48.カズヤの回想4
呼吸が乱れる、身体に力が入らない。
意識が朦朧として焦点が定まらない。
体力が尽きるまで覚醒をした代償だ。
もう立つ事すら出来ない、何も残ってない、ゼロの状態だ。
ミキに支えられてやっと立っている有様だ。
本当は今すぐにも横になって、身体を大の字に広げ、眠りにつきたい。
だけど、魔王デビダンガルムの最後を見届けないと安心して座って落ち着く事も出来やしない。
俺とミキの全力全開の渾身の攻撃だったんだ、確かに効いていたはず。
核を移動させていたとしても、全身くまなく雷撃を与えた、全くダメージが無かった、という事は無いだろう。
現に魔王が再生されている様子は見えない。
ぶすぶすと魔王の身体が焦げていて、微動だにしない。再生が始まっているように見えない。
今度こそ、本当に、勝ったのだろうか。
魔王を、倒したのだろうか。
◇◆◇
「カズヤ、今度こそ倒せたんじゃないか!?」
ミキが無邪気にはしゃぐ。俺を支えていなければ身体全体で喜びを表現していただろう。
ミキは前世の時からそうだったけど、喜びの感情が分かりやすく表に出てきて、一緒に嬉しくなってしまう。
そういうところが好きだ。
俺を支えた体勢のままはしゃぎすぎたのか、バランスを崩し、慌てて俺をしっかりと支え直した。
「おっとと、流石に重いな、カズヤはデカいからなあ。でも安心しろ、今のはちょっと油断しただけだ。私だってカズヤくらい支えられるからさ」
少しバツが悪そうな表情をした後、そう言って微笑みを向けてくれた。
俺はこの笑顔が好きだ、大好きだ。
エルフに転生して400年だったか、それだけの時間を過ごしたミキの仕草は、すっかり女性だった。
だけどそれがミキだと分かると、ただの女性にしか見えなかったその仕草も、どこか前世のミキを思い起こさせた。
そしてそれが、俺には堪らなく魅力的に映って、惹かれて、安心できた。
ミキは俺の親友で、俺の愛する人だ。
親友だから心から信用できて安心するし、愛しているから全てが欲しくなる。
本当は魔王なんて放っぽり出してミキと2人で暮らしたい。
だけどそれは出来ない。
俺は、勇者だからだ。
ちょっと前、Bランク勇者なりたての頃はそんな殊勝な考えなんて無かった。
だけど、周りの期待を実感するたびに、ミキと一緒に戦いを重ねる毎に、他の勇者と出会う事で、勇者としての自覚と強くならなければという思いが芽生え、育った。
特に他の勇者、その存在は俺を大きく変えてしまった。
◇◆◇
光の勇者ドミニク。
嫌な奴だった、嫌いな奴だった、俺からミキを奪おうとした奴だった。
でも、当時の俺にとって、その存在は衝撃だった。
俺が天狗になっていた頃のアースドラゴンとの戦いで、俺はどうしようもなく歯が立たず、ミキを失うところだった。
それをドミニクが救ってくれた。
目的がミキとはいえ、助けてくれたのは事実で、俺はそこで本当の勇者の強さというものを目の当たりにした。
ドミニクは当時の俺とは比較にならないほどに強く、これが本当の勇者というものなのかと思い知った。
死に物狂いでミキを助ける事ができたけど、結局はミキの結界が無ければそれも出来なかった。
結局、俺は全くドミニクに歯が立たなかったのだ。
そこで覚醒というものを知り、後にそれが勇者固有のものだと知った。
つまり、覚醒を自在に扱う事こそが真の勇者たる存在なのだと理解した。
それからの目標はドミニクだった、
あいつの強さを超え、ミキを守れるようになるために努力した。
魔王の地下迷宮で再会を果たした時、正直な事をいうならば、がっかりした。
自分の成長速度を考えれば、ドミニクだって相当な強さになっているはずだ、そう思っていた。
だけどその予想は大きく裏切られた。
心底落胆し、その性格が全く変わっていない事にもうんざりした。
今となってはどうでも良い存在となってしまった。
とはいえ、ドミニクの存在がなければ俺たちはあそこで終わっていたし、結果的に努力する事も出来、強くなれた。
◇◆◇
炎の勇者ロイ、そして元炎の勇者ジョセフ
ロイは良い奴だ、その性格は真の勇者に相応しいと声を大にして言えるだろう。
俺が勇者じゃ無かったらロイに魔王を倒して欲しいと願う、それくらい勇者らしい勇者だ。
彼らとの出会いも俺の転換点となった、彼らとの出会いが無ければ勇者としての姿勢も今とは違ったかも知れないし、覚醒を使いこなす事も出来なかったと思う。
ロイはその性格、ひたむきで真っ直ぐ前を見つめて進むその性格、それは正に勇者としての正しい姿の様に思えた。
そしてその師匠、元勇者のジョセフさんは覚醒の可能性を示してくれた。
ロイのパーティは俺たちとは違い、バランスも良く、前世にあるゲームなら間違いなくロイたちは魔王を倒して世界を救うだろう正統派勇者パーティだ。
俺は心の中でロイを勝手にライバルと認定していた。
ここで再会した時、ロイたちは強くなっていた。
特にロイは勇者だからか大きく成長していて、俺と同等の実力を持つと思った。
ライバルとして認めていた俺はドミニクの事があったので余計に嬉しかった。
ロイは勇者らしさを増していて、その性格も変わっておらず安心した。
ロイの存在は、俺に勇者というものを教えてくれていた。
