15.魔族スエット
魔族スエットが拠点としている砦に近づき、様子を伺う。
カズヤが偵察をし、私が魔力探知をして相手の配置や戦力を見たところ、まず砦の正面に50体ほどの魔物の群れ、オーガやオーク、ゴブリンなどの人型を中心とした群れがいて、さらに砦の回りにも魔物が配置され、どうやら見つからないように潜入する事は難しいという事が分かった。
砦正面の魔物を見る限り、そこの50体が主力で間違いないだろう。
そして砦の中に一際大きな魔力を持つ者を感じ、それがスエットだろうと予測した。
「正面に集まっている魔物が主力で間違いないと思うけど、どうする?」
そう問いかけるとカズヤは顎に手を当て、考え、そして聞いてきた。
「なあミキ、あの正面の魔物たち、大魔法で一掃出来そう?」
おっとそう来たか、今度は私の考える番だ。
50体の魔物を一掃するほどの範囲と威力の魔法となると砦にも影響が出てしまいそうで加減が難しい、砦の事を考えなくても良いのなら出来そうだけど。
「一掃となると砦にも被害が出るし、それに魔物討伐みたいな証明部位は残らないと思う、それでも良い?」
そう伝えるとカズヤは驚きながら軽く応えた。
「もしも出来たら良いな程度で聞いてみたんだけど、本当に出来るって答えるなんてね……。うん、砦に被害が出ても良いよ、今回の目的は砦の奪還じゃないし、壊れたところで文句は言われないさ。今回の作戦は正々堂々とした正面突破!それで行こう」
「いきなり大魔法を使っての脳筋突破は正々堂々と言えるのか?」
「良いんだよ、そもそも数が違い過ぎるんだからこれくらいは。それじゃミキのお手並み拝見と行こうか」
「確かにね……それじゃあ行くぞ」
「ああ、頼む」
杖を構え、大魔法をイメージする。
シンプルな大爆発、それを3発。爆発による衝撃、音、爆風、そして炎。
他にも破片やらなんやらで魔物と砦に大ダメージを与える。
それらを全てイメージする、爆発と言えばアニメや漫画でも良く見るシーンだし、イメージを固めるのにそこまで時間は掛からなかった。
「よし!」
言葉を紡ぎ爆発の魔法を3回唱える。
杖の先から閃光が迸り、砦の正門に直撃、大爆発を起こす、続けて広場に2発同時に。
目も眩むようなまばゆい閃光と少し遅れて耳をつんざく爆音に地響き、飛び散る火球や様々な破片。そこは瞬く間に地獄のような惨状と化した。
一瞬で消し炭になった魔物、衝撃で吹っ飛び死に絶えた魔物、爆発を耐えた魔物も全身を炎で包まれてもがき苦しんでいる。
砦の方も正門は破壊され、壁も崩れて酷い有り様だ。
そしてカズヤの要望通り、正面広場の魔物は一掃された。
その光景を見たカズヤはあっけにとられてこう言った。
「……なあ、これ、俺要る?」
「何言ってるんだ、カズヤが求めた通り一掃したぞ。後はスエットだ、ほらほら」
そう言って自身とカズヤに身体強化と炎耐性の魔法を掛け、マントのフードを被り、砦へ駆け出した。
◇◆◇
無人の荒野を駆けるが如く、クレーターだけがぽっかり空いた何も無い正面広場を抜けて砦の正門前に着くと、崩れた砦から大きな魔力を持つ魔族が現れた。
多分あいつがスエットなのだろう。
「何事かと出てみれば、なんだこの惨状は、お前たちの仕業か?何者だ!」
スエットの問いに対し、カズヤがフードを脱いで一歩前に出て剣を構え、口上を述べた。
「俺は勇者カズヤ=マーシュ!スエットを討伐する為にここに来た!」
「マーシュ……?そうか、最近勇者になったばかりの雑魚の名がそんな名だったか。Bランクの分際で生意気な!俺は名はスエット!!お前たちを殺して魔王幹部になる魔族の名だ!冥土の土産に覚えておけ!」
やっぱりこいつがスエットか、明らかに違う雰囲気と魔力を纏っている。
今までカズヤが対峙してきた魔物とは一味違う、気を引き締めろよカズヤ!
