16.ダンジョン攻略クエスト


 自称幹部候補の魔族スエットを倒し、シリンダールの街へ戻った。


 ギルド長は大喜びし、カズヤと私の無事を祝ってくれた。

 カズヤは事の顛末をクエスト達成報告の為に順番に話していく。


 今回私はいつものようにテーブルで待っていようとしたら、カズヤに一緒にいて欲しいと言われたので報告をするカズヤの横で話を聞いていた。


 カズヤはまず、魔物の規模、数や構成などを状況を踏まえながら説明した。

 ギルド長らはその数に対し、2人では対処しようがないだろうと疑問を呈すのだが、カズヤはそこで私の背中をポンと叩き、ミキがその50体を全滅させたんです!!と大きな声で言うのだった。


 ギルド長らギルド員たちと野次馬冒険者たちは驚いた。


 なぜかカズヤが得意げに、ミキが爆発の魔法で、それもとんでもない威力で──と話を続け、皆が皆、信じられない……というような表情だった。


「なあ、カズヤの話は本当なのか?にわかには信じ難い話なんだが……」


 とそう言ってギルド長が私に直接聞いてきたので


「合ってますよ、正確には正門に1発、正面広場に2発の3発ですけど」


 と付け加えた。


「……それで50体全部を?」


「はい、間違いなく全滅……だよね?」


 顎に指を当て、カズヤに振り向き確認する。


「ああ、間違いなく全滅だった」


 そう言って肩を抱いてきたので、肩を抱くな肩を、と手を払いのける。


 私たちのやりとりを聞いて、ギルド員と野次馬冒険者たちがざわざわとする。

 まあ実際に目の当たりにしないとピンとこないかも知れない。


「落ち着けお前ら、ギルドがこの後確認に行くからそこで判断してもらおう、で、その後はどうなったんだ?」


 ギルド長はカズヤに先を促した。

 カズヤはコホンと咳払いし、話を続けた。



 ──全て報告が終わり、受付嬢モニカの記録が終わった。


「ふーむ、エルフ嫌いの魔族ねぇ、そういや幹部の一人はダークエルフだって話だ、詳しい事は知らんがスエットと関係があったりしてな」


 ギルド長はそう言ってガハハと笑った。


「何はともあれ、スエットの討伐ご苦労だったな、調査や確認はギルドのほうでやるから、数日は自由にしてて良いぞ」


 ギルド長はそう言って報告は終わったのだが、カズヤと私は冒険者たちに質問攻めにあうのだった。


◇◆◇


 それから1週間ほどが経ち、私たちがAランククエストからギルドに戻るとギルド長に呼び出された。

 どうやらスエットの件でギルドの調査が終わったらしい。


 結論から言えばスエットは討伐され、現場では相当大規模な爆発の痕跡が3つ確認されたのだとか。

 というか、そりゃそうだという感想なんだけど、だって当事者なんだし。

 まあでも、これでカズヤがスエットを討伐した事と私がその規模の魔法を使用した事がちゃんと保証された。



 続けて、勇者パーティ宛に冒険者ギルドからダンジョン攻略クエストが連絡された。


 新たなダンジョンが王都付近に発見され、ダンジョンから魔物が出てくると王都が大変な事になりかねず、早々にダンジョン攻略を促す為にダンジョン主の討伐に報酬を出した。

 しかし、ダンジョン攻略に向かった冒険者が尽くやられてしまったのだとか。

 Cランク冒険者では厳しい事が判明して、早急に攻略する為に勇者たちに白羽の矢が立ったのだった。


「今回は参加自由だ、既に唯一のSランク勇者ドミニクがダンジョン攻略に向かっているという報告が入っているからだそうだが、念の為に他の勇者にも参加して欲しいとの事だった。未踏破ダンジョンと言えば未知なるお宝が付き物だが……。カズヤ、どうする?」


 カズヤは顎に手を当て考えていた。


「王都近くという事は活動拠点が変わる事になると思うんだけど、その辺りはどうなるんだ?」


「ふむ、そんな事か。活動拠点が王都や他の街になってもシリンダールの勇者である事は変わらない、それに領主殿がある程度の活動資金は提供してくれるらしいから、金銭的にも、看板も気にしなくても良いぞ」


