7.Bランク冒険者と勇者


 カズヤから告白を受けてから約半年が経った。

 カズヤとの関係はあれからあまり進んでいない、と思う。


 朝はまた以前の様に起こしに来てくれるように戻った。

 今では私の身体が朝に慣れてきたのかカズヤが起こしに来る前に起きる事も少しずつだけど増えてきた。

 早く起きたとしてもまどろんでいたり、魔法書などを読みながらカズヤが来るのを待つのだけど。


 少し前、早起きしてまどろんでいるとカズヤが起こしにきたので寝たフリをしていたら、私の顔をずーっと眺めていた。

 私は寝たフリがバレたと思い、我慢出来ずに起き上がるとカズヤはビックリしていた、どうやら寝たフリがバレていたわけではなく、いつもそうして眺めているらしい。

 なんでそんな事をしているのかと尋ねるとあっさりと答える。


「そりゃあ、好きな人の寝顔を眺められるんだ、しかも絶世の美人だ、いくらでも眺められる。美人は3日で飽きるっての、ありゃ嘘だ。3日で飽きるなら美人じゃなかったんだろう」


 こいつ……。

 よくそんなセリフを本人の前で言えるな。

 この感情はなんだろうか、呆れ、だろうか。しかしカズヤはブレないな。


 あの告白から、カズヤは私に対する気持ちを隠さない、むしろ開けっぴろげに、これ見よがしにアピールしてくる。

 そして他の男が私に手を出そうとしたら邪魔をする。


 俺の女に手を出すな、お前のじゃないけどな、というカズヤと私のやりとりは最早定番だ。

 そしてその後に続く私たちの掛け合いは他人に言わせるとただのイチャイチャらしく、気付くと声を掛けてきた男は居なくなっている。


 その度にカズヤはドヤ顔をする、少し可愛くもムカつく顔だ。


 あ、そうそう、今は流石に裸では寝ていない、以前ならともかく、好意を持たれてると分かっているのに裸で寝る大サービスなんて、という思いと、少しの恥ずかしさを感じるからだ。

 カズヤは露骨にがっかりしていたけど、元々服を着ろと言っていたのはカズヤだからな。


◇◆◇


 カズヤと私は今Cランク冒険者で、今回受けたクエストはBランクパーティ用クエストだ。

 今はそのはぐれオーガの群れを一掃し冒険者ギルドに戻ったところだった。


「これでBランク昇格試験を受けられるな、2人揃って無事にBランクになりたいもんだな」


「そうだな、私はあんまりランクアップには興味が無かったけど、カズヤの足を引っ張るわけにもいかないからな」


 というわけでカズヤがCランクになって約半年、早くもBランク昇格試験を受けられるまでになった。

 このペースは普通じゃ考えられないほどの早いペースだ。


 未だにカズヤだけが何故、自分のランク超えのクエストを受けられるのか不思議でしょうがない。

 確かに実力はBランク上位相当は、いや、今ならさらに上もあると思うけど、それでもだ。

 絶対何かある、聞いてもはぐらかされたり秘密だといって誤魔化されたりしていた。


「Bランクになったらさ、ミキに伝えたい事があるから楽しみにしててくれよ」


 いつもの人懐っこい笑顔で伝えてきた。

 え?なんだろう、今更私への好意……はもう知ってるからそうじゃないだろうし、うーん、分からないな。


 2人でクエスト達成の報告をして、ランク昇格試験の案内を受ける。

 私にはとっくに昇格試験の案内があったけどどうせならとカズヤと同じタイミングを待っていた。


 筆記試験と実技試験があって、筆記試験の内容は算術の試験で、前世で日本に生まれた私たちからすれば、算術は何もしなくても余裕だった。

 実技試験は簡単な礼儀作法と戦闘技術の試験で、礼儀作法の勉強をしっかりしていた私もカズヤも余裕だ。


 戦闘技術の試験はBランクともなるとその実力を測る事が出来る人物がそもそも少なく、私たちの場合は既にBランククエストをこなしているし、さらにその上、Aランククエストをこなせるかを見るのだけど、そのランクの冒険者などは希少なので此処にいるわけも無く、ギルド長は、死ぬなよ、とだけ言い残して合格となった。


◇◆◇


 合格の後、ギルドの受付嬢マリンから少し後にギルドで発表を行うので此処で待っていて下さい、と伝えられた。

 控室、というか会議室みたいな場所で私とカズヤ、2人きりで待つ事となった。


 カズヤは私に向き直り、声をかけてきた。


「そんじゃ、一番始めにミキに伝えるな」


「あ、ああ」


 いやほんと、一体なんだろうか、全く想像出来ないんだけど。


「俺、勇者になった!」


「……え?」


 何言ってんだこいつは、今更厨二病か?