「一つ聞こう、先ほどの爆発魔法、まさかお前がやったのか?」
「いいや俺じゃない、相棒のミキがやった」
そう言われ、スエットが私を見た、私がフードを脱ぎ顔を晒すと驚きの表情を見せ、すぐに怒りをあらわにした。
「……エルフが勇者に力を貸しているとは丁度良い、俺はエルフというものが大嫌いでな、勇者を屠ったら次はエルフ、お前だ!惨めに惨たらしく凄惨に、じっくり時間をかけて殺してやろう!」
何故だかは分からないがエルフに強烈な恨みがあるようだ、ここまでの敵意を向けられたのは初めてかも知れない。
そもそもエルフは人間と魔王との戦いにおいて、どちらにも組みせず傍観者となる事が多かった。
私だって、カズヤがいなければ魔王討伐に参加する気も無かった。
「そんな事はさせない!ミキには指一本も触れさせはしない、そしてお前を倒す!」
カズヤはそう言ってスエットと私の間に立ち、視線を遮った。
「安心しろ、まずはお前からだ勇者、たかがBランク程度で、たった2人で私を倒そうなど見くびられたものだ」
スエットは知らない、カズヤがAランクのクエストをこなしていて、すでに実力がAランク相当である事を、そして成長速度が凄まじい事を。
そしてその油断こそが、命取りになる事を。
スエットは魔法を発動させた。
小さな鋭い氷柱を何十と発現させ、カズヤに向けて広範囲に降り注がれた。
カズヤは咄嗟にマントで防ぐ事に成功するも止む気配が無く、防戦一方となった。
私は少し後方に下がり耐氷と炎熱付与、それに防壁をカズヤに使用した。
炎熱付与は冷気よる体温低下の無効化とダメージの軽減効果がある魔法だ。
これに防壁を合わせる事で小さな氷柱も寒さも気にしなくても良いだろう。
爆発の音を聞きつけ集まってきた魔物を私が対処しようとカズヤに声を掛けた。
「外にいた魔物が集まってきてる、対処するからスエットは任せた!油断するなよ!」
カズヤはスエットを睨みつけたまま応える。
「おう!任せろ!」
「対等に戦えるとでも思っているのか?舐めるな!」
スエットは小さな氷柱を放つ事を止め、両手を氷柱の剣に変化させて2刀流で攻撃してくる。
更に2刀流で攻撃しながらもカズヤの頭上へ大きな氷柱を落とし続け、カズヤの対応を困難にさせた。
カズヤは大きな氷柱を避けたり、バックラーで防ぎつつ2刀流の剣を捌くのに必死で中々攻撃に転じられずにいた。
2刀流をなんとかしようと氷柱の剣と打ち合い剣を割ってもスエットはすぐさま氷柱の剣を作り出し、中々隙を作る事が出来なかった。
◇◆◇
「そらそらそら!守るだけか勇者よ、大きな口を叩いた割に情けないものだな!」
カズヤの防戦一方な戦いは続いていた。
ただ剣を打ち合うだけでは手数の差でジリ貧なのは見えている。
なんとか相手の動きに制限を掛けられれば、と考えてアイデアが浮かんだ。
ミスリルならば、ちゃんと機能するはずだ。
「カズヤ!雷の魔法だ!ミスリル剣に雷を纏わせるんだ!」
魔法鉱石であるミスリルであれば魔法を一時的に纏わせる事が可能なはずだ。
前世で言うところのエンチャント剣みたいなものだ。
「わ、わかった!」
「魔法など使う隙を与えると思うか!」
それを聞いたスエットは魔法を使わせまいとラッシュをかけ始めた。
スエットは先ほどまでカズヤと戦いつつも私への警戒は解いていなかった、だが今はカズヤにラッシュをかける余り私への警戒が薄くなっていた。
チャンスだと判断し、魔物の対処の合間を縫って火球を数発スエットへ飛ばす。
「む!?厄介な!」
スエットは火球を魔法で防御する事で僅かながらもカズヤに時間的猶予が出来た。
カズヤはそれを見逃さず、雷の魔法を剣に掛けた。雷の魔法でバチバチと電気を発するミスリル剣の出来上がりだ。
すかさず掛け声と共にカズヤはスエットに斬り掛かった。
「雷刃剣!!」
……そんな魔法名や技名は無い。
カズヤの厨二心溢れるオリジナル名だ。もしかしたら前世に元ネタがあるかも知れないけど。