 それを聞いたカズヤは私に振り向いて目で聞いてきた。

 私はいつものように言う。


「一生一緒だって言ってるだろ。お前が行くなら、どこへだって付いてくよ」


 カズヤもまた、いつものように嬉しそうに頬笑み掛けてくれて、ギルド長に向き直った。


「受けます、そのSランク冒険者より先に攻略して見せます」


「……全く心からお前が羨ましいよ、美人のエルフで、健気で、大魔法使いで、そこまで言ってくれる女なんて……絶対に手放すなよ」


 何か勘違いをされてるようだが、一生一緒といってもエルフ的には暇潰し程度の時間だ、そう暇潰し、重い話じゃない。


 ──と半年前なら思ってたんだけどなあ……。

 前世の記憶が戻ってからというもの、段々と時間間隔が以前と違うように感じるようになっているし、それにカズヤに対し特別な情も湧いてきた気がするし、暇潰しの一言では済ませられなくなりつつある気がする。


 このままだとカズヤの喪失時に心にぽっかりと大きな穴が空いてしまいそうだ。


「で話を戻すとだ、受けるというのは分かった。だが出発は早くても明日ギルドに顔を出してからにしてくれ、領主様にも連絡しておかないといかんのでな」


「分かった、必ず顔を出すよ」


「それじゃ俺は今から領主様のところ行ってくるから、頼むぞ」


 そうして、ダンジョン攻略クエストを受ける事になった。


◇◆◇


 鍛冶師のザックや武器防具店のファビオたちにしばしの別れの挨拶をしたところ、多少の選別を貰う事になった。タダでは悪いとカズヤは多少のお金は払ったのだが。


 その後、王都までの食料などの買い物をする。私たちの買い物は物量を考えなくていいから楽だ。

 買った物を私の魔法袋に詰め込むだけ、魔法袋はエルフの里を出る時に持ち出した物なのだが、容量はその小さな袋から想像も出来ない程に大きく広く、中の物はその時の状態がそのままに維持され、腐ったり冷めたりなどの状態変化はせず、入れた時のままだ。

 冷蔵庫の様に冷やしたり凍らしたりなどは出来ないがそれでも非常に助かる、魔法の力って凄い。

 他の冒険者の様に干し肉や乾燥果実などに頼らなくても良いのは嬉しい。

 カズヤも凄く喜んでいたな。


 同じ様な物を高級店で売っているのを見た事があるが、容量も小さく、その割にとてつもなく高い。

 里では別に珍しい物でも無かったから、エルフで良かったと心から思ったものだ。


 そして宿に戻った。


 最後の宿になるかも知れないという事で宿の晩ご飯を初めて頼む事に。

 こんな高級宿の食事なんて、凄い物が出てくるに違いないという私たちは期待した。


 出てきたものは確かに豪華、豪勢だった。

 質、量共に大満足だったのだけど、カズヤには違ったようだ。

 カズヤからすれば質はともかく、量が絶対的に足りなかったらしい。

 確かに育ち盛りの17才、しかも冒険者で身体が資本だ、いつも食べている量からすると圧倒的に少ないと言えただろう。

 カズヤは食後、近くの食堂で食べてくると言って出掛けてしまった。

 私は風呂に入って、部屋でゆっくりしたかったのでいってらっしゃい、と送り出した。

 一生一緒と言ってもそこまで付いてはいかないから。


 風呂に入り、身体を洗い、ゆっくりと身体を温めて……温まり過ぎた。

 少しのぼせてしまい、風呂から上がってバスローブを纏ってソファーで身体を冷ましていた。

 まだカズヤは戻ってきていない、多分食堂で食べているところで誰かに捕まったのだろう、容易に想像出来てしまう。カズヤは人当たりも良いし、人付き合いは私のせいで少し悪くなったと言われてるけど、相変わらず人気者だしね。


 そして私はというと、ソファーでぼんやりしていたら、いつの間にか眠りについていた。


◇◆◇


「うおッ!!なん───か───!!、─キ!!」


 騒がしく、うるさい気配がして意識が戻った。

 どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 ただこの感触はソファーでは無い、ベッド……?とも少し違う、硬くゴツゴツとしてて暖かくて大きい……。

 ってコレ、カズヤだ!


