3.カズヤの実力


「今冒険者ランクはどれくらいなんだ?」


 少し顔を上げて、カズヤを見ながら聞いてみる。

 私は168cmあり人間の女性から見ても大きいほうだと思うが、カズヤはさらに大きく、多分身長は180cmを優に越えているだろう。

 しっかりした身体付きも相まって、さらに大柄に見える。


「今はDランクってところだ、基本ソロだから中々ね」


「私はCランクだったかな?まあ私の場合はランクとか気にしないってのがあるけど。……でもなんでソロなんだ?パーティなんかは余裕で組めそうだけど」


 カズヤは少し考えて、私を指さして言った。


「そりゃパーティなんて入ってたらお前を探せないだろ?だからだ」


「……確かに」


 パーティに入ると親友探しは中々難しいし、自由行動は出来なくなる、納得の理由だった。


「だろ?これでやーっとミキとパーティ組めるってわけだ」


 私を探してパーティを組むためにソロだったとは、中々嬉しいじゃないか、見直した。

 

「そうだな、で、どうするんだ?前世で言ってたようにハーレムパーティでも組むか?」


 からかい半分で前世でよく言っていた妄想を言ってみると、カズヤは私をじっと見て、あっけなく言った。


「いいや、やっぱ止めとく、ミキがパーティ組んでくれるんだろ?臨時パーティならともかく、普段は2人で良いだろ」


「別に良いんだぞ、ハーレムパーティでも邪魔するつもりないしな」


 カズヤは少しだけ困ったような表情になって応える。


「2人で良いんだ、だって折角再会したんだぞ、それに死ぬまで一緒にいてくれるんだろ?」


「ああ、死ぬまで一緒にいてやるよ。でも女として付き合ったり結婚なんてゴメンだからな」


 念押しで言っておく、もしカズヤが勘違いしていたらお互い困る事になるだろうし。


「……分かってるよ、今はそんなパーティを組む気分じゃないってだけだ」


「それにしても、折角ハーレムパーティで唯一カズヤになびかないキャラをやれると思ったのになあ、残念残念」


 私は頭の後ろで手を組んで、いかにも残念そうに言うのだった。


「なんだよそれ、……でもあれだろ?そういうキャラも最後には俺の事好きになっちゃうんだろ?知ってる知ってる」


 カズヤはようやく嬉しそうに言うのだった。


「あー、あるある、……いや、無いからな?」


「そういうキャラって初めはそう言うんだよなー」


「いやねーから!」


「はいはい」


「はいはい、じゃなくて!」


 そんな感じで軽くじゃれ合いながら2人でギルドに着いた。


◇◆◇


 冒険者ギルドに入って適当な席に着いた。

 昨日はギルドについて直ぐにカズヤにナンパされたので今日はじっくりとギルド内を観察する。

 前に来たのは確か30年前くらいだったと思う。

 多少の変化はあっても雰囲気は殆ど変わっていない、冒険者ギルドってのは基本的に私が初めて来た時から雰囲気が余り変わっていない、ある意味安心する。


 ちょっとクエストを見てくる、とカズヤが言うので見送ると、直ぐに知り合いだろう冒険者の男にカズヤが捕まっていた。


「おい、あのエルフちゃんと上手い事やったのか?良いなあ。どうだった?」


「いやそんなんじゃ……。いや、良かったよ、人間とは比べ物にならないくらいにな、それで一生俺と一緒にいてくれるってよ、良いだろ」


「マジかよ!?うわー、羨ましいなあ、くっそう、俺が先に声かけてればなあ」


 エルフの耳を舐めるな、しっかり聞こえてるぞ。

 てかなんだよカズヤ、そんな風に思ってたのか?ガッカリだ。

 なんだか一気にテンション落ちた、昔のままだと勝手に思ってたのが間違いだったのかなあ。

 考えてみればもうこっちで生まれて17年経ってるんだったか、たった17年だっていうのに、……まあ、私だって変わった。カズヤの事は言えないか。

 だとしてもショックはショックだ。


 そんな事を考えているとカズヤが戻ってきた。

 こっちの気も知らんと嬉しそうな顔をしやがって。さっきの会話は丸聞こえだったんだぞ。


「ミキ、ちょうど良いクエストがあった、それが上手くいけばCランク昇格試験を受けられるぞ」


「へーそーかい」


 露骨に態度が変わった私を見て何か感じ取ったカズヤは何事かと聞いてくる。


「ん?どうした?なんかあったか?」


「いや別に、行こうか」


 私はそっけなく言い放ち席を立つと、慌ててカズヤも追うように席を立った。


 クエストは街の近場に出現した中難易度魔物の討伐だった。

 確かに手頃な場所、強さだ、これなら日帰りで終わらせられる美味しいクエストだといえよう、私なら。

 ただDランク冒険者が受けるような討伐対象の魔物ではないけど。


