33.炎狼王
暫くの後、どちらともなく身体を離した。
そして離れ際にカズヤが言った。
「ミキ、好きだ」
「うん、私も好き」
気が緩んでいて、カズヤに応えるように思わず素直な気持ちを言ってしまった。
とっくにバレバレで、とはいえ公然の秘密みたいになっていた事で、そしてちゃんと口にした事は無かった。
思わず口に手を当て塞いだけどもう遅い。
カズヤも驚いていた。
ええい!言ってしまったものはしょうがない!だって嘘じゃないし!どうせバレてるし!
「え?ミキ?」
「あ!ええと!……こほん、私もカズヤが好き、まあとっくに感じてたとは思うけど。だけど!ちゃんとした告白をして欲しい、それにちゃんと応えたい。だから前にカズヤが言ってた通り、魔王を倒してからね」
なんとか即興で理由を考えた。
これならギリギリセーフかなと思う、まあ気持ちを言ってしまった時点でアウトかも知れないけど。
とりあえず魔王を倒すという明確な目標はブレずに済むはずだ。
それに私もカズヤに好きと言ってしまった事で告白を期待する気持ちが強くなった。
このままなんとなく付き合い始めるのは少し寂しいというか…。
魔王や幹部なんかもすぐに倒してしまいたい気分だ。
「嬉しいよ、こんな事をしてしまったのに好きと言ってくれるなんて思わなかった」
「バカだなあ、こんな事で……いやこんな事っていう程度じゃないな、それでもちゃんと反省してくれたし、気持ちは変わらないから」
「うん、良し!!それじゃあ早く魔王を倒して幸せな未来を築こう!」
「それフラグだぞ、……でも期待してる」
「ミキの協力あってこそだ、任せたよミキ」
「うん、任しといて!」
あー!言っちゃった言っちゃった!
もう抑えるのが難しくなってて、仲直りの反動で思わずポロっと、カズヤの気持ちに応えるように自然に口からでちゃった。
もうここまで来たら腹を括ろう、魔王を倒したその後の事にも覚悟を決めよう!
◇◆◇
私たちはスピリングの街を出発した。
ギルドに顔を出して連絡だけして、朝の内に街を出た。
まっすぐ魔王城へ向かうのではなく、一応迂回経路をとって進む。
魔王支配領では基本的に魔物は群れというか、部隊単位で行動していて場合によっては援軍を呼ばれたりするので出来るだけ早い殲滅が必要だった。
この程度の魔物であればいくらでも援軍を呼ばれても問題ないのだけど、時間が掛かるのは避けたい。
私たちは早く魔王の元へ辿り着きたい。
とはいえ、会敵する魔物を殲滅していれば居場所はバレるもので。
段々と明らかに私たちを倒そうと殺意強めのBランクを超える魔物が群れをなして襲ってくるようになった。
夜になると隙を見つけて気配を遮断する魔法と結界を貼り、睡眠だけはしっかりと取る事を心掛けた。
◇◆◇
そうして2日ほど経った。
魔物の拠点のような物が遠くに見えたりもしたけど目標はあくまで魔王城の魔王、その拠点には近寄らず見つからないように迂回して進んだ。
暫く進み、会敵した狼の部隊を相手している時に遠吠えで援軍を呼ばれる。
そこにとうとう現れた魔王幹部の一人、一人?一匹?それは炎を全身に纏った狼のようなフォルム、身体の大きさも他の狼の5倍近い、とするとこれが炎狼王フェンリルだろう。
炎狼王の後ろには10匹程度の、炎狼王と比べるとサイズは小さいが炎を纏った狼、炎狼がいる。
もふもふわんこ、などという感想は全く無い、この狼は柔らかい毛皮などでは無く炎を纏っているのだから。あえて言うなら、あちあちわんこ、だ。
魔王幹部なので当然Sランクだろうし、獣の魔物らしく牙を見せて殺意を剥き出しにしている。
即座に炎熱防護膜を貼り、続けて防壁魔法を展開する。
「オレが魔王様から頂いた二つ名は炎狼王、お前たちは此処で死ね」
炎狼王はそれだけ言って引き連れた炎狼と一緒に襲いかかってきた。
流石に魔王幹部となる狼だけあって喋る事も出来るようだ。
「雑魚は任せて!」
そう言って大魔法を使う、氷の柱に炎狼を閉じ込めるイメージだ。
大魔法を唱えると炎狼たちの足元に冷気を纏わせ、氷の柱が立ち上りそのまま炎狼を閉じ込める。
あっさりと全ての炎狼が氷の柱となった、抵抗や脱出できた者はいなかったし炎狼たちはギリギリAかBランク上位程度といったところだろうか。
さて、あとは炎狼王ただ一匹、そんなのあっさり倒しちゃえ!カズヤ!
