22.エルフの里帰り
2人で話し合い、これからの方針を固める。
昨日のダンジョン攻略でハッキリした事は、私たちの実力では悔しいけどドミニクの言う通り、魔王どころか幹部の魔族、Sランクを相手するのは厳しいという事だ。
だからまず一番の優先事項はカズヤの強化だ。
もうすぐAランクに上がるとは思うけど、ランクよりも実力をつけてもらう必要がある。
その為には王都ダンジョンで暫く修行する、という事になった。
そして次にカズヤの金色のオーラ、アレを使いこなす必要がある。
アレはとんでもないモノだ、消耗は激しいみたいだけど強さを何倍も上げてくれるスキルだ。
これから先の強敵との戦いには必須だと思う。
「いちいち金色のオーラじゃあ呼びにくいから格好良い名前をつけよう。スーパーモード、スーパーフォーム、覚醒モード、覚醒と書いてアウェイクニングとかどうだろう?」
カズヤのネームセンスよ……。名前は何でもいいけどさあ。
「それ格好良いか?まあ好きな名前つければいいけどさ。というかドミニクも白色のオーラ出てたし、もう名前ついてるんじゃない?ギルド長に聞いてみたら?」
呼び方はどうでも良い、カズヤの好きに呼べば。
大事な事はアレを自在に使いこなし、出来るだけ消耗を抑えるようにする事だ。
ああいう現象が起きる魔法は聞いた事が無い、多分アレは勇者だけに存在するスキルか何かなんだと思う。
だとすれば、カズヤに頑張ってもらうしか無い。
◇◆◇
次は私の話だ。
これから先、今の適当な装備では心許ない、ちゃんとした装備をエルフの里から持ってこないとね。
そしてそのためには。
「私は一度里に帰るよ、今の装備じゃ心許ないし、魔導具なんかも持ってきたいしね」
それを聞いたカズヤは身を乗り出して驚いた。
「え!?なんで?」
「なんで、って、今話したろ?装備もちゃんとしたのに替えたいし、他にも魔導具なんかもねって」
「え~、一緒にいてくれるんじゃ無かったのかよ~、嘘つき~」
そう言って私の腕に縋り付いてくるので、引き剥がしながら言った。
「放しなさい。しょうがないだろ、里の者でないと入れないんだから、一人で行くしかない」
「じゃあ近くまで付いてく」
「子供か。ダメったらダメ、それに修行はどうするんだ、1週間もかからないから待ってなさい」
「あれ?もっと、1ヶ月以上掛かるかと……思ってたより早いね、エルフの里って何処にあるんだ?」
カズヤがそう思うのも無理はない、エルフの里は人里離れた深い森のそのまた奥にあると言われていて、簡単に行き来出来るような場所では無いと思われているからね。
しかし実際のところはそうじゃない。凄く遠いところにあるのは間違い無いんだけどね。
「それは秘密、それに場所を言っても分からないと思うし」
「ちぇ〜、まあしょうがないか、一人寂しくダンジョンに潜るよ」
「無茶だけはするなよ」
「気をつけるよ。そうだ!ミキが居ない間にパーティメンバー増やしちゃおうかな~」
「別に良いよ」
「え?そこはダメって言ってくれないの?」
「なんでだよ、元々増やしたくないって言ってたのはカズヤだからな?反対する理由が無い」
「なんだよ~、そこは「私がいるのに他の人を増やすの?」とか言って欲しかったなあ」
「いやそういうキャラじゃないだろ」
「そうだけどさあ、ちょっとはこう……まあ冗談だけどさあ、寂しいじゃん」
「違うぞ?これはカズヤを信頼してるからだ。安心してくれ」
「まじで?信頼、信頼かあ……そう思うとなんか嬉しくなってきた」
「だろ?信じてるぞ、頑張れよ、カズヤ」
「ああ、任せとけ!」
単純なやつだ、そういうところは可愛くもあるのだけど。
実際は戻ってきて女が増えてたらショック受けるだろうけどね、でもそれは言ってやらない。
