13.新しい装備
カズヤの新しい剣が出来るまでの間、Aランクのクエストを2つほどこなした。
ザックに依頼してからやっと街に戻ってきたのが6日後の夕方となったので2日の遅刻となるけど、4日後以降に来いって言ってたし、問題無いと思う。
ギルドへのクエスト完了報告が終わってすぐにザックの鍛冶屋へ向かう。
カズヤは街についてからずっとソワソワしている、新しい剣が楽しみなのだろう。
まるでクリスマスプレゼントを心待ちして、夜にテンションが上がっている子供のようだ。
今使っているザックに借りた剣だって相当なものだ。
今までの剣とは比べ物にならない、と何度もザックの仕事を褒めていた。
量産の剣じゃなく、1等鍛冶師の1点物、ワンオフなんだからそりゃあそうだろうなと思う。
そしてその1等鍛冶師の打つミスリルの剣となれば楽しみになるのも頷ける。
無邪気に嬉しそうなカズヤを見るのは微笑ましく、こっちもなんだか嬉しくなってくる。
思わずフフッと声が漏れてカズヤに「なんだよ、何か面白いもんでもあったか?」なんて言われたけど、適当にごまかした。
まさか嬉しそうなカズヤを見ていて私も嬉しくなったから、なんて言えるわけがない。
◇◆◇
「ザック、居るか?」
店先でカズヤがそう呼びかけると初めて来店したときとは比較にならない速さでザックが店の奥から現れた。
「おう、待っとったぞ」
そう言って布に包まれた剣を取り出し、卓の上で広げた。
「手に取って見てくれ、会心の出来栄えだ」
それは銀色を基調とした美しくシンプルな装飾の鞘に収まっていた。
カズヤは手に取り、鞘から剣を抜く。
剣の柄も鞘と同様に見た目はシンプルだが厳かなデザインとなっていて、刀身は鈍い銀色に、刃は銀光を放ち、他の剣との違いがはっきりと見て取れた。
「流石ミスリルだな、凄く軽い、それに切れ味も借りた剣を上回ってそうだ。ちゃんと依頼通り両手でも持ちやすくなっていて、取り回しも悪くない」
剣を片手で、両手と持ち変え、軽く素振りする。
「おう、ただし軽くなった分だけ加重は無くなったぞ、ちゃんと斬るつもりで振るんだぞ」
「あ、そうか、今までより力を入れないとな」
2人はミスリルの剣で話し合い盛り上がっていた。
特徴、取り扱い、手入れの仕方なんかの説明をしている最中、ザックは思い出したようにポンと手を打った。
「おっと、すっかり忘れとったわい、ちとまっとれ」
店の奥に戻り、すぐに戻ってくる。
その手には、それもまた銀を基調とした小さな丸い盾、バックラーのような物を抱えていた。
「カズヤは盾を持たんだろう、それじゃこの先危なかろうと思ってな、バックラーを拵えてみた。これなら腕に取り付けるだけでええし、邪魔にもなりにくい」
カズヤはそれを受け取り、早速装着し、腕を回し、構え、剣を素振りした。
「ありがとうザック、これ凄く良いよ、邪魔にならないし、ミスリル製だろ?うん、気に入った」
それを聞いたザックは嬉しそうに破顔し顎髭を撫でる。
「うむ、魔王を倒すにゃ足りんかもしれんが、魔族ならそれで十分だろう、しっかり役立ててくれ」
「これ買うよ、いくらになる?」
そうカズヤが尋ねるとザックは短い腕を組んで少し悩み、2本指を立てた。
「200万!」
に、にひゃくまん!!そりゃべらぼうだ、高い!高すぎる!2人の貯金を合わせても届かないんじゃないか?とにかくそれくらいだ。
しかしカズヤの顔を見ると悩んでいる、なんとか交渉で安くならないか、そんな顔だ。
「……と本当なら言いたいところだが、ミスリル採掘も採掘所も助けて貰ったし、何よりワシはカズヤを気に入ったからな!タダにしたいところだが商売がらタダには出来ん。だからこれで良い」
と、そのまま指を2本立てたまま言った。
「20万か、それならなんとか──」
「違う、2万センで良い」
極端だなおい!でも話を聞く感じだとタダにしても良いくらいらしいし、そんなものかも知れない。
ちなみに通貨の単位はセンだ。銅銀金の順に価値があり、その中で貨幣、大判の順に価値が上がる。
「分かった、ありがとうザック」
そう言ってカズヤはお金を払った。
ザックは受け取りつつ、加えて言った。
「そうだ、余計なお世話かも知れんがマントを発注しといたぞ、ミスリルを編み込んだ物だ。そっちのエルフの嬢ちゃん、いやミキの分も一緒だ。場所はココ、そっちは普通に請求されるだろうが必ず役に立つはずだ」
ザックはザック印が入った簡易な手書きの地図をカズヤに渡した。
「ありがとう、それじゃザック、また来るよ」
「そん時はオリハルコンでも持ってきな」
手を振って別れた。
オリハルコンか……魔王を倒すならそれくらいのものは必要かもね。
◇◆◇
渡された地図を片手に目的の店に着いた。
店構えはいわゆる量産品の武器防具を扱う普通の店、という感じだけど1等鍛冶師が紹介する店だ、ここも多分良い店なんだろう。
「すみません、ザックに紹介してもらったカズヤという者ですが」
「師匠!カズヤさんが来ましたよ!師匠!」
カズヤが言うと店番をしていた女の子が慌てて奥に行き、師匠?を呼んだ、店主の事だろうか。
程なく師匠と呼ばれた人物が現れる、見た目はチョビ髭を生やした普通のおじさんだ。
「おう、いらっしゃい!あんたが勇者カズヤ殿か、なるほど確かに良い目をしている、それに腕も立ちそうだ、ザックが気に入るくらいだから相当なもんなんだろう。お、それはザックの拵えた剣と盾かい?相変わらず良い仕事してんなあ」
早口でまくし立てる。
そして距離を詰めてくる。
「お、あんたが噂のエルフの嬢ちゃんかい?……こりゃ確かに美人だ、なるほどねえ、勇者カズヤ殿も隅に置けないな……うん、お似合いのカップルだ!あいつら程度じゃなびかないのは当たり前だな」
カップルと言われたのが気になるが、それより気になる、あいつらって誰だ?