 え!?なんで!?

 記憶ではソファーに座っていた、そのまま寝たならソファーのはずだ、……いやでもカズヤならベッドまで運んでくれたのだろう。


 どうやら私はいつもの様に寝相が悪くカズヤに抱きついている事は分かった。

 うん、とりあえず起きるとしよう、まずはカズヤに挨拶だ。


 目を開け、顔を上げていつもの様に挨拶をした。


「おはようカズヤ」


 カズヤを見るといつもと様子が違う、私に目を合わさず、息も荒く、一生懸命に何かに耐えているように見える。一体どうしたんだ?

 いつもなら元気に挨拶を返してきて、そのまま抱きついてきたりするくらいなのに。


「どうしたんだよカズヤ、なんか変だぞ?」


 それを聞いたカズヤはチラとこっちを見て、またすぐに目を逸らして目をつぶった。

 さらに頭に手を当てて、何か抑えているかのようだ。


「抑えろ、我慢しろ俺、ミキを裏切るな……」


 何事かブツブツと言っている、本当に一体どうしたんだ、尋常じゃないぞ。

 心配して見ているとカズヤは深呼吸し息を整えて、私を見ずにこう言った。


「ミキ、早く離れてくれ、もう限界なんだ」


 おや珍しい、カズヤの方からそんな事を言うなんて、一体どうしたというんだ?

 ……そんな事を言われると悪戯心が湧いてきちゃうじゃん。


「なんだよカズヤ~、そんな淋しくなるような事言うなよな~」


 そう言って、カズヤの腹筋の辺りを撫でたり、太ももを擦り付けたりした。

 ん?なんだか感触に違和感を感じるけど……まあ良いか。


「!? おい!マジで止めろ!どうなっても知らないからな!!」


 カズヤに強めの語気で注意された。

 これは……止めといたほうが良さそうだ、と、そう判断した。


「ゴメンゴメン、そんなに怒るなよ」


 やっと身体をカズヤから離れ……!?!?

 あ、あれ?え!?

 服が……裸なんだけど!?


 まさかカズヤが……!?

 いや、違うな、カズヤが脱がしたのならこの反応はおかしい、演技でも無さそうだし。


「なあカズヤ、一応確認だけど、ソファーで寝ている私をベッドに寝かせてくれたんだよな?それだけだよな?」


「……ああ、俺は脱がしたりしてない、勘違いしないでくれ」


 カズヤは目を背けたまま応えた。

 という事はやっぱりアレか、私の寝相の問題か。

 バスローブだけだったし、脱げてしまったのだろう、そしてカズヤに裸で抱きついてしまったという事か。


 なるほど、それでカズヤは今我慢してるんだな、理性を働かせて、襲ってしまわないように。

 これは悪い事をしたなあ、なんて思いながらバスローブを着て、カズヤに声を掛けた。


「すまんカズヤ、もう着たから大丈夫だぞ」


 そう言うとやっとカズヤはこっちに振り向き、身体を起こした。


「ってまだバスローブかよ、裸よりは良いけどさ……」


「で、どうする?今日も抱き締めるか?」


 そう少し意地悪に聞いてみる。

 するとカズヤは頭を振って応える。


「いや、今日は止めとく、折角我慢できたのが無駄になりそうだ」


 ……確かに、決壊されても困るしこれ以上は止めておくか。


 それにしても、カズヤは約束をちゃんと守ってくれている、それに私が目覚めた事に気付いた後もそのまま襲っても来なかった、なんというか、凄く大事にされているのを感じた。

 もし、あの時に私が良いよ、と許可を出したらどうなっていたのだろうか。

 私は……カズヤの反応にがっかりするのだろうか、それとも嬉しく感じるのだろうか、そんな後悔しそうな事を、ふと考えてしまった。



 その後、ちゃんと着替えて朝食を取った後、宿に暫く戻らない事を告げ、ギルドに行くと領主様から餞別を貰い、懐を暖かくして街を出発するのだった。

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