「甘い!!」
スエットはそれを氷柱の剣で受け止めた直後、身体を痺らせて硬直した。
「グッ!?」
カズヤ命名「雷刃剣」は雷を纏う剣で、その効果は雷による追加ダメージの他、感電による痺れを誘発させる。それは氷や水、鉄のような電気抵抗が低い物に対しては効果てきめんだった。
スエットは手を氷へと変化させているのでダイレクトに感電効果を与えていた。
カズヤの雷刃剣は氷柱の剣を寸断し、硬直状態になっているスエットの胴体にそのまま斬り込んだ。
「うおおおおぉ!!!雷刃剣乱れ斬りぃ!!!!」
スエットは更に痺れ、硬直し、カズヤはそのまま滅多斬りにし、最後に首をはねた。
断末魔の叫びは「忌々しいエルフめ!!」だった、どんだけエルフ嫌いなんだよ……。
「成敗!!」
カズヤがそう言って決めポーズを取る。刀を鞘に収める前に振り下ろすポーズだ。
しかしカズヤ、成敗て……なんか楽しそうだな。
それにしても、あのクラスの魔族なら身体にも防壁や魔法防御がある程度備わっているはずなんだけど、それが存在しないかのように切り刻むなんて、カズヤも大概だな。勇者だからか?
そして、スエットが倒された事により、残った魔物たちは散り散りとなった。
ここに無事スエット討伐が完了した。
◇◆◇
雷刃剣が通常のミスリルの剣に戻り、カズヤはその場にへたり込んだ。
「ふー、疲れた。スエット強かったな、結構ヤバかった。あれで幹部じゃないなんてなあ。それに雷刃剣、めちゃくちゃ魔力消費させられたんだけど、いつも使う雷の魔法10回分くらい魔力使ったよ」
「それに持続時間が1分もないからね、魔力を注ぎ込み続ければいつまでも使えるけど消費半端ないし、決め時だけ使う事をオススメするよ」
カズヤの傍まで行き、手を伸ばす。
「ああ、そうする」
カズヤが私の手を取ったので引き起こそうと……出来なかった。
ビクリともしないくらい重い、いや、カズヤに立ち上がる気が無い。
「おい、立つ気ないだろ」
「無いよ、ほーら」
そう言ってカズヤは私の手を引っ張り、逆に私を引き込んだ。
「わわっ!?」
転びそうになる私の身体を受け止め、カズヤは後ろに倒れ込み、そのまま私を抱き込んだ。
「っておいっ!」
「疲れたから少しだけ休みたい~、ミキに癒やされたい~、ちょっとだけで良いから、な?」
……確かに疲れてはいるだろうし、相手も相当強かった。
全くしょうがないな、まあ……このくらいなら良いか。
大人しくなった私を見たカズヤは身体の上の私を抱き締め、私の金髪に顔を埋めるようにした。
「手荒にするなよ」
「分かってるよ、大事に扱うさ」
カズヤは髪と私の首筋に顔を埋め、深呼吸した。
「おい!キモいからそういう事すんな!」
「いやミキの良い匂いするんだって、最高だ、安らぐ」
「それがキモいんだって!」
「ミキはどう?俺の匂いする?」
「無視すんな!……カズヤの匂いはまあ、するけど……」
「嫌な匂いじゃない?臭くない?」
くんくんとカズヤの首元で匂いを嗅いでみる。
少しの汗の匂いがするけど、別に臭いとは思わないし、嫌な匂いでもない……うん。
「ああ……まあ……別に嫌な匂いでも臭くも無いから安心しろ」
「そう、良かった~、ミキに臭いなんて言われたら生きていけないよ」
そう言って屈託なく微笑む。
「おおげさだな……」
「大事な事だよ、愛する人にそんな事言われたくないじゃん?」
「おまッ!!急にそういう事言うな!」
「なんだよ、もしかして照れてる?少しは好きになってくれた?」
「知らん!勝手にしろ!」
ぷいと顔を背けた。
「うん、勝手にする」
するとカズヤはそう言って首元に顔を埋めたまま少し強く抱き締めてくる。
そしてそれは、私にとって嫌な気分になるものでは無かった。
そうやって、多少のじゃれ合いをしつつ、その状態で少しの時間を過ごしたのだった。
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