38.別れと再会
周囲がざわついていく、魔物たちの司令官が討伐されたからだ。
そして、その騒ぎによって自分たちは今、魔物たちに囲まれているという状況を思い出した。
相当な数の魔物に三方を囲まれている、でも今の私たちならばここを脱するだけなら余裕だろう。
だけど、ここにはネヴァスカとカリフの亡骸がある。これを放置したままなんて出来ない。
ちゃんと弔ってやりたい、だから、逃げる選択肢は無いし、ここを荒らすような事もダメだ。
「カズヤ、出来るだけここらへんは荒らすなよ」
「分かってるって、ミキこそ魔法に巻き込むなよ」
声を掛け合い、身構え、その時に気になってふと視線を手の平に落とした。手の平にはネヴァスカから貰った指輪が有った。
そういえば、これがどんな効果をもらたすか聞いていない、ネヴァスカは自分では資格が無かったと言っていた。どういう意味なんだろう?
そんな事を考えている間にも魔物たちはそのまま包囲を狭めてきて、一斉に襲いかかってきた。
「カズヤ!少しだけ時間を稼いでくれ!」
「分かった!」
カズヤは覚醒し、魔物の集団に向かって跳んで、一方的な大暴れが始まった。
それはまるで憂さを晴らすように、重くなった気分を吹き飛ばすように、ひたすらに気持ちをぶつけて暴れまわっていた。
私はネヴァスカから貰った指輪をはめる。
すると指輪の飾りが眩しく輝き、脳内に声が響き渡る。
「我の力が必要か?」
急に声がするのでビックリする、これは指輪の声か?装着者に問いかける魔法でも仕掛けられているのだろう。
さて、力が必要かと問われれても、何の効果があるものか分からないし、魔族の指輪だ、普通に考えれば素直に「はい」とは言えない。だけどネヴァスカから譲り受けた指輪と考えれば、きっと使いこなせれば役に立つ物のはずだ。
「うん、必要だ」
そう念じて答える。
「ならば汝に我を扱うだけの力があるか、試してやろう」
言うやいなや、魔力が指輪に流れ込む、猛烈な勢いで魔力が奪われ、まるで指輪が私の魔力を全て吸い付くそうかという勢いだ。
残り魔力が僅かとなり、意識が朦朧としてくる。そろそろ止まってくれないと危険だな、と思っていた頃、指輪の魔力吸収が止まった。
「我の主たる資格はあるようだ、これより汝を我の正当な主と認め、力を開放しよう」
脳内に指輪の声が聞こえた直後、今度は指輪から一気に魔力が戻ってくる。指輪に奪われた量と同等の魔力が返ってきた。
そして、指にはめた指輪は、まるで何年もつけているかの様に指に馴染み、その指輪の情報が頭に流れ込んできた。
この指輪は”双響の指輪”。
魔法詠唱や歌など、声を使って行う技を本人に成り代わって行う事が可能となる指輪だ。
簡単に言うと、自分と指輪で同時にそれぞれ魔法の詠唱が出来るようになる指輪、という事だった。
カズヤが暴れていて、そちらではとても敵わないと見た魔物たちが私の方に向かって来ていた。
丁度良い、早速指輪の力を試してやろう。
「こっちはもう大丈夫だ!」
カズヤにそう声を掛けている間に指輪の力を使う。
左の肩に、私に似た首から上の白い影の様なものが現れ、大魔法の詠唱を始めた。
そして発動した魔法は大きな結界の壁で私やネヴァスカたちに近づけないようにして、頭上から無数の落雷を発生させる大魔法だ。
私自ら追加で詠唱を開始する、結界の向こう側に地面から土の槍を発生させて、逃げ道を塞ぐのと同時に魔物たちへ追撃を加えた。
指輪の力で発動した魔法の威力は私と全く同等で、イメージ通りだった、そして魔法の発動で私の魔力を消耗した。この指輪は純粋に2重に詠唱が出来るようになる魔道具、という事で間違いないようだ。
これは凄い、単純に私2人分の働きが出来るようになる、これならカズヤが戦うレベルでも足を引っ張らないで済むかも知れない。
