11.ミスリル
「ミスリルと言えば、この世界では魔法鉱石として有名だよな、シリンダールの街ではミスリル製品を殆ど見ないけど」
「だな、むしろこの世界でも、というべきかもな、ゲームでもミスリルは魔法武具扱いも多いし。ミキはミスリル鉱石は見た事あるのか?」
「そりゃあるさ、魔法鉱石だからな。杖の先端のコアを覆う部分にも使われたりするし、この杖は違うけど、里にはいくらでもミスリルを使った魔導具はあったかな」
「そうか、俺は店に並んでるのぐらいしか見た事無いな、高級店じゃないとそもそも扱ってすらいなさそうだけど」
ミスリルはそれなりに希少な鉱石なのだ、エルフの里にならいくらでもあるが、3000年以上の歴史がある里でもあるし、魔法で成り立つ里だからそういうものだろう。
私たちはドワーフの野郎の条件を受け、カズヤの新しい剣の為にミスリル鉱石を取りに山を登っている。
その条件でただ一つだけ、気に入らない事があった。
「そりゃそうだ、ミスリルは今は希少だからな、昔はもっと有ったもんだ、どこぞのエルフどもががめつく収集なぞせんかったらもっと出回っとるだろうて」
こいつだ。
ドワーフの野郎が連れていけという条件を出した。
確かに素人の私たちが行っても綺麗に採れないだろうとは思うけど、まさか付いてくるとは思わなかった。
採掘道具らしきものを背負っていて、武器を持っていない、完全な護衛対象だった。
カズヤの武器を打ってもらう手前、あんまり無下にも出来ないし、中々厄介だ。
ここに来るまでに何度か魔物との戦闘になっていて、その度にカズヤを見て、髭に手を当てて何事か頷いている。
「ザック、こっちで合ってる?」
「おう、そのまま真っ直ぐだ」
カズヤはドワーフの野郎と上手くやっているようだった、流石だ。
私はドワーフの野郎の名前すら覚えていない、ザクだかザコだか、そんな名前だった気がするな。
エルフとドワーフは昔から仲が悪いのだ。
そして出会いがアレであったので私はドワーフと仲良くなるつもりはなかった。
勘違いや早とちりと言われればそうかも知れないが、カズヤがあそこまで言わないとちゃんと説明してくれないとか、明らかにドワーフが悪い。
私とドワーフの、その険悪な空気を見かねたカズヤが私に小さい声で話かけてきた。
「エルフとドワーフの仲が悪いって本当だったんだな」
「そうだぞ、しかも出会いがアレだったからな」
「でもミキ、ザックと仲良くなってくれとは言わないけど、もう少し普通に出来ないか?」
「それは難しいな」
「そんな事言って、ミキは俺がミスリルの武器を作って貰えなくても良いのか?」
「う、それは困る、けど」
「それならさ、普通に対応するだけで良いんだよ、ね。ミキ、お願い」
「……うーん、カズヤのお願いだし、分かった、普通にな、仲良くはならないからな!」
「ああ、それで十分だ」
カズヤの為だ、仕方が無い、武器が無いんじゃ何も出来ないからな、うん。
私はドワーフの野郎、じゃなくてザックに振り返り、声を掛けることにした。
「ザック、その背負ってる重そうな荷物はこっちの魔法袋で預かろうか?重くないか?」
ザックは首を横に振った。
「いや結構、ワシは自分の仕事道具は常に身に着けておく事にしとるのでな、構うな」
くっそドワーフゥ!……いや待て待て、うん。ドワーフは変な事は言ってない、ただ職人気質なだけだ、そうだ気にするな。うん。
これはカズヤの為カズヤの為、そう念仏のように心で唱え、私は作り笑いをした。
「そうか、もし何かあったら言ってくれ、協力するから」
私はドワーフから顔を背け、正面を向いた。私は怒っている気がする。
横でカズヤが私を宥めるような仕草をしていて、なんとか、なんとか落ち着く事が出来た。
◇◆◇
ミスリル鉱石の採掘現場につくと、そこにはミスリルジャイアントが数体、徘徊していた。
「実は今、シリンダール近くのミスリル採掘現場である此処は奴らのせいで採掘量が激減しておる。ミスリルを採掘しようにも奴らがおるので見つからない様に採る事しか出来ず、その量も微々たるもので価値もおかしな事になっておる」
「なるほど、じゃあ俺たちがミスリルジャイアントを倒せば良いんだな?でもミスリルなら剣が通りにくいんじゃ?」
