47.核の在り処
戦いは続いていた。
核が見つからず、ただ再生されるだけの無駄な攻撃を続けていた。
そもそもだ、人間形態の時にカズヤがあれだけ細切れにしても核は無かった、傷ついてすらいなかった。
本当に核なんてあるのか?あの反応すら魔王デビダンガルムの嘘だとしたら?
そんな事を思い始めていた。
まるで敗北イベントなのに必死に戦っている様な気分だ。
絶対に倒せない敵を倒すつもりでアイテムを駆使して頑張った後にそれが敗北イベントだと知った時、使ったアイテム返せ。と思ったものだ。
それにしてもこれじゃ埒があかない、なんだかやり方が間違っている気がしてきた。うん、もう一度考え直してみよう。
まず最初の人間形態の時、カズヤが細切れにしても再生された。
そして魔王の昔話……は置いといて……ん?
ある事に気付いた。
その事とは、魔王は元々スライム状だと言っていた、そして能力を与える、とも。
スライム状で能力を与える……魔法的な能力の付与だとてっきり思っていたけど、それはつまり、身体の一部を切り離して植え付ける、という事じゃないのか?
自分の身体の一部を切り離す事が出来て、移植できると考えれば納得がいく。
ネヴァスカやカリフは刻印という形で魔王の一部が移植されていたと考えられる、だから魔王の意思でいつでも殺す事も可能だったんだ。
そして身体から切り離す事が出来るのであれば、今戦っている魔王は核から切り離された分体で、つまり何処か別の場所に核があるとすれば……。
核は別の場所にあるとしても全く別の場所に保管というのは考えにくい。核に万が一があっては困るし、それは魔王にとって自分の命そのものだからだ。
となると、目の届く範囲、この部屋にあると考えるのが自然だ、核に危険が迫った時でもそれを守る事が可能だからだ。
となるとやる事は決まった。
この部屋全体に攻撃をし、魔王の反応を見るのだ。反応があれば良し、無ければ……その時はまた考えよう。
◇◆◇
「カズヤ!核は多分そこには無い!部屋全体に攻撃だ!」
カズヤはハッとして、親指を立てて返してくれた。察しが良くて助かる。
続けざまに武御雷に雷を打って武御雷強化状態にする。
この役目はカズヤが適任だ、武御雷強化状態のカズヤは、私より強力な雷の魔法を武御雷を通して使用出来る。
カズヤは詠唱を始め、魔王から距離を取って武御雷を天に突き上げて叫んだ。
「
雷霆と嵐が巻き起こり、部屋全体を雷が襲う。
これで魔王が反応すれば核の在り処が分かる。さあ、どうだ。
──そして魔王は、動いた。
発動からすぐ、人型をした上半身が象型の下半身から飛び出した。
その動きはカズヤほどでは無いけど、素早かった。
雷の嵐が巻き起こる中、玉座の後ろにある壁面の装飾から一つ、丸い球の様なソレを取り外し、人型の身体に収めた。
読み通り、核は身体の外にあった。
そしてそれを身体に取り込んだという事は、今度こそちゃんと弱点が体内にあるという事だ。
「貴様ら、我の体内に核が無いと良くぞ見抜いた。よもやこの様な方法で露見するとはな、褒めてやろう」
魔王の余裕そうな態度、だがその表情は怒りに満ちていた。
「ハッ!弱点無しで戦っていた卑怯者が余裕ぶるなよ。今度こそ核を潰して終わりだ!覚悟しろ!」
「カズヤよ、お前は分かってないな、核を取り込んだ今こそ、我の本当の実力だという事だ」
確かに魔力は増している気がするし、威圧感も増えた様な、そんな気がした。
だけど関係無い、全力で倒すだけだ。
カズヤは続けて魔王に向かって跳ぼうとした。今なら上半身を斬り刻む事で核も破壊出来る。
しかし、それは妨害された。鋭い角が大量にカズヤに襲いかかり、動きを妨げたのだ。
そうしてカズヤの妨害をしている間に、魔王は象型の下半身に戻る。
「くそッ!また合体しやがった。だけど核はそこにあるって分かったんだ。行くぞミキ!」
「うん!やるぞ!」
「応!!」
気を取り直し、カズヤは駆け出した。
そして小手調べとばかりに、足を斬り付けた。
しかし、先ほどまでと違って切り裂くには至らず、刃が少し食い込む程度だった。
明らかに魔王の硬度が上がっている。
さらに、それに対する魔王の反撃もまた、速度が上がっていた。
予想外の硬さに驚いたのか、カズヤの反応が僅かに遅れ、紙一重で避ける。