その分魔力の消耗は激しくなるけど、得られる効果で考えれば大した問題じゃない。
その後もカズヤと私とで更なる追撃を繰り返し、残った僅かな魔物たちは遂に敗走を始めた。
散り散りに逃げる魔物たちを私たちは追う気は無かった。今はそんな事よりネヴァスカたちを弔う事のほうが重要だ。
辺りが静まり返り、周囲に魔物が居なくなった事を確認すると、カズヤも私も構えを解いて、ネヴァスカたちの元へ戻る。
◇◆◇
お墓を造りたかった。
ただ埋めるだけじゃなく、魔物や人間たちにも簡単に荒らされないようなしっかりしたお墓を。
「どんな形で弔う?」
カズヤが聞いてきた。私としては、2人を1つの棺に入れたいなと思うのだけど。
「俺はまず、同じ棺に一緒に入れたいと思う、それからここじゃなくて、大きな木の近くに埋めてやりたいなと思うんだけど、どうかな?」
「うん、良いと思う、私もそう思ってた。私が魔法で棺を作るね」
土の魔法で棺を造り、そこに2人の遺体を入れる。
そして、カズヤに大きな木の根本まで棺を運んでもらって、そこにお墓を作った。
「結構頑丈に造ったつもりだけど、どうかな?」
そう言うとカズヤはコンコンとお墓の強度を測り、OKマークを指で作った。
”カリフとネヴァスカ ここに眠る”
最後に文字を入れて、静かに手を合わせる。
私たちの一つの未来を示してくれた2人、それは魔族となり、ネヴァスカの人生全てと引き換えにカリフは500年の寿命を得た。
それはネヴァスカにとって、真っ暗な未来が視えていたはずだ、たった500年の為に自分の数千年を魔王に捧げたのだから、それでもネヴァスカは愛する人との500年を取った。
そして、似た境遇の私たちと出会い、カズヤと私の手によって殺される事を望んだ。
ネヴァスカにとって、不確かな何時まで続くか分からない未来より、そちらの方が良かったのだろう。
2人は、最後まで幸せそうだった。
──そう思わないと気持ちが落ち着かなかった。
◇◆◇
それから魔王城までの道程は順調だった。
特に大きな脅威に遭うことも無く、魔王城の近くまで辿り着いた。
「なんか……思ったより楽に着いたな」
「そりゃ俺たちが強くなった証拠だよ。それにここからが本番だ」
そうだな、ここからが本番だ。
そういえば
「他の勇者たちはどうなったんだろうな?」
「ロイたちか?そうだなあ、やられてないと思うし、もう先に入ってたりしてな」
私たちが把握している範囲では残る魔王幹部は2体、雷帝と蜘蛛の女王だ。
思えば私たちだけで巨人王、炎狼王、吹雪の女王を倒したのだ、他の2体は他の勇者が倒していても不思議じゃない。となると残るは魔王だけ……という可能性もあるのか。
嫌だぞ、魔王城に入ってすぐに魔王討伐完了なんて事になったら。そういえばカリフは幹部を1人倒しただけで魔王を倒したのは他の勇者という話だった、そう考えると十分に有り得るのか。
そんな事を考えながら2人で魔王城に近づくと、その予想は的中するんじゃないかと思えた。
門前には門番らしき魔族の遺体、そして正門は大きく開かれていたのだ。
「カズヤ、先を越されちゃったな」
「ああ、そうだな。でも魔族の遺体を見た感じだと何日も前、って感じじゃないし、そこまで離されてる感じじゃなさそうだ」
魔族の遺体の切り口を見ると、それは炎でやられた痕じゃなかった、という事は門番を倒したのはドミニクたちか?まあ、他のパーティメンバーが倒した可能性もあるから判断は出来ないけど。
がら空きの正門をくぐり、私たちは正面から魔王城へと入った。
魔王城に入るとあちこちに魔物や魔族と思わしき亡骸があって、自分たちは後発なのだと嫌でも思わされた。