そこだ、私も疑問に思った事をカズヤが代弁して聞いてくれた、あれがミスリルで出来ているなら普通の剣では刃が立たないという事になる。
「そこは大丈夫だ、奴らはミスリルと言っても不純物だらけで身体の半分以上は他の物質で出来ている。だからその剣なら問題は無い。と言っても、未熟者なら駄目だろうがな」
なるほど、ザックの打った剣とカズヤの剣の技術があれば倒せるだろうと、そういう事か、中々見る目があるじゃないか、見直した。
私とカズヤは、まずは強さの程を測るため、手近にいる1体に目標を定めた。
カズヤに強化魔法を掛けて送り出す。
まだ攻撃魔法は使わない、もし大きな音がして目立つと他のジャイアントも寄ってくるかも知れないからだ。
ミスリルジャイアントは身長5mほどあるが動きは鈍く、1対1ならまずカズヤが捉えられる事は無いだろう。
カズヤはそのまま駆け出した勢いでミスリルジャイアントの膝を叩き切った。
その剣筋は鋭く、力強く、膝から下を綺麗に切り離した。
バランスを崩したジャイアントはそのまま後ろに倒れ、カズヤはジャイアントの首を切断する寸前、ジャイアントは咆哮をあげた。
カズヤは怯まずそのまま首を一刀両断、ジャイアントは絶命した。
しかし、ジャイアントの最後の咆哮によって残りのジャイアントがカズヤへ向かって来ていた。
もう大きな音を気にする必要の無くなった私は大魔法の詠唱を始める。
魔法の効きにくいミスリルジャイアントに使う魔法はシンプルな質量攻撃、大岩をぶつける魔法だ。
これならいくら硬く、魔法が効きにくかろうが関係無い、生物であれば質量による衝撃は効くはず。
大岩を出来る限り圧縮し、密度を高め、その重さを上げて先端を頑丈に尖らせる、そして対象へ向けて頭上から落とす。
今回は大魔法でも範囲を絞っているため、一体ずつ確実に、だ。
目論見通りミスリルジャイアントはそのまま大岩に潰され、粉々に砕けた。
初めての事で思ったより調整が難しく、少し詠唱に時間が掛かったが上手く出来た。
そのまま数体を倒した頃、カズヤも傷一つ無く、残りを全滅させていた。
それは全て膝から斬られ、倒れたところに首を一刀の元に両断されていて、鮮やかなもので私と違って残骸は綺麗なものだった。
「ナイスだミキ」
「カズヤもスマートな倒し方だったぞ」
私たちはお互いの健闘を称え合い、ハイタッチをした。
その後、カズヤは両手を広げて抱きつこうとした。
「ダメ、嫌だ」
「え?なんで?」
「なんでじゃない、毎回良いと思うな。それに……ザックが見てるだろ」
「見てなかったら良い?」
「そういう事じゃない」
カズヤを押しのけ、振り返るとザックがプルプルと震えていた。
「素晴らしい!!」
ザックが大きな声で言う、うるさい。
「カズヤ!ワシの想像以上だ!これほどまでの剣の技術は中々お目にかかれるものじゃない!見ろこのミスリルジャイアントの膝と首の断面、ここまで綺麗なものはそうそう無い!素晴らしいの一言、ついてきた甲斐があるというものだ、ますます気に入った!」
めちゃめちゃカズヤを褒める、よっぽど気に入ったようだ、私も鼻が高い。どうだうちのカズヤは、と胸を張る。
そしてザックは私が倒したジャイアントの残骸を指差し言った。
「それに比べてなんだこのエルフの倒し方は!完全にボロボロで、見るも無惨な残骸じゃないか!カズヤとは比較にもならん!美しさの欠片もない!少しはカズヤを見習ったらどうだ」
むむむ、私はやっぱりドワーフが嫌いだ。
確かにカズヤが倒したのと比べたら綺麗さでは負けてるけど、ちゃんと倒せているじゃないか。
むぅと膨れているとカズヤがフォローしてくれた。
「ミキは凄いと思うよ、ミスリルジャイアントって確か魔法が効きにくいんだよな?それなのに魔法で一撃で倒してるんだから相当なものだよ。そうだろ?ザック」
話を振られたドワーフはううむと腕を組んで考え、応えた。
「ううむ……ミスリルジャイアントを魔法で一撃と考えると確かに凄いかもしれん、エルフ、すまんかったな、少し考え無しに言い過ぎたようだ」
何コレ、あれか?お気に入りのカズヤが褒めたから考え直したとでも言うのか?
