女エルフに異世界転生して親友(勇者候補)と再会する話

エイジアモン

1.400年振りの再会


「聞いてくれよクレール、これは内緒の話なんだけどさ……」


 私はクレール、417才のまだ若いエルフの女。

 そして目の前にいるこの人間の若い男はたしか……マシューだったかマーシュだったか、たしかそんな名前だ。


 人間の男というのは私がエルフと見るや直ぐに飲みに誘ってくる、エルフがそんな誘いにホイホイ乗るとでも思っているのだろうか、軽く見られたものだ。

 まあ私が暇で気が向いたら付き合う事も無くは無いのだけれども。


 私には毒が効かない、毒無効というのは冒険をする上で非常に便利だ、きのこや植物には毒を持つものも多く、これのお陰で普通なら美味しいのに食べられないものでも食す事が可能だ、つまり何が言いたいかと言うとお酒で酔う事が無い、という事だ。

 ただ酔う事が無いというだけで酒の美味しさは分かる、まあこんな酒場で女に飲ませる酒など果実酒のように甘くて度数が高いだけの酔わせる事が目的の、お酒としてはたいして美味しくも無い酒なのだけれども。

 男というのはバカの一つ覚えのようにどいつもこいつも酒で酔わせて判断力を無くさせ、部屋に連れ込もうとする、私の場合は毒無効のお陰で男のほうが先に酔い潰れてしまう。残念な事だ。


 飲みに付き合うからといってその先まで付き合う気はないし、御免被る、最後まで付き合った事は一度も無い、その証に私の身体は純潔のままだ。


 じゃあ何故男の誘いにのって酒を飲むかというと、私の興味を引こうと一生懸命に嘘か真か面白い話をしてくる、私はそれを聞くのが好きだ。

 私はたかだか400年程度しか生きていないがそれでも里にいると毎日は退屈だと感じる、だから街に出て冒険者をしながら男達の与太話やら武勇伝を聞くのが楽しみの一つでもある。

 ただでご飯やお酒も飲めるのも悪くない。



 男に興味が無いわけでは……いや、無いな。かといって女に興味があるわけでもない。

 エルフとは恋愛感情や性的な物への興味が薄く、好きな相手というものが出来にくいものらしい、まあ人間みたいに短いサイクルでどんどん増えて減ってを繰り返していないのにはわけがある、という事だ。

 あ、家族愛みたいなものはあるから安心して欲しい。


 無理やり襲ってくるような輩も居なくはないがそういう連中は私の魔法で痛い目を見る。


 さて、自己紹介はこれくらいにして話を戻そう。


◇◆◇


「へー、内緒の話?面白いの?」


 こういう内緒の話というのは大抵の場合大した事はないし、内緒の話でも何でもない、期待外れだ、しかし退屈な私は聞いてあげよう。


「面白いかなー?ちょっと分かんないな、信じてくれれば面白いかもね」


 なんだそれは、そこは面白いと言い切って欲しいところだ、聞く方の身にもなって欲しい、ますます退屈しそうだ。

 だが一度話を聞いてみない事には判断も出来ないし、退屈な私は先を促した。


「どんな話なの?聞かせてみせてよ」


「それじゃあ話しちゃおうかな、聞いて驚くなよ。──クレール、異世界転生って分かる?実はね、俺はそれでこの世界に来たんだ」


 異世界……転生?なんだその話は、聞いた事も無い言葉……のはずだ。

 しかし何故か私はこの言葉を知っている。


「え?異世界転生?」


「お!?異世界転生って言葉を聞いて呆れない人は初めて見たよ、殆どの人はここでもういいや、バカ言うなってなるんだよね、続き聞いてくれる?」


 内緒の話って言っていたのに何人にも話したのか、そうだろうとは思ってたけどね。

 そんな事より私は話の続きに興味津々になっていた。


「うん、続きは?」


「此処とは違う世界に生きててさ、親友と一緒の時に事故にあって死んじゃったんだ、ところがね、死んだはずなのに目が覚めて、気付いたらこの世界に生まれてたんだよ、凄くない?」


 私の中の何か疼く、その原因を知りたくて、男に続きの話をするよう促した。


「おー、良い食いつきだね、じゃあ、ここからは本当に内緒の話、クレールにだけ特別だ。さっきこの世界に生まれたって言ったよね?なんでそれが分かったかと言うとね、実はその前世の記憶がしっかり残っているんだよ。それでね、俺の旅の目的ってのは親友探しでさ、オレがこの世界に来たのならそいつもこっちの世界に来てるはずだ、って村を出て冒険者をやりながら探してるんだけど、中々会えなくてね」