「おい、Dランクには厳しいんじゃないのか?5体のワイバーン討伐なんて」


 ワイバーンとは簡単に言うと羽の生えた少し大きなトカゲだ、人間は竜種として扱ってるけど、そんな格は無い。空を飛ぶトカゲだ、竜が聞いたら怒るだろう。

 ただ火の玉を吐くし、空を飛ぶしで厄介な魔物である事には変わりない。

 ギルド基準では最低でもCランク以上のパーティじゃないと受けられないはずだった。


「ああ大丈夫、これくらいならな」


 強気に言い放つカズヤ、私の魔法ならば容易く倒せるけど、ここはカズヤの実力を図るためにも手出しはしないでおこうと思う。


 カズヤは剣を掲げて何事か呟いた。

 すると5体のワイバーンに雷の魔法が落ちた、避ける間も無く雷に撃たれたワイバーンはそのまま墜落した。

 地に落ちたワイバーンなどただの火を吐くトカゲだ、それにさえ気をつければDランクでも倒せる相手だ。

 そもそも墜落ダメージで深手を負っているので余裕だと思う。

 カズヤは華麗な剣筋であっさりと5体のワイバーンを切って伏せた。


 いともあっさりと、何事も無いかのように5体のワイバーンを片付ける様を見て、私は驚いた。

 確かに強い、剣の腕も確かなようで、しかも魔法まで使えるなんてな。


「やるじゃん」


「まあこれくらいはね、伊達にソロじゃ無いって事」


「だとしてもだ、へたすりゃBランクはあるぞ」


「まだまだだよ、俺の目指すところはもっと高みだからな」


「へー、って、聞いてもいいか?」


「良いぞ?」


「なんでDランクがワイバーン討伐なんてCランクパーティ推奨のクエストを受けられるんだ?」


「そりゃ……ギルド長に実力を認めてもらったからな、上位のクエストでも受けさせて貰えてるってわけ」


「……そう言うもんなのか?」


 そんな事がまかり通るもんだろうか、よっぽどの実力を示すか、他に何か理由が無いとダメだろう。

 今ひとつ納得しかねるが実際に受けているのだからそうなのだろうが、そんな事があるなんて、30年で変化でもあったのかな。


「そう言う事、良いじゃないかそんな事は、さあ、クエストをこなしたし報告に戻ろうぜ」


 その後、ワイバーン討伐クエストの達成報告を終え、カズヤはそのままCランク昇格試験を受け、無事に合格し、晴れてCランク冒険者となったのだった。


◇◆◇


 それからカズヤと私は2人でいくつかのCランククエストをこなし2週間ほど経った。


 カズヤは想像していたより強く、剣技だけでもBランク中位はある、さらに雷を中心として攻撃魔法をいくつか使えるのも強い。総合的に見てBランク上位は間違いないだろう。


 翻って私はというと、魔法の腕だけなら余裕でAランクの実力を持っている。

 ギルドへの報告をしていない討伐なんかもあるし、そもそも魔法の研鑽に使っている時間が人間とは比較にならないのだ。

 さらに私はエルフの中でも魔法の才能と魔力が高いらしく、天才と言われていたほどだった。


 使える魔法の種類は多く、攻撃、支援、回復、その他便利魔法なんでも使えてしまう。

 魔法を使うにはイメージが大事だとかで、前世でファンタジーアニメや漫画にゲームが大好きだった私は魔法のイメージが簡単に出来たのも大きいと思う。


 そんな魔法の腕は間違いない私だけど体力は残念な事になっている。

脆弱というわけではないはずだけど、一般的な冒険者より間違いなく非力だろう、普通の17才女性よりはましだけど、ましなはずだ。



 寝泊まりする場所についてだけど、宿は引き続きカズヤの部屋に泊めてもらおうと思っていたら3日目の朝に追い出された。

 理由は狭いベッドで裸で寝るなという事で、随分と怒られてしまった。

 カズヤだって嬉しい癖に、と言ったら余計にキレて追い出されてしまった。


 気持ちは分からなくも無い、普通の女じゃなくて親友だからな、それが狭いベッドで裸で寝られるのは確かに嫌だろう。

 それに他の女性を連れ込む事も出来ないし、そこは気を使わないといけなかったと後から気付き反省した。

 

 というわけで隣の部屋が空いていたのでそこの部屋を借りる事にしたんだけど、そうなると違う問題が発生した。

 私は朝起きるのが遅く、中々起きてこない私をカズヤが起こしに来るのだ。ちなみに結界はカズヤだけスルーするようにしてある。

 となると当然裸で寝ている私を見て、また怒る。

 

 朝遅いのは生活サイクルがエルフだからで、裸で寝るのもエルフだからだ。

 結局カズヤが毎日私を起こしに来る事になっているんだけど……これなら一緒に寝てた方が良くない?とカズヤに言うと、それはダメだ!とまた怒る、なんだよもう……。

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