なんだか私はスッキリしないけど、でもカズヤが上手くフォローしてくれて、ザックも謝ってるんだ、ここで私が反発したらカズヤのフォローが無駄になる。
「エルフじゃない、ミキだ。……わかってくれれば良いんだよ」
「分かった、ミキだな」
カズヤはニコニコして私とザックを見回している。
これがカズヤの人間力なのか、ギルドでも人気があるのが良く分かる。
たった17年でここまで変わるものなのか、……凄いな。
後で気付いたんだけど、ミキじゃなくてクレールと自己紹介するべきだった、しかしカズヤも初めマーシュと自己紹介していたけど私の影響かカズヤと呼ばれているし、まあ良いか。
その後、ザックがミスリル採掘をし、ミスリルを私の魔法袋に詰め込んだ。
そしてシリンダールの街へ戻り、ザックがギルドへ私たちがミスリルジャイアントを一掃した事に加え、ミスリルの採掘が再開出来る事を伝えて、私たちはザックと共に鍛冶屋へ向かった。
ちなみにもうギルド員や冒険者にはカズヤとマーシュで、ミキとクレールはどちらでも通るようになっていた。
おかげでザックがカズヤと言っても何の問題も無く処理されたようだった。
◇◆◇
「先ほどギルドで聞いたがカズヤはBランクの勇者でミキもBランク冒険者だったとはな、強いわけだ。だが、あのミスリルジャイアントは単体でBランク相当の魔物のはず、それをあっさりと倒すとは実力はそれ以上なのではないか?」
ザックはそう言った。
私たちは別に隠すつもりもないので、Cランクの頃からBランクを、BランクになってからはAランククエストでドラゴンを含むレッサードラゴンの群れを倒した事を教え、合わせてドラゴンとの戦いで剣が折れた事も伝えた。
「なるほどドラゴンとの戦いでか……むしろそこまで剣が持った事が奇跡だな、いやまったく」
ザックは感心しきりだった。
そしてザックの1等鍛冶屋につき、そこでカズヤは預かった剣を、私はミスリル鉱石を取り出した。
ザックは剣を構え、眺めて、ほうと息が漏れた。
「歪みが無く、刃こぼれも殆ど無い、あれほどの魔物との戦いにおいてこれほどの状態を保てるとは、丁寧な剣の扱い、そしてあれだけの戦闘力、言葉が無いな」
剣を鞘に戻してカズヤに渡そうとする。
「早速今日から打つとしよう、何か要望はあるか?出来るだけ沿うよう努力を約束する。そしてこれは打ち終わるまで使ってくれ、倉庫に仕舞われるよりこの剣も嬉しかろう」
「ああ、それじゃ預かるよ。それで要望なんだけど、持ち手を──」
カズヤはザックに要望を伝え、ザックもそれを快く引き受けた。
これでミスリル製のカズヤに合わせた良い武器が手に入る事だろう。
「カズヤ、そうだな……4日後以降に来い、それまでに完成させてやる。ミキもカズヤと仲良くな」
「ああ、また」
「ザックに言われなくてもカズヤと私は仲良しだから大丈夫だ、じゃあな」
私たちは、そうやってザックと別れ、ようやく、やっと5日ぶりに宿へと戻った。
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