「ッぶね!硬くなりすぎだし、速い!こりゃちょっと苦戦しそうだなあ」
ボヤきつつもまだまだ余裕がありそうなカズヤだった。
「それなら上半身はどうだ?」
カズヤは跳び、象型の下半身を踏み台にして駆け上がる。
途中、角の攻撃が迫るもそれを斬り払い、足場にして、上半身の正面に跳ぶ。
「魔王デビダンガルム!覚悟!」
言うが速いか、そのまま上半身を脳天から真っ二つに切り裂いた。
どうやら上半身の硬度はそこまででも無いようだ。
だけど。
「ふん、そんな事をしても無駄だと思うのだがな」
再生速度の上がった魔王はすぐに上半身を再生し、そう言った。
「今のはわざと斬らせた、本気の我の力を見せるためにな。さて、どうやって核を破壊するのかお手並み拝見だ」
魔王は余裕そうに腕を組み、構えた。
身体から生えている無数の角がカズヤを襲う。
「くっ!やっぱりさっきよりも速度が上がってるか!」
カズヤはなんとか角を斬り払い、何度も核を収めたであろう上半身に斬りかかるも、角や魔法の対応に手を焼き、さっきまでより攻撃する機会が少なくなっていた。
そして斬る事が出来てもそれはすぐに再生されて、一向に戦況が有利に傾かなかった。
私も2重詠唱で下半身に攻撃を加えていた。
でもそれだって傷の再生が速く、魔王の魔法耐性が上がってるせいか効果も薄くなっていて、効果を実感しにくくなっていた。
「カズヤよ、お前は核が我の上半身にあると思って攻撃している様だが、果たしてそうかな?核は我の体内を自由に移動出来るとは考えないのか?」
正直、そんな気はしていた。核を取り出せるくらいだ、そんな芸当を出来ても不思議じゃない。
とはいえ、それを前提で考えたら斬って探すなんて無理な事だ、だから上半身に狙いを定めたカズヤの考えも分かる。
となると、今みたいにがむしゃらに攻撃するのは得策じゃない。一旦仕切り直そう。
「カズヤ!一度やり方を考え直そう!!」
「分かった!」
魔王から距離を取り、仕切り直す。
そして、なぜか魔王からの攻撃も止んだ。
「ふむ、待とう。良い方法を思いつくと良いのだがな。──ああそうだ、今からでも我の配下に加えてやっても良いぞ?我は寛大だからな」
魔王は余裕の表情で腕を組み、私たちを見ていた。
魔王デビダンガルムめ、さっきまで殺す気でやっていた癖に、余裕が出たからってその態度、腹立つなあ。
だけど、今私たちが手も足も出てないのは確かだ、カズヤの覚醒が切れたらその時は心が折れる時だろう。そうなったら本当にもう、手段が無いのだから。
◇◆◇
私たちは追い詰められていた、時間を浪費し、体力も消耗していた。
そろそろ決着を付けないと、カズヤが保たない。
だけど正直、良い方法が思いつかなかった。あれだけの再生能力に大きな体、魔法だろうと剣だろうと動く核を破壊するのは無理難題に思えてきた。
そんな事を考えていると、覚醒を解いたカズヤが寄ってきて言った。
「ミキ、俺にはもう残り体力も覚醒時間も少ない。だから次の一撃で決めようと思う」
「次の一撃で決めるって……何か手があるんだな?良かった。それで何か協力出来る事はある?」
「ああ、頼む。ミキ、エリンとコリンを覚えているか?あの2人、魔力はミキに劣っていたけど、
一人で魔法を使うばかりだったからその考えがすっかり頭から抜けていた。
それに合従魔法は魔力を合わせる必要があって、魔力の性質が近しい者同士でないと発動出来ない。
あれは双子のエリンとコリンだから出来た芸当なんだ。
だけど今なら、2重詠唱が出来る今なら合従魔法も出来るような気がする。なんたって魔法を使うのはもう一人の私のようなものなのだから。
私はコクリと頷いた。
「今から覚醒するから、合わせて合従魔法での身体強化と武御雷強化を頼む!多分これが最後の大技だ」
「分かった!必ず成功させる!」
ぶっつけ本番の合従魔法、難易度は高いけど、絶対成功させてみせる。
◇◆◇
カズヤは魔王に向き、武御雷を構え直した。
「ほお、まだやるか。いい加減無駄だと気付いたと思うのだがな」
「うるさい!俺はお前の軍門には降らない!俺はお前を倒す!」
「勢いがあるのは結構な事だ。だがどうする?気合だけではどうにもならんぞ?」
カズヤには勝機がある、カズヤならきっとやってくれる!