ジョセフがいなければ、俺は覚醒を使いこなす事は出来なかっただろうし、もう一歩先まで進めなかっただろう。
俺にとって他の勇者の存在は、勇者として成長する上で大きな存在となってくれた。
◇◆◇
俺はみんなのためにも、自分のためにも、魔王を倒さなければならない。
不明瞭だった視界が明瞭になっていき、魔王の姿がはっきりと見える様になった。
目を凝らし、少しの動きも見逃さない様に注視する。
すると魔王の身体に反応があった。
それは極々僅かな、俺しか気付けない程度の反応だった。
「ミキ!防壁だ!」
素早くミキに指示を出す。
「え!?あ!」
戸惑いつつも即座に反応し、防壁を貼るミキ。
その直後、魔王の体内から角が何本も飛び出し、俺たちに攻撃を仕掛けてきた。
無事に角の攻撃を防壁が防ぎ、事なきを得る。
ミキは無言で続けて結界を貼り、防壁も重ねて貼り直した。
「まさかまだ生きてるのか!?」
驚くミキ、だけど俺にとってはあり得るだろうな、という感想だった。
「最後っ屁じゃないと思う、魔王はまだ生きてる、核がまだ無事だと思う」
俺は雷鎚極を撃った時、全身を焼き焦がすつもりで放った。
だけど、下半身の後方は焼け焦げ無かった、それでも内部には攻撃を伝え、倒せたかも知れないと思ったのだけど、考えが甘かった。
問題は、もう俺の体力は残っておらず、まともに戦う力が残ってない事だ。
ミキだけでは、さっきの俺以上の攻撃を繰り出す事は不可能だろう。
となると……残る手段は一つだけ。
これは本当に最後に手段、奥の手だ、本当は出したくない手段だ。
覚醒で全ての力を絞り切り、もう何も残っていない、その状態でのみ使用出来る最後の覚醒。
それは通常の覚醒より出力が高いが持続時間が短い。
何より覚醒で消耗するのは体力だけど、それは命を消耗する、命の炎を燃やして発動する覚醒だ。
覚醒を越えた1つ先の覚醒。
だけど、もう、これしか手は無い。
そんな事を考えていると、魔王の身体が再生を始めた。
焼け焦げた傷が治り始め、身体が形を整え、下半身から徐々に再生されていく。
「ミキ、時間が無い。最後の力で覚醒をするから、強化を頼む!」
「でもカズヤ!もう力なんて残って無いだろ!?そんな状態で覚醒なんて……!」
狼狽えるミキ、そう、確かにその通りだ。もう覚醒は使えない、そう、普通の覚醒なら。
「大丈夫だ!俺には奥の手がある。だから頼む!」
そう言ってミキを無理やりに納得させて、強化を頼む。
ミキは少しだけ考えた後に頷いた。
「分かった!私はカズヤを信じる!!」
ミキそっくりの白い影が現れ、2重詠唱を開始した。
この白い影、影らしく姿がぼんやりしている癖にミキによく似ていて、だから凄く美人で綺麗な影だ。
ミキと白い影の詠唱が完了、すると白い影が動き、ミキと重なる。
「カズヤ……」
白い影が重なったミキが俺を見つめ、口付けを求めてくる。
俺はそれを受け入れ、ミキを求めた。
俺は驚いた。ミキの唇、舌の感触は分かる、だけどまさか、白い影の感触も同時に感じていたからだ。
実際には触感があるわけじゃなくて、魔力の塊のようなものを感じるのだけど、それがまるで本当に口付けしている様な感覚があった。
ミキの舌を吸い上げると同時に白い影の舌を吸い上げている様な感覚がある。
まるで表と裏、2つの世界を同時に味わっている様な、そんな感覚だ。
そして、俺の身体は強化されていく、今までに無い程の強化を感じる。
唇を離し、呼吸を整える。
今度は俺が覚醒をする番だ。
全てを出し尽くし空っぽにし、その上でやっと命に炎を灯せる。
今までの覚醒とは違い、熱く滾る心ではなく、心を落ち着かせ、澄み渡る心を持って、発動する。
──名付けて、ゼロの覚醒『
覚醒が発動する、『明鏡止水』は持続時間が短い、俺の命を燃やした短期決戦だ。
「合従魔法!雷神槍!」
武御雷を構えると即座にミキの魔法が飛んできた。
流石ミキだ、タイミングドンピシャ。
我が心 明鏡止水 ~されどこの身体は稲妻の如く~
魔王に向かって跳ぶ。
魔王デビダンガルムはもうすぐ再生を完了させ、完全復活目前だ。
復活などさせるものか、このまま終わりにする。
魔王は俺を仕留めようと角で攻撃を仕掛けてくる。が、遅い。
魔王の正面に出て、技を繰り出した。これが本当に最後の技だ。
「天破絶刀 稲妻雷光斬 -
天破絶刀 稲妻雷光斬は本来連続で使用出来る様な奥義じゃない。
だけどこの技は天破絶刀 稲妻雷光斬を無数に繰り出す、『明鏡止水』の時しか出来ない奥義だ。
それが出来るだけの技量とそれに耐える力が今はある、ミキのお陰で繰り出せる。
稲妻雷光斬-千手-は魔王の身体を切り裂いた、下半身の強固な皮膚も包丁が野菜をみじん切りにするが如く、斬れ味鋭く、全身の隅々まで。
そこでカズヤはある感触に触れた。
瞬間、理解した。これが魔王の核だ、と。
そのまま核を斬り刻み、細かい破片となるように念入りに斬り、破壊した。
カズヤには魔王デビダンガルムの断末魔が聞こえた様な気がした。
そして、その瞬間『明鏡止水』は切れ、意識を失った。
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