 いやいや、こっちの世界でも誰かの話で勇者という存在は聞き覚えがある、いや、だけどカズヤの事だ、何かの冗談という事もありえる。

 それに……確かに昔、魔王はいた。私が知っているのは150年くらい前のだけど。


 困惑している私を余所に、カズヤは続ける。


「実は俺は勇者適性を持ってこの世に生を受けたんだ、そしてBランクになった今日、やっと正式に勇者になったいうわけなんだ」


 カズヤの説明によるとこうだ。

 この世界の人間は生まれ持った適正があり、子供時代にそれが判明するらしい、適正にあった方面に進むのも進まないのも自由であるとか。


 人間が適正を見通される事は知っていた。

 たしかあれは本人の資質で一番のものをあぶり出し、それを伝えるんだったか。


 そしてカズヤは非常に希少な勇者適性なるものの持ち主で、勇者になるために冒険者となったそうだ。

 勇者適正を持つだけでイコール勇者ではなく、Bランクになって始めて勇者として国とギルドから認められる。


 勇者も適正で選ばれてたとは、知らなかったな。 


 勇者適性を持つ、というだけで回りからの期待や圧が強くなり、それに押しつぶされたり、勇者適正がある者でもCランクから上に進めない者などもいる事から、実際に勇者と認められるBランクになるまでギルドでは勇者適性がある事は秘密とされる。


 勇者適正がある者は身体能力や戦闘技術が上昇しやすく、強くなりやすい。

 だからギルドとしては勇者適正を持つものは実力に合わせて上位ランクのクエストを受けられるようになっていて、それがあったからカズヤは上位ランクのクエストを受ける事が出来ていたという事だ。

 私の疑問はやっと解決し、納得した。


 本来であれば、一般的に冒険者ランクはCまでいければ上出来、一部の達人だけがBランクにいける世界だ。

 それを2年半程度でFランクからBランクまで駆け上がったのだから、勇者適正があったとはいえ、カズヤ本人の努力は相当なものだと分かる。


 しかし勇者にとってBランクはスタート地点、魔王を倒すつもりならAやSランクに到達し、近いランクの仲間を集めないと無理だと言われている。

 そんな仲間を探すだけでも一苦労、それはまさに選ばれし者のみの所業だ。


 私がエルフの里から街に出ていた30年前には魔王はいなかった。

 しかし23年前に魔王を名乗る者が現れて、世界が脅かされている、らしい。

 その影響で以前は少なかったBランク以上のクエストが増えているそうだ。



 他にも数名の勇者がいて、それぞれが仲間を集めて、魔族や魔王討伐の為に日々活動しているそうだ。


 そして──


「ミキに俺の、勇者としての俺の仲間になって、魔王討伐に協力して欲しい」


 そう言ってカズヤは真剣な表情で右手を差し出してきた。


「そんなの聞くまでも無いだろ?任しとけ!」


 私は悩む間も無くニヤリと笑みを浮かべて手を握った。

 一生一緒だからな、それにそういう目標があるほうが退屈しなくても済む。


 それにしても。

 手を握って実感したけど、カズヤの手ってデカいんだな。

 ゴツゴツしてるし、凄く漢!って感じの手だ。

 それに腕なんかも太く逞しくなってるし、そりゃ強いわけだな。


 そうやって握手をしていると受付嬢のマリンが私たちを呼びに来た。


「マーシュさん、クレールさん、準備が出来ましたのでいらっしゃってください」


「それじゃそろそろ行こうか」


「ああ、勇者カズヤのお披露目だな!」


「うーん、ミキ以外からは勇者マーシュだな」


 カズヤはぽりぽりと頬をかいて訂正した。

 そういやカズヤはマーシュで私はミキじゅなくてクレールだった。

 まあ今更だ、他人の前でも私とカズヤはお互いを"カズヤ""ミキ"と呼んでいるんだし。


 私たちは部屋を出て、2階からギルドの広間を見下ろすような場所に向かった。




人種、ランク設定、勇者について===============


人間:

 いわゆる人間、寿命は60才程度

 この世界で最も多い人種


エルフ:

 人間視点で美男美女ばかりで、耳が長く、銀髪か金髪碧眼、色白な肌をしており、魔法の才能に長ける。

 基本的にスレンダーで長身、女性でも160越えが普通

 寿命は何千年とも永遠とも言われており、いまだ老衰で死んだエルフは居ないと言われている。

 ドワーフとは昔から仲が悪い。


ドワーフ:

 背が低く、筋骨隆々、髭を沢山蓄えている。

 見た目より力強く、重い武器を扱う事が出来る。

 手先が器用で鍛冶が得意

 エルフより数が多く、武器・防具作成が得意な為、人間との交流も多い

 寿命は長く、700才程度

 エルフとは昔から仲が悪い。



冒険者ランク:

 SABCDEFの7段階

 一般的な冒険者はCランクが限界

 達人クラスでBランク、激強

 A以上は勇者や伝説級の人種しかいない希少さ

 Sは強さが測れないくらい強いという意味で上限が無い

 Cランクから上は強さの他に最低限の礼節や算術などが必要


 S:伝説級、Sは強さの上限がない

 A:英雄級、一騎当千の強さ、勇者でも殆どはここまで

 B:達人級、勇者のスタート地点、才能の持ち主

 C:上級、一般の限界、強い

 D:中級、半分以上の冒険者はここで引退、それなりに強い

 E:下級、ここから一人前の冒険者として扱われる

 F:初心者、冒険者を始めて半年程度、まだ弱く、荒くれ者と変わらない。


勇者:

 非常に希少な選ばれし者のみに現れる適正

 適正があるだけで強くなれるわけではなく、身体能力や魔法の成長促進があるなど、主に成果にプラスアルファの効果と潜在能力の大幅な向上がある

 本人の持つ元来の素質と努力と向上心が無いと勇者にすらなれない

 勇者のみに存在する秘めた力がある。


 勇者の人数はカズヤ込みで5名

  Sランク1名、Aランク3名、Bランク1名(カズヤ)


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