2.一生一緒に(暇つぶし)


「400年って言われてもなあミキ……じゃなくて、クレール、俺だってびっくりしてるんだぜ、まさか探してた親友が女エルフになってるなんて思うわけないだろ」


「ミキで良いよ、親友だから特別だぞ。それに私もお前の事はカズヤと呼ぶからな」


「え?……まあ良いけどよ。……それにしても、エルフを飲みに誘って、OK貰えたってのにまさか、なあ」


「なんだ、イケるとでも思ったか?残念だったなカズヤ、エルフ様がそう簡単に落とせるわけないだろう。それに私には酒が効かないから、酔いもしない」


「なんだよそれ、反則だろ。ってか、なんでその気もないのに誘いに乗ったんだよ、気を持たせやがって」


「ん?そりゃあ簡単な話だ、暇で退屈だからだ。冒険者の面白い話を聞きたい、それ以上の理由は無い。それに良いじゃないか、お陰で探してた親友とも巡り会えたんだから」


「まあ……そうだけどよ」


「なんだよ、まだ何かあるのか?」


「いやもういい、ミキだと思うとそんな気も失せる、……折角美人のエルフなのに」


 そう言ってカズヤは私の顔を見て溜め息をついた、なんて失礼なやつだ。

 でもそのほうがいい、流石に性欲ギラギラさせたやつとは親友と言えども一緒にいる事は出来ないからな。


「まあまあ、そんなに気を落とすな、これからは親友の私が一緒にいてやるから安心しろ。私だって50年くらいカズヤを探し周ってたんだぞ、大体350年くらい前の事だけど」


「50年って……そりゃ凄いな、そうか……50年か……。ミキ、ありがとな」


 人懐っこい笑顔を素直に返してくるカズヤ、前世と同じように良い笑顔だ、懐かしいな。

 この笑顔は強力な武器だ、頼み事なんかはこの笑顔を見せられると断りにくい。


「ところで一緒に、って良いのか?確かに俺もミキと一緒に行動しようと思って探してたけどさ、何か目的があって出て来てるんじゃないのか?」


「別に構わないぞ、私だって前みたいに親友として仲良くしたいと思って探してたしな。それにエルフの私からすればカズヤが死ぬまで一緒だとしても100年も無いだろ?お前の一生くらい付き合ってやるよ」