カズヤを調子に乗せたくないしね。
というわけで、5日後に宿で落ち合う約束をして、カズヤと一旦分かれた。
私だって少し寂しい気もするけど、これは必要な事だ。
◇◆◇
王都を出て半日ほどの場所にある森に入る。
そして目印のある大樹を発見、回りに人が居ないか確認し、更に魔力探知でも気配が無いか確認する。
うん、誰もいないな、良し。
大樹の前で古代呪文を唱え、大樹に向かって突き進む。
すると大樹の幹にはぶつからず、そのまま、まるで幹に吸い込まれるように幹に入っていく。
実はこの大樹の幹は転移門となっていて、そこを通ってエルフの里に出入りするのだ。
エルフの里は古代魔法で作られた異空間にあり、そして里とこの世界を行き来する為の転移門は世界各地の森の特定の大樹の幹がその扉となっている。
その扉は古代呪文で顕現されて、その呪文は里のエルフにしか知られていないものだ。
だから以前の私は好きな時に適当な転移門を選んで、その近くの街に行っていた。
ちなみにカズヤがいた街は王都同様に転移門から近く、半日程度の距離にあった。
私一人ならカズヤの街から転移門を通って大体丸1日で王都まで行けるという事だ。
エルフは森に住んでいると言われているけど、実際はこういう事だった。
とはいえ、元々森に住んでいたエルフは異空間の里の様子も森のような風景になっているので森に住んでいるというのはそこまで間違いじゃないけれど。
さて、私の住むエルフの里は直径で大体1km程度の空間、住民は200人程度な為十分な広さと言える。
「ただいまー」
実家に帰って母親に挨拶をする。
すると母は驚いたような表情で「もう帰ってきたの?いつもより早いわねえ」なんて言われてしまう。
「またすぐに出掛けるよ、今度は50年くらいは戻らないつもり」
と伝えると「まだ少しはいるんでしょ?ゆっくりして行きなさい」って言うんだけど……。
この場合の"少し"は十数年くらいの感覚だ、すぐに出るから、と伝えると「もうちょっとゆっくりしていけば良いのに」なんて言うけども、本当にゆっくりしてたらカズヤがおじさんになっちゃうからね。
それでも3日ほどは里に滞在した。
装備を整え、魔法袋に魔導具を詰め込み、里の人たちと挨拶を交わし、少しだけ、人間感覚で少しだけ里帰りを満喫した。
里を出る前に両親に出かける事を告げ、転移門をくぐった。
◇◆◇
約5日ぶりだろうか、王都に戻ると陽が落ちてすっかり夜になっていた。
宿に戻ると丁度カズヤが晩飯を食べている最中で声を掛けられる。
「おーいミキ、こっちこっち」
近づくと、カズヤは立ち上がり抱き締めてきた。
まあうん、気持ちは分かる。
私だってカズヤがいない寂しさを感じていた。
思えば、再会してから1日以上離れて過ごした事が無いような気がする。
空気が悪くなっていた時でさえ基本的には一緒だった。
久しぶりに会って嬉しい、そんな気分になるのも分かる、分かるけど……ここ食堂なんだよね。
流石に人目が多い。注目を集めてるような気がして恥ずかしくなってきた。
「ちょっと、そろそろいいだろ、ここだと人目が多いから……」
「あ、そうだねゴメン、そんじゃ後でね」
カズヤは手を放し、ウィンクした。
いや、後なら良いってわけでも無いんだけどな……。まあ良いけど。
一緒のテーブルに腰掛け、合わせて晩飯を頼む、そしてやっと
「ただいま」
「おかえり、それが新しい装備?なんか軽装備だね」
「うん、魔法の力でね、常に様々な耐性と耐物理効果が付与されてて、それに適温に調節されるから寒い場所でも着込む必要がなくて、身軽になれるし、凄く良い装備だよ」
「へー、良いなあ魔法の装備、俺もそういうの買わないとな」
