24.アースドラゴンの角
ダンジョンを出て、王都へ戻り、冒険者ギルドに寄ると受付嬢にAランク昇格の連絡を受けた。
私とカズヤ、めでたく揃ってAランク昇格となったのだった。
Aランク昇格試験は存在せず、もうすでに前提となる最低限の礼儀や知識はBランクまでに身に付いているはずだから、という事である。
ちなみにSランクにはSランクの魔物を倒せばなれるようだ、アースドラゴンほどの魔物じゃ無くても良いからSランクを早いうちに倒したい所だね。
ダンジョンでの戦いを見る限り、もうカズヤにとってAランクは相性が悪い相手でもない限り有利に戦えるだろう。
だから今より強くなる事を考えるならやはりSランクを相手にする事だけど、そもそもそんな魔物自体が少ないんだよね。
それにSランクを相手にする、と考えるなら武器ももっと良いものにしたい。
決してミスリルが悪いわけじゃないんだけど、この先を考えるとね。
確かアースドラゴンの角を回収していたはず、あれは相当希少な鉱物で出来ていて、強力な武具になると聞いた事がある。
ミスリルを超える様なものならそれを武器にしたい。
という事でギルド長に王都の一等鍛冶屋の紹介状を貰って王都の一等鍛冶屋へと向かう。
王都の一等鍛冶屋だけあって店構えがかなり立派なものだった。
そして人の出入りもシリンダールの一等鍛冶屋とは比較にならないほどに多く、忙しそうだ。
「すみませーん、冒険者ギルドから紹介状をいただいたのですが」
カズヤがそういうと番頭らしいドワーフの男が応える。
どうやら一等鍛治師は忙しいらしく、紹介状があるからと言ってすぐに話が聞ける状態ではないらしい。
そして、まずは用件を担当の2等鍛治師が見聞きし、そして内容によって振り分けるとの事だった。
確かにこれだけの客の多い店となると、紹介状があるからといって1等鍛冶師が全て対応するわけにもいかないだろうし、仕方がないだろう。カズヤと私は素直に話を聞き入れ、アースドラゴンの角を担当の2等鍛冶師に見せた。
角を確認した後に2等鍛冶師は言った。
「これは……立派な角でとても硬くはある様じゃが、武具の素材としてはイマイチだな、これで剣を作っても耐久性が無くすぐに折れてしまうじゃろう、期待には沿えんだろうな」
そんなバカな。アースドラゴンの角は希少鉱石で優秀な素材でもあると読んだはずなのに。
でも口ぶりからすると今カズヤが使ってるミスリルの剣より良い物は出来そうにない。
これじゃそもそも作る意味もない。
「うーん、じゃあしょうがないですね、それでも良いので作ってもらっても──」
「待てカズヤ」
そのまま装備作成を依頼しようとするカズヤを制止し、依頼をキャンセルした。
「どうしたんだよミキ、別にキャンセルするのは良いけど」
「きっとこの角は凄い武器になるはずなんだ、だからちゃんと1等鍛治師に見てもらおう」
私には確信があった、本で学んで知っている事もそうだけど、この角は絶対凄い武器になる、そんな確信が。
それをあんな2等鍛治師になんか任せられない。
でも気軽に頼める1等鍛治師の知り合いなんて……あ!ザックなら!
「そうだ!カズヤ、ザックに見てもらおう、それでも強い武器にならないなら諦めるよ」
シリンダールの街の1等鍛治師ザック、彼なら知り合いだし、カズヤの事も気に入ってるし、頼りになるだろう。
「ああ、ザックなら1等鍛治師で見る目も確かだろうし、良いね」
というわけで、角を見てもらうために、次の目的地はシリンダールの街に決まった。
そして夜になり、ロイたちと一緒に食事の時間となった。
◇◆◇
「おーい、カズヤ!こっちだこっち!」
待ち合わせの食堂へ着くとすでにロイたちは到着して、もう始めていた。
早速飲み物を頼み、8人で乾杯をする。
そして自然と席は男組と女組へと別れたのだった。
カズヤはやはりロイと馬が合うようで楽しそうにおしゃべりしている。
なんだかシリンダールの街で飲んでいた時の事を思い出す。
そして私はというと、クラウディアの絡み酒に絡まれていた。
ロイたちにはカズヤのでまかせのせいで、私がカズヤの恋人という事になっている。
カズヤからも恋人のフリで良いから、と頼まれて仕方無く恋人を演じている。
そう、仕方無くね。
「ねー、ミキってエルフだけあって本当に美人よねー、だからさー、すっごいモテモテだと思うんだよねー、なんでカズヤを選んだのー?他にももっとイイ男いたんじゃなーい?」
思わず否定したくなる、別にカズヤを選んだわけじゃ……いやいや、フリだフリ。えーと何か理由は、と考える。
「あいつ、いい加減そうに見えて実はちゃんとしてるし。それに……あいつと私は気心が通じ合ってるって感じるし、優しいし、命懸けでも助けてくれるし、私の事をちゃんと見てくれていて、好きで、愛してくれてるって実感出来るし、なんていうか、あいつとは特別な強い繋がりを感じるんだよな。それにこの前も──」
自分でも驚くほどするすると出てきて饒舌になっていた。
そこで気付いた。
クラウディアとエリン、コリンの目が、さっきまでの好奇心の強い目では無く、慈しむかの様な目になっている事に。
「ハッ!?いやいや、うんまあ、ほら、なんでだろうね?おかしいなー、ちょっと付き合いが長いだけなんだけどなー」
あー、うん、手遅れ。全然誤魔化せてない。
おかしいなあ?まだハッキリと好きになったわけじゃない、じゃないはずだよね?