氷の注になった炎狼たちを見て炎狼王はさらに牙を剥き出し、唸り、怒気を強くした。
大きく咆哮し、衝撃波を飛ばして来た。
カズヤは黄金覚醒し、衝撃波を真っ二つに切り裂いた。
衝撃波を切り裂く間に炎狼王は横にステップして狙いを私に定め飛びかかって来た。素早く魔法を唱え、大きな氷柱を沢山同時に炎狼王に向けて展開させ、氷牙のついた盾とした。
炎狼王は身体に纏う炎をさらに大きく勢いを増させて、走る勢いと豪炎で氷柱の盾に体当たりをする。私も氷柱に魔力を込め続けていて、氷柱の強度を上げていたため体当たりだけで盾は崩壊せずにすんだ、しかし狙っていた氷柱が刺さるに至らず、溶かされるだけの結果で本当にただ一度だけ体当たりに耐えた、それだけだった。
しかしその一度の体当たりを耐えた時間、カズヤにはそれだけで十分だった。
炎狼王が勢いを失い体勢を立て直している隙に攻撃を仕掛けていた。
雷霆を武御雷に纏わせての上段斬り、黄金覚醒からの稲妻雷光斬、私の雷魔法での強化無しでも十分に強い、カズヤ単独で出せる最強技だった。
「稲妻雷光斬ッ!!!」
武御雷が小さな雷を大量に放ち、稲妻の如き速さで距離を詰め、雷光の瞬く間に武御雷を振り下ろす。
──炎狼王は反応出来ないまま、悲鳴をあげる間もなく首を落とされた。
カズヤは首を落とした後も油断せず、残心しつつゆっくり構え直した。
私も、まさかこんなに早く倒せるはずがないと思い、いつでも反応出来るように気を張って構えていた。
しかし暫く待ってみても全く反応が無い、本当に倒したのでは?え?こんなにあっさり?あっさり倒しちゃえとは思ったけど、炎狼王の王たるところを見せて貰ってないんだけど?
カズヤも終わった事を確認して、剣を払いつつ
「成敗!!」
そう言っていつものように剣を鞘に収めた。
この数日何度もみた光景、その様が板についてきた、格好良く見えてきた、これはあれか、恋に落ちたからか、もう抑える必要が無くて、素直になれたからか、そういう事なのか。
「なんか……えらくあっさりだったな」
見惚れているとカズヤがそう述べた。
それは多分、私の贔屓目を抜きにしてもカズヤが強くなったからだと思う。巨人王テュポーンを倒し、その後も此処に来るまでの間、沢山の魔物を相手にしてきた、それに加えて勇者の成長速度は異常だ、早すぎる、1対1においては相手になるものは本当に魔王くらいじゃないかと思わせる。
まあでも
「そんだけカズヤが強くなったって事じゃん?良い事だよ」
そういう事だ、良い事なのだ。頼もしくて悪い事なんか無いはずだ。
「……だな!」
生き残っていた狼たちは散り散りに逃げ去り、そこには焼け焦げ首が寸断された炎狼王フェンリルと氷柱になった炎狼だけが残った。
念の為に炎狼王の首と身体を魔法袋に確保する。
残る魔王幹部は3人、他の勇者たちが倒しておいてくれたらいいんだけど。
◇◆◇
そして、魔王幹部なんかを倒してしまったら魔物たちにも知れ渡るのは当たり前で。
続々と狼族を除く魔物の部隊と魔族が集ってきた。
近くの拠点からも出撃してきているのだろう、今までで一番の大群が私たち2人に向かって来ている。
きりが無いのである程度倒したらカズヤの黄金覚醒で私を抱えて離脱し隠れる、という事に2人で決めた。
そして大群相手には私の大魔法が効果てきめんだろう。数を減らすのが目的だから大爆発の魔法を使う事にする。
近くの魔物はカズヤに任せて、私は大魔法のイメージと詠唱を開始する。
大爆発の魔法は何度も使用していてイメージはすぐに出来た、そして詠唱、出来るだけ広い範囲でいくつもの大爆発を起こし、魔物たちに被害を与えるイメージ。
詠唱が終わり、遠くからこちらに向かってくる魔物も範囲に捉えて、直径200m程度の範囲に爆発をいくつも起こさせた。爆発、炎、爆音、爆風、衝撃波、爆発に巻き込まれた残骸の飛散、それら全てが魔物たちを襲う。
その爆発の規模と響く爆音に、カズヤも、近くにいる魔物たちも足が止まりそちらを見た。それほどの大爆発の連鎖だった。
魔物の大群はそれを受けて、近くで見て、明らかに統制が取れなくなっていた。
近くでカズヤを相手にしていた魔物も戦意喪失し逃げ出した。
このチャンスを逃す手は無い、とカズヤは私を抱えて覚醒し、文字通り稲妻の如き速さでその場を脱出した。
抱えられて逃げる最中に気配を遮断する魔法を唱えて追跡しにくくし、カズヤに降ろされたところで幻視を掛けた結界を貼る。これで簡単には見つからないだろう。
その日はそのまま夜を越し、しっかりと休息をとる事にした。
それにしても、魔王幹部の一人、一匹?である炎狼王フェンリルをあんなにもあっさりと倒してしまうなんて、カズヤは本当に成長した。黄金覚醒も使いこなしているし、このまま魔王まで一直線でいけそうだと思えるほどだ。
といっても油断は出来ない、すぐに調子に乗るのがカズヤの悪いところだ。となると次の強敵はカズヤにとって歯応えのある敵が良いな、気を引き締める事が出来るような丁度良い敵が。
そんなに都合良くはいかないんだろうけど。
ちなみにカズヤは少し変わって、以前のように試すように更に求めてきたり、事を進めるような事はしなくなった。私の気持ちを知って安心して、今は魔王を倒す事だけに集中しているからだろう。
私もそうだ、今は魔王を倒す事に集中したい、早くカズヤと一緒になりたい。
そんな事を考えながら眠りにつく。
私たちが寝静まった頃、次なる魔王幹部の行動が開始されたのだった。
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