「ふっふっふ、そう言うと思ってちゃ〜んとカズヤ向けの魔道具持ってきてるよ、左手出して」
そう言って魔法袋からゴソゴソとソレを取り出し、カズヤの手を取り、甲を上に向けて、人差し指に指輪を嵌める。
「……婚約指輪なら薬指だよ?」
「バカ、これは腕に付けている防具に物理衝撃緩和と耐魔法障壁を付与する指輪だから、バックラーに丁度良いだろ?」
そう言いながら指輪を付けてあげると、カズヤはしげしげと指輪を眺めながらこう言った。
「いや、なんか嬉しいな、ミキに指輪を貰って、着けて貰えるなんて、効果よりそれが嬉しい」
乙女か!そんな事言われるとまだあるのに次がやり難くなるだろ。
「余計な事言わなくて良いから、次は右手出して」
カズヤは嬉しそうに右手の甲を上にして差し出してきた。
同じように右手の人差し指に指輪を嵌めてやると、先ほどと同じ様に指輪をまじまじと見るカズヤだった。
「こっちは大きなダメージを無効化してくれる指輪だ、無効化した後は24時間は効果を無くす、2つ共凄く貴重な指輪なんだぞ、大事にしろよ」
カズヤは左右の指輪にそれぞれキスをした。
「うん、ありがとう、絶対大事にする」
そう言ってカズヤは微笑んだ、いつもの何倍も嬉しそうだ。
うん、喜んで貰えて私も嬉しい。
……でもこれ、普通男女逆だよね?……いやいや、これはただの装備品、そういうのじゃないから。
◇◆◇
「で、そっちはどうなの?順調?」
私の要件は終わったので、食事をしながらカズヤの状況を聞く事に。
「ああ、まずダンジョンの事だけど、ミキが王都を出た翌日に攻略が完了された事が発表された」
「……と言う事は、ドミニクがダンジョン主を倒したって事?」
「そういう事、それにダンジョン主はどうやら魔王幹部、魔貴族の1人、地底の王アンダーリッシュだったんだってさ」
「地底の王か……て事はアースドラゴンはアンダーリッシュが連れてきた魔物だったのか」
「そうだね、それにしても魔王幹部を倒すなんて、あいつやっぱとんでもない強さなんだな」
本当にそうだ、魔王幹部がSランクなのは間違いなくて、それにあのアースドラゴンを従える程に強いだろうし、今のカズヤじゃ弱いと言い切られるのも納得だった。
ドミニクの強さは本物だ、でもカズヤにはそれを超えて貰わないと。
「それでダンジョンは5階層までなら一般冒険者も入れるようになって人が一気に増えたな、それより下層は変わらず勇者だけだけど」
「で、何処まで行けた?」
そう聞くとカズヤは嬉しそうに話し出した。
「1人だと9階層までだな、なんとか黄金覚醒も使えるようになって来て、大分戦力アップしたと思う」
黄金覚醒……例の金色のオーラの事か?
「ギルド長に聞いた名前がソレって事?」
「ああ、ギルド長が言うには、使える勇者は少ないそうだ。各勇者の特色、つまり得意な魔法に合わせた色になるんだとか。ちなみに黄金の部分は各自が適当につけてるらしい。今だと覚醒が使える勇者は俺込みで3人なんだってさ」
確か今勇者って5人いたよな?って事は2人はまだ覚醒が使えないって事か。
「で、こっからなんだけど、ダンジョンにはもう1人遅れて勇者が来るって聞いてただろ?その遅れてきた勇者に会ったんだよ」
「へぇ、その話しぶりだと嫌なやつじゃなさそうだな」
「だな、良いやつだった、それに良いパーティだったぞ」
「へーどんな?」
「よし聞け!あれは9階層の途中で──」
カズヤは楽しそうに語り出した。
なんか良いな、たった5日間程度なのに凄く久しぶりな感じだし、なんだか帰ってきたって感じがする。
こんな平和な時間だけなら良いのに。
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