魔王城を探索していて分かったのだけど、魔王城の地上に出ていたのは一部分で、殆どは地下に埋まっているようだった。地上部分には一応の王座や広間があり、王宮らしい作りにはなっていて、地上だけでも城としては完成していた。だけど、対侵入者、つまり勇者に対しては地下に潜み、その地下は迷宮のようになっていた。
「なんかこれぞラストダンジョンって雰囲気だよな!」
そう言って興奮するカズヤだった。気持ちは分からんでもない。ラスボスにラストダンジョン、RPGの王道だ。
ただ、そこにあるのは魔物の亡骸だけで、魔王城に入って一度も戦闘が行われていない事を除けば、だけど。
◇◆◇
地下ダンジョンに入ってから、殆ど行き止まりに会ってない、これは順調に進んでいるという事だろうか。
そしていくつかの分かれ道を選て、今また分岐路にいる。
「ん?こっちから気配と……音がするな」
カズヤはそう言って右を指差した。
地下に入ってから、私の魔力感知は乱されるようになり役に立たなくなった。今はカズヤの気配察知だけが頼りだ。
私も耳を澄ますと僅かに音が聞こえた、それは遠くで雷が鳴るような音だった。何者かが雷の魔法でも使ったのだろうか。
どちらにしても、そこへ行けば何者かが戦っていて、それは多分、勇者パーティだろうという事だ。
「先行くぞ!ミキ!」
そう言ってカズヤは駆け出した。
私も慌てて追いかけるけど、足の速さではとてもじゃないけど追いつけない。
部屋の前に着いたカズヤは覚醒し、こちらを一瞬見た後、中に飛び込んで行った。
よっぽど危険な状況だったのか、カズヤの表情が部屋の中を見た時に一変したのが見えた。
すぐに雷鳴が聞こえた、それはカズヤのものなのか、それとも相手のものなのか、判断が出来なかった。そのまま、何度か雷鳴が鳴り、戦いが繰り広げられているようだ。
そして一つ分かった事がある、さっきから雷鳴しか鳴っていない、それはつまり、カズヤは当然として相手も雷の魔法か技を使う相手だという事だ、更に今のカズヤが瞬殺出来ない相手という事は、相当に強い相手、つまりカズヤが相手しているのは魔王幹部”雷帝”だろうという事だ。
やっとの事で部屋の前に着いた。そして部屋の中を見ると、それは惨状だった。
ドミニクたちがそこにいて、メンバーはやられてはいるけど多分大丈夫だろう、だけどドミニクは右腕を失っていて満身創痍だった。
やっと立って、そしてかろうじて左手で剣を構えているだけ、そんな風にしか見えなかった。
現にカズヤと雷帝の戦いを見て、手をこまねいているだけだった。
私は即座に指輪の力を使い、2重詠唱でカズヤに身体強化と雷属性耐性付与、防壁を掛けた。
そしてドミニクパーティのメンバーに駆け寄り、危険そうな者から順番に回復する。
2重詠唱の凄さを実感しつつ、手早く3人の回復を済ませる。
「あの、ありがとうございます……」
確かマリアと呼ばれていた女性がお礼を述べる。
「……あの、すみませんが、ドミニク様にも回復を、……あの、申し訳ありませんが、よろしくお願いします」
ドミニクと聞いた時、私はきっと嫌そうな顔をしていたのだろう、マリアの言葉が途切れ、あらためてお願いされてしまった。
正直な事を言うならば、ドミニクの回復なんてしたくない、だけど、しょうがない、これはしょうがないんだ。嫌いだからと言って、目の前で死なれても寝覚めが悪い、そういう事だ。
ドミニクに駆け寄るけど、当のドミニクは全く私に気付いていなかった、目の前の戦闘に、カズヤと雷帝の戦いに目を奪われていた。
「おい、回復してやる」
そっけなく声を掛け、回復魔法を唱える。
ドミニクはやっと気付き、こちらに振り返った。
「お……おう、って!ミキちゃん!?てことはあいつはやっぱり……見間違いじゃねえのか……くそ……」
そう言って黙り込み、カズヤの戦いを見続けるのだった。
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