気になって聞いてみた。
「うちに買い物にくる連中の事だよ、そいつらが言うには半年くらい前からとんでもなく美人のエルフが現れるようになったっつってよ、どいつもこいつも落とすと意気込んでたんだが、結局は勇者殿には勝てないと諦めたらしい。まあ勇者様で、あのザックに気に入られるほどで、こんだけ男前なら納得だ、そりゃあいつらじゃ勝てんわ、ワッハハハ!!」
なるほどギルドの冒険者連中の事か、ここは武器防具の店、伝わっていても不思議ではない。
というかここ、ただの普通のお店なのでは?ザック?
カズヤはカズヤで師匠とやらの勢いに圧倒されて苦笑いをしている。
「師匠!無駄話はそれくらいにして、本題に入りましょう、カズヤさん困ってますよ!」
店番をしていた18才くらい女の子がそうやって師匠をたしなめ、促した。
「おっとそうだった、すまねえな勇者殿」
「あ、いえ、お気になさらず。それに勇者ではなくてカズヤと呼んで下さい」
師匠は姿勢を正した。
「そうはいかねえ、あんたは勇者、人類の希望だ、敬意は払わなきゃいけねえ。おいクララ!アレ持って来い!」
「はい師匠!」
クララと呼ばれた店番をしていた女の子は立ち上がり、奥へ引っ込んだ。
「俺の名はファビオ、自分で言うのも何だが裁縫が得意でな、布と革製品を作る事に関しちゃ誰にも負けねえと自負している」
ファビオが自己紹介していると奥からクララが何かを抱えて戻ってきた。
「はい師匠!」
ファビオはクララからそれを受け取り卓の上に並べる。
それはマントだった。
一つは濃い紫のマントで、もう一つは濃い赤のマントだった。
「このマントにはミスリルを編み込んであって、防寒防熱に加えて魔法抵抗性能がある。これなら熱さも寒さも平気だし、魔法抵抗もかなりのもんだ。ミスリルだから重さも布で作った物と殆ど変わらない。我ながら良いもん出来たと思うぜ、手に取って見てくれ」
カズヤと私はマントを手に取り、羽織ってみた。
重さは普通のマントと変わらない、むしろ軽いような気すらする、それに多少の衝撃でも破れそうもなく強そうだ。
カズヤを見ると私と同様にマントを気に入ったのが窺える。
「これ良いですね、気に入りました、おいくらですか?」
カズヤがそう言うとファビオは指を2本立てた、またこのパターンか。
「えーと、まさか200万……ですか?」
カズヤは恐る恐る尋ねる、ザックの件もあるしそうなるよね。
「いーや、2つで20万センだ、勇者様でもこれ以上はビタ一文負けられん!」
カズヤと私はホッと胸を撫で下ろした、それなら払えない額じゃない。
「良かった、それじゃあ買います」
「毎度ありがとうございます、勇者カズヤ殿」
カズヤは20万セン払い、マントを受け取った。
そして赤のマントを私へ渡す。
「ミキはこっちの方が似合うと思う、これで良い?」
私はマントを受け取り応えた。
「流石、こっちが良いと思ってたんだ、ありがとな」
その後ファビオらとの雑談で知ったのだけど、ファビオが作った布や皮の武器防具は値段が高く、この店には並べず、高級武器防具店に卸しているそうだ。
そしてクララはファビオの裁縫の腕に惚れて弟子入りを志願したのだとか。
そのクララも中々の腕を持っているらしく、さらに商才もあり、加えてファビオ曰くCランク相当の戦闘力もあるので一緒にどうかと言われたのだが、カズヤは頑として断っていた。
多分普通ならハーレムルートの要員だよなあ、なんて思ったけど、予想出来た結果だった。
──でも少しだけ不安で、ホッとしたとか思わなくもない。少しだけ。
ミスリルの武器に防具、それにマント、一気に勇者らしくなって来たじゃないか。
そう思っていると翌日、ギルドにカズヤ専用のクエストが入っていた。
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