 そういえばさっき親友が一緒だとか言っていた。

 親友探し……なぜだろうか、私もそれをしたような気がする。まだ生まれて間もない頃の話だ。


「それでね、前の世界でのオレの名前は柊木ひいらぎ 和也かずやって言うんだ、この世界だと珍しい名前でしょ、和也がファーストネームで柊木がこの世界で言うところのラストネームってとこかな、といっても貴族じゃないんだけどね。どう、驚いた?」


 ヒイラギ カズヤ、その名前を聞いた時、私は全身が雷で打たれたような衝撃を受けた。


 私はそれを知っている、いや、知っているなんてもんじゃない、その名前は私の親友の名前だ。

 瞬間、記憶が蘇る、それは前世の記憶とエルフとして生まれて間もない頃の記憶だ。

 今頭の中を占めているこの記憶、それを確かめたい。この記憶は正しく、そして現実の出来事なのか、もしかして私は人生で初めて酔っ払っているのかも知れない、それを確かめる為に言葉を繰り出す。


「もしかして、そのカズヤが居た国の名前は日本で、親友の名前は氷鷹ひだか 未来みきだったりしないか?」


 私の言葉を聞いたカズヤは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた、それは全く予想外の言葉だったのだろう、当たり前だ、国の名前も親友の名前も言い当てる事が出来るやつなど、その親友本人しかいないのだから。

 やはり私は酔ってなどいないし、この記憶はカズヤに会った事で蘇ったようだ。


「……え?」


「やっと会えたな、カズヤ」


 カズヤは固まっていた、それはそうだろう、探していた親友がいきなり目の前に、エルフの女になって現れたのだから、にわかには信じられないのも無理はない。


「えええええーーーーーッ!!!!」


 カズヤはガタリと立ち上がり、大きな声をあげた。


「落ち着けカズヤ、まあ座れ」


 カズヤの肩に手を置き、ゆっくり座らせる。


「ほ、本当にミキなのか?だって……まだこの世界に転生して17年のはずだろ?」


「文句を言いたいのはこっちだ。なんで今頃転生して来てるんだ、400年だぞ、400年」


◇◆◇


 カズヤの名前を聞いた事で私は全てを思い出した。


 私は417年前に異世界転生して女エルフとして生を受けた。

 カズヤと同様に転生前の記憶があり、異世界転生してファンタジー世界の代名詞、あのエルフになれた事を喜んだものだ。

 エルフの里を動き回れるようになってきた頃、同じく転生したはずのカズヤを探し始めたがエルフの里にはいないようだった。

 前の世界の記憶と時間感覚がある私からするとエルフの里は退屈そのものだった、それにカズヤを探す必要もあったので里で何百、何千年も過ごすなど耐えられなかった。


 エルフは生後、人間における17才程度までは人間と同等の速度で成長する。

 そこからも多少は成長するが老化はせず、若い肉体を維持し続けて何千年とも永遠とも言われる寿命がある。

 私が居た里では老衰で死んだエルフはまだ存在していなかった、たしか私が生まれた当時で3000才近い長老が居たが見た目は私達と変わらず、私にはただ態度のでかい若者としか映らなかった。


 17才を迎えた日に魔法袋に魔法書を詰め込み、里を飛び出した。

 その後定期的に里に帰っても特に怒られたりもしないし、100年程度だと「あら、もう帰ってきたの?」と言われるぐらいの時間感覚だ。


 その後は冒険者なんかをやりながら大体50才を迎えるくらいまではカズヤ探しを続けたが結局見つからずじまいで、その内に私は前の世界の事もカズヤの事もすっかり忘れてしまっていた。


 残ったのは、"退屈嫌いの風変わりなエルフ"だった。


 退屈を感じてはふらと人里におりて冒険者なんかをやって紛らわし、また里に戻ってのんびり過ごす、そんな時間を繰り返し過ごしていた。


 今回もまたそのタイミングでふらっと適当な街に来て冒険者ギルドで人間を観察していたらカズヤに声を掛けられ、暇と退屈を持て余した私は何の気無しに酒と飯を奢って貰ったというわけだ。


 私にはこれが運命と思えた。


 400年というエルフにとっては短くも、一人の人間には途方もなく長い年月、たまたま里から出てきたタイミングに転生前の世界の親友が居て、私に声を掛け、そして私は全ての記憶を思い出した。

 この巡り合いを運命と言わずしてなんという!


 カズヤが人間という短命種なのは非常に残念だが仕方が無い、お前の人生、また私が親友として一緒に過ごしてやろうじゃないか。

 たかだか100年にも満たない時間だろうが、良い暇つぶしにもなるだろう。

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