「一生くらい、か。……そうだな、……じゃあ付き合ってもらおうかな。俺も助かるし、頼むぜ親友」


 カズヤは一度顔を落とした後、吹っ切れたように顔を上げ、いつもの笑顔で応えた。

 エルフの私からすれば人間の一生なんて短いものだ、カズヤが悪いと思うようなものじゃない、私には時間なんていくらでもある。

 それに、カズヤと一緒なら退屈しなさそうだしな、これで少しの間は里に帰らなくて済みそうだ。


「ああ、私のほうこそよろしくな。……ところでどうする?今からでも他の女をナンパしてもいいんだぞ、邪魔をする気は無いから」


 一緒にいるとは言ったがカズヤの邪魔をする気は無い私だ、夜のお楽しみぐらいは見てみぬ振りをしてやろう。

 しかしカズヤは考える素振りも無く、すぐに応えた。


「いや、もう今日は良いや、それより折角17年振りに再会したんだ、今日は飲もうぜ。って酒の味は分かんないだっけ」


「いいや、酔わないだけで味は分かるから安心しろ。それに、17年じゃなくて417年振りだ」


 この世界の人間は15才で成人で酒も15からだ、だから前世ならまだ飲めない年齢であるカズヤも問題無く酒を飲める。


 2人で酒の入った杯をかかげる。


「随分と待たせたな。……それじゃあ再会を祝して、乾杯!」


「かんぱーい!」


 そうして2人で夜遅くまで昔話に花を咲かせ、大いに盛り上がった。


◇◆◇


 翌朝、やかましさで目が覚める。

 目を開けると隣にいるカズヤが何か騒いでいた。


「ミキ!お前なんで裸なんだ!まさか俺──」


「落ち着けカズヤ、お前が思うような事は起きてないから。お前が酔いつぶれたから私がお前の宿まで運んでそのまま寝ただけだ」


 そう、結局昨夜はカズヤが酔いつぶれてしまい、私が宿の場所を聞きながらここまで運び、ついでにそのまま一緒に寝ただけだ。


「いや待て待て、俺が酔いつぶれたとしてもだ、なんでミキが横に寝てて、んで裸なんだ?」


「そりゃあお前、まだ街に来たばかりで宿をとってないし、私はいつも裸で寝るからに決まってるだろう、他に理由があるか?」


 里は魔法の力で常に適温に調節されていて、性欲が沸かない事もあってか他のエルフも含めて裸で寝るものが多い、そして私も裸で寝る習慣がすっかり身についてしまっていた。

 流石に裸で歩き回る者は居なかったけど。


「ミキお前な……だとしても危険だろう、まさか1人の時でも裸で寝てるのか?」


「当たり前だ、といっても寝る前にはちゃんと結界を張って他人は入ってこれないようにしてあるから安全だ。……そういや以前、野宿してる時に朝起きたら賊共に囲まれていた事もあったな、あのギラついた目を思い出すだけで寒気がする、あー気持ち悪い」


 それを聞いたカズヤは呆れたような顔をする。


「だったら外で裸で寝るなよ、それ、大丈夫だったのか?」


「ああ、魔法で全滅させたよ。まあ今際の際に良いもん見れたんだからあいつらも満足だったろ」


「うーん、……まあ確かに良い身体だ、エルフってのはみんなそんなにスタイルが良いもんなのか?」


 そう言いながらカズヤは不躾けにジロジロと私の身体を観察してくる。

 私はそれでも身体を隠したりはしない、この身体には自信があるし、こう言っちゃ何だが余り恥ずかしいと思わないのだ。

 理由は2つ、赤の他人では無く親友のカズヤは私が男だと分かってる事、エルフ特有の少ない性欲のせいで裸を見たり見られたりする事を恥と感じない生活が長い事。

 流石に他の人間にむやみに裸を見せたりはしない、無駄に性欲を刺激しても良い事はないし。

 

「いや、ここまで胸が大きかったのは少ないよ、どちらかというと小さいのが普通だな」


 自分の胸を包むように下から持ち上げる。

 400年も経っているというのにだらんと垂れる気配が無い若々しく瑞々しい張りと、柔らかさを兼ね備えている自慢の胸だ。


「はあ……ミキなんだよなぁ……」


 呟いてため息をつく、なんて失礼なやつだ。


「堂々とため息をつくな、仮にも女エルフの裸だぞ、中々見れるもんじゃないんだぞ、裸の女とは無縁だったくせに」


 前世では女と付き合った事が無かったはずだ、私もだが。

 しかしカズヤはその言葉にフフンと鼻を鳴らし、ドヤ顔で腕を組んだ。


「前世なら顔を逸らしたりしたかもな、だけど今世は違うぜ。顔もイケメンだし俺自身も女の子に声かけまくりでさ、今じゃ結構モテるんだぜ。当然それなりに経験もあるしな」


 私は素直に感心した、確かに整った顔つきではあるが、やるじゃないか。


「へー、じゃあ女の裸なんて見慣れたもんなわけか」


 それを聞いてカズヤは頭を掻いた。


「見慣れたもんだよ、そのはずなんだけどな。その俺を持ってしてもエルフの、いやミキの身体は綺麗だよ、人間の女なんか比較にならないくらいにな」


「おいおい、口説いてんじゃねーよ、無駄だぞ」


「ちッ、違うって、そういう意味じゃなくてさ、本当に比較にならないんだよ」


 そう言って、大きくため息を吐いた。


「へー、まあ、知ってたけどな」


 人間とエルフでは寿命は当然として、見た目から違う。

 長く尖った耳、長く大量のまつ毛、癖が無くまるでキラキラと輝くような金髪か銀髪、透き通るような白さときめの細かい肌、何もしてないのに人間が一生懸命に手入れをしているより綺麗なんだから。

 そして基本的にエルフは身長が高くスレンダー、しかし胸に関しては私はエルフの中では特別に大きかった。


 長くて綺麗な金髪と、きめ細かい白い肌、そして大きな胸、さらに露出の多めな軽装の服、そりゃあ男の目を引くというのも納得だ。


 私は起き上がり、魔法袋から取り出した服を着る。

 合わせてカズヤも服を着て、そのまま冒険者ギルドへ2人で向かった。

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