身体強化のため、合従魔法を唱える。
私と白い影、同時に魔法の詠唱を始め、魔法が融合し始める。
そして、合従魔法が完成した。
「合従魔法!豪身超化!!」
合従魔法が発動した。
あっけない。
合従魔法は使用者2人の魔力の質を合わせる必要があり、そのために多少の身体の負担があると聞いていた。だけどまったくそれが無かった。
まるで普通に魔法を扱うように、自然と合従魔法の発動が出来た。
やはり自分の分体、白い影は自分と全く同質なんだとあらためて実感出来た。
そしてそれを受けたカズヤの身体はキラキラと眩しく光を放っていた。
「おお……これは……これならイケる!!行くぞ!!」
光が収まり、すぐに黄金覚醒して金色のオーラを纏い、駆け出す。
続けて合従魔法で雷の魔法を詠唱する。
「合従魔法!雷神槍!!」
駆けるカズヤの武御雷へ強力な雷が落ちる。
私の魔力で出来た武御雷は、私の魔力で放たれた雷を吸収し、武御雷とカズヤを超強化した。
カズヤは跳び、一瞬で魔王デビダンガルムの真正面で上段から斬り付けた。
それは魔王も反応出来ておらず、腕を組んだままだった。
上半身は縦に真っ二つに割れた。
そしてカズヤはもう一度振り被り、再生が始まる前に武御雷を上半身の裂け目に合わせて下半身の付け根まで叩きつけた。
「究極奥義!
上半身と下半身の境目、そこの内部に武御雷を叩きつけ、奥義を発動させた。
本来、雷鎚極は武御雷に雷を纏わせてハンマーのように叩きつける技だった、だけど雷鎚極 改は違った。
叩きつけた武御雷から雷が伝わり、魔王の内部から雷で攻撃をしていた。
全身を内部から雷で焼き、核をも破壊する。そういう技だろう。
「グウオオオオォォォ!!!!」
魔王が初めて叫び声を上げる、それは効いている証拠。もしかして核にダメージを与えているかも知れない。
「うおおおおおおぉぉ!!!」
カズヤも雄叫びを上げて、雷を流し込み続けていた。
覚醒の出力も上げて、これで全てを出し切るつもりだ。
少しして、辺りは静かになった。
魔王の声は止み、続けてカズヤの叫びも止まった。
カズヤは力無く落ち始め、私は慌てて転移のブレスレットに思いと魔力を込めて、自身の傍に転移させ、カズヤを受け止めた。
魔王デビダンガルムの上半身は完全に焼け焦げ、黒く染まっていた。下半身も半分近くは焼け焦げていて、内部のダメージは相当なものだろう。
これなら、核も破壊して、魔王を倒したのでは無いか。そう思えた。
カズヤを座らせて、身体を支える。
「カズヤ!おい!大丈夫か!?」
呼びかけると反応があった。
「ん、あ、ああ、起きてる、うん、生きてるよ」
カズヤは魔王をまっすぐ見据えていた。油断無く、見逃さないように。
そして立ち上がろうとしてバランスを崩し、咄嗟に支え、やっとの事で立ち上がった。
「カズヤ……」
カズヤを見上げると、その表情はまだ終わっていない、私にはそう言ってるように見えた。
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