第26話 トッテル駐屯地地下要塞

「ちょっと臭うわね」


「そうですね。ここは地下要塞の最深部の最奥のトイレですから、換気が悪いんです。お掃除スライムとかいるといいのですが。

それでは、出ますね」


「ギー。ガチャ」


廊下を歩きながら世間話をする。


「でも、あなたよく命がけで敵陣の中を来る気になったわね。すごいですよ」


「嫁が産休に入ってまして、これからお金がかかるから手柄をたててボーナスを増額してもらえと言われまして。

尻に敷かれております。


ミサコ大佐から今回の任務を成功させたら、勲章と金一寸、それに今回の戦争に勝利後は本部移動と少佐への昇進を確約していただきました。

勝利さえすれば本部の少佐ですよ。これも子どものためです。

いえ、王女様をご案内することは私の誉れであります」


ミサコ大佐がトイレの入口付近で出迎えていた。


「こら、そんなところでボサボサしないで、王女様をご案内しろ。そんなに近づいたら蹴り倒すぞ」


「はい~!!!もう蹴ってるではありませんか」


「王女様はプリット大将の命令で私の指揮下に入りました。くれぐれも勝手な行動をしないようにしてください。

もし勝手な行動をしたら王命でダンジョン禁止令を出す。とのことです」


「ヤットコ大尉、お前は王女様に近づきすぎだ。トイレ掃除でもしとけ。お前の罪は重たい!軍法会議にかけてやろうか」


「え~!ちゃんと命令通りに遂行しました、ですよ~。約束の件お願いしますよ~」


「王女様、早く司令部に行きます。こいつと長く一緒にいると汚れます」


「長いローカですね。この要塞には何人ぐらいいるのですか」


「トッテル砦にいた者全員とトッテル村の住人がきています。それと1月前にタービン少将が帝国軍の進軍の可能性も考えて王都軍のうち精鋭1万人をここに配置しています」



司令部前のドアが開く。

知った顔がこちらにやってきた。


「ミサコ大佐、こちらの盤面をご覧ください。ダンタリア帝国軍の進軍状態をリアルタイムで表示しています。このピン1つが兵士500人に相当します。このピンの状態からわかると思いますが現在ダンタリア帝国軍はまっすぐ王都を目指しています。貴族軍も総勢でダンタリア帝国軍に向かっていますが王都に到着するまで王都が陥落する可能性があります。まだ時間はありますが、早めに何か手を打つ必要があると思われます」


「これは。早急に手を打たないと王都が陥落するな。幸い敵軍は我々に気づいていない。兵士数で劣るが背後からダンタリア帝国軍を攻撃すれば敵軍は慌てる。時間さえかせげば貴族軍が到着して王都を守ってくれる」


「王女様はこの地下要塞司令部にて待機してください。プリット大将からくれぐれも指示あるまで動かないようにと命令を受けております。私の安穏のためにもよろしくお願いします」


「爺ちゃん、早々と手を打ってきた。うかつに動けない」


「これより王都に侵攻中のダンタリア帝国軍の背後から攻撃をかける。各自配置につくように。いいかダンタリア帝国軍3万人に対してこちらは1万人だ。いくら背後から攻撃をするといってもトッテル駐屯地地下要塞軍単独では圧倒的な戦力差がある。いいかヒットアンドアウェイだぞ。攻めては逃げる。逃げては攻める。決して死ぬな」


いつまでたっても王都からの連絡はない。時間だけが過ぎる。

ミサコ大佐は我慢の限界を超えた。


「挟み撃ちをかける王都軍は何をしている!」

「ミサコ大佐大変です。王都に向かってインキナ共和国タップリ・ビッターレ辺境伯軍2万が越境しました。

王都軍は近隣貴族軍と合同してビッターレ辺境伯軍の侵攻に対処しています。


王都軍の精鋭はほとんどこちらに来ており王都は新兵がほとんどです。このままでは王都が陥落します」


「ミサコ大佐、諜報部から緊急暗号指令が入っています」


「読み上げろ」


「プリット大将から、応援はできない。

こちらは少しでも時間を稼ぐ。

ミサコ大佐あとは頼む。

暗号指令は”おとうさん大好き”だそうです」


「もうやめて~挟み撃ちする予定だったのに。挟み撃ちされてるのはこちらじゃないの。なんでかなあ~?」


一から作戦を練り直さないといけないわ。


「各自そのままで待機するように。作戦の変更を行う」

どう考えても詰んでるわ。やっぱり姫様の力を借りないといけないのか。

暗号指令がそのものだもんね。

もう姫様に何かあったらどうするのよ。



「前戦の兵士は私の声が聞こえていると思う。これから作戦名を伝える。お前達を無事家族の元に帰すのが私の務めだ。だが王都の前後を挟まれてしまった。このままでは王都が落ちる。すまない。お前達の命を預る。ここには王女様もいらっしゃっている。一言お前たちにお言葉をもらう。王女様お願いします」


「みなさん。ごめんなさい。私もみなさんの力になれるように頑張ります。一緒に戦ってください」

「ウォーーーーーーーー!!」


兵士であれば王族が前戦にくるなどあり得ないというのは常識だ。それなのにこれまでの王族と違って危険な最前線に来ている王族がいる。それだけで力が湧いてくる。怯えていた新兵も小さな王女が前戦に来ているのだ。負けていられないと奮い立った。

「いいか、作戦名は”おとうさん大好き”だ。存分に戦え」


あ~。こころ安らぐ日はいつくるのやら。

「この戦いが終わったら絶対産休をもらう!」


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