なぜかクラウディアたちに手をギュッと両手で握られ、お幸せに!と優しく応援されるのだった。
「耳の先まで真っ赤になってるミキも可愛いなー、美人って何しても絵になってズルいなー」
……くそー、なんで私ばかり、というわけで反撃を試みる。
「そういうクラウディアこそ、なんでロイと付き合ってるの?馴れ初めは?」
反撃のつもりだった、これでクラウディアが赤くなってでもくれたらと思って言ったのだけど、クラウディアは待ってましたとばかりに捲し立てた。
エリンとコリンは「あ」と言ってウィンダムの方へそそくさと行ってしまった。
「聞いて聞いて!元々はね、ロイを父が勇者として弟子として、連れて帰ってきたのが出会いなのよね。たまたま同年代だったのもあるけど、それから一緒に生活するようになって、面倒なんかも見て。初めは私より弱かったんだけど、努力してどんどん実力を付けていくロイを見て、そのひたむきさやまっすぐさに、私より強くなっても全然悔しくなくて、むしろ誇らしかった。それに私も努力して、なんとか同じランクでいられる様に頑張ったしね」
理解る、ひたむきに努力して成長する男って良いよね。
それに惹かれるのは当然なのかもしれない。
その後もクラウディアのロイ自慢と惚気は続き、私はひとりでずっと聞き役になっていた。
そんな感じでそれぞれ盛り上がって、私たちは親睦を深めたのだった。
ロイたちは明日出発し、魔王に支配されている領域へ向かうそうだ。
私たちも、ザックにアースドラゴンの角を武器に変えて貰ったら向かうつもりだ。
「それじゃ、またな!カズヤ!」
「またね、ミキ」
「ああ、ロイたちも!」
「うん、またね」
そうやってロイたちと別れを告げた。
◇◆◇
翌朝、王都アクセンペダルを出て、シリンダールの街へ向かう。
道中で魔物の襲撃や盗賊の砦を殲滅させたりなど、適度に寄り道したりして戦闘をこなしつつ街へ着いた。
まずギルドに顔を出し、その後ザックの鍛冶屋へと向かう。
「よおザック!いるかー?」
店先から大声でザックを呼ぶカズヤ、それに応える様に店の奥からザックが出てくる。
「おお、誰かと思えばカズヤじゃねーか。ちょっと見ないうちにまた逞しくなったな。で、どうしたんだ今日は」
「見てほしい物があるんだ、ミキが言うにはこれは凄い鉱物だからきっと良い武器になる、らしいんだけど、王都の2等鍛治師には硬いだけで良い武器にはならないって言われたんで、ザックに見てもらおうって事になって」
そう言うカズヤの横で私は魔法袋からアースドラゴンの角を取り出した。
「ほお、アースドラゴンの角か、初めて見るが、……ふーむこれは確かに」
ザックはアースドラゴンの角を調べ始めた、そして少しして。
「一見すると確かにただ硬いだけでそこまで良い武器になりそうもないな、だが少し気になるところがあるから少し調べる時間をくれ、……そうだな、夕方にまた来い」
ザックでも初見だと王都の2等鍛治師と同じ見解らしい、だけど気になるところがある、というのが救いだろうか。
「じゃあ頼むよザック、これは絶対に凄い物なはずなんだ」
「まだなんとも言えんな……期待しすぎるなよ」
私とカズヤは祈る様な気持ちでザックの店を離れ、宿をとり、ギルドで時間を潰していた。
私たちは久しぶりの冒険者仲間との再会を祝い、楽しい時間を過ごした。
夕方となり、ザックの店へ出向く。
するとザックは店の前で私たちを待っていた。
近ずくとザックは興奮しながら言うのだった。
「おいカズヤ!ミキ!ありゃとんでもない代物だったぞ!」
ザックにしては珍しく興奮気味だった。
私たちが店内に入るとザックは表の扉を閉めた。
「おいカズヤ!この角はミキの言う通りとんでもない鉱物だ!これはな、伝説の鉱物、オリハルコンだ!」
「ええ!?」
なんと!アースドラゴンの角は伝説の鉱物であるオリハルコンだった!
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