


「お前なあ……そう言うのは昨日のうちに言っといてくれよな」


 そう言うところは前から合ったけどさあ。

 それに今の私は他の男から色目を使われても嫌な気分にしかならないから問題無いけど、それを認めてしまうとカズヤはどんどん調子に乗るだろう、だから此処はあくまで仕方無しに合わせてやる、という態度でいこう。


「頼む!恋人のフリで良いから話を合わせてくれよー、頼む!」


「……はあ、しょうがねえな、合わせてやるよ、フリだからな、フリ」


「おお、助かる!」


 カズヤはロイたちに向き直り、私を紹介した。


「紹介するよ、恋人のミキ!俺の自慢の彼女だ!それでミキ、この人たちが昨日話したロイたちだ」


「初めまして、私の名前はミキ=クレール、魔法使いです、よろしく」


 無難に自己紹介をする。


「俺はロイ、よろしくな!」


 そう言って手を差し出してきた。

 少しだけ逡巡し、握手を交わす。

 特に嫌な感覚は無かった、これくらいなら大丈夫そうだ。


 その後は残りのメンバーとも挨拶を交わし、一旦そこで別れた。

 明日の夜に一緒に食事をとる約束を交わして。



 そして、2人でそのまま14階層を突破、その先にはもう何も無いのでこれで全階層クリアとなる。

 最深部にボスのようなSランク魔物が居ないのは残念だけど、こればっかりは仕方のない事だった。

 

 結局、カズヤに身体強化などの支援魔法を一切使わずに攻略が完了した。

 これは1回目の事を考えたら相当なパワーアップした事を意味する。

 全く、勇者の成長速度には驚かされる。

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