第34話 神聖キツソウ国 国王イガチキ・ギウラ

「女が逃げただと。ノモリはどうした。ここへ呼んでこい」


「国王には知らせるなと言っただろ。どうして知らせた」

「これだけ大騒ぎになれば国王も気づきます」

「しょうがない。いますぐ行く」


「兄様、申し訳ありません。牢屋番がヘマをしまして」

「何を言っているお前が事を急いだのだろう」

「いえいえ、そろそろ食べ時だと思いまして……」

「お前は……なぜ、もう少し待てない」


「そうですが、あいつは、憎き、イイナ伯爵家の者です。姉の敵です。むちゃくちゃにしてやりたいじゃないですか」


「お前、父上は俺が頼んだぐらいで許してくれると思うか。父上は俺が兄上を殺したことを知っていた。妹はそれを許してもらうために、アーメリア王国の心臓、つまりアーメリア王国イイナ伯爵家のすぐれた魔道士の血を手に入れるためにスパイとして侵入したんだ。だが、女系にしか遺伝しないことがわかって、そのことを父上に報告しようと伝書鳩を送ろうとしたところをドキュメント公爵の間者に見つかってしまって暗殺されたんだ。お前は何も知らない。お前は甘ちゃんなんだよ。詰めが甘いから女に逃げられてしまうんだ」


「私はそんなことはありません。だって教えてくれなかったではありませんか」


「妹は、儂のためにスパイになったのだ。あれは儂のことが好きだった。それにお前はまだ妹の子の行方も分かっていないだろうが」

「いえ、一生懸命に捜しているのですが、見つかっていません」

「だからお前は甘いのだ。妹の子は儂の子だ。まあ、王女はそう遠くには逃げられまい。すぐに捕まるだろうが、ふははは。それにお前の姉の子シラユリは儂の女だ。知らなかっただろ。だからお前は甘ちゃんなんだ」


 数百メールの竜が飛来したと近衛兵が報告してきた。しかも何やら女と話しているらしい。

「竜が話すなど聞いたこともない。それにそんな大きな竜がいるわけないだろう。大げさな。皆の者静かに致せ。これから祝賀の晩餐ばんさん会である。王女はすぐ捕まる。愉快である。今日は最高の日である」


「神聖キツソウ国イガチキ・ギウラ1世の名において命令する。アーメリア王国に対して総攻撃をする」


 イガチキ・ギウラは血を吐いた。


「あの女……」


 ……城が一瞬にして消えた。




 ~同刻フタマタナリキン号~


 3日目の朝、フタマタナリキン号の会議室では主立った者が対策を練っていた。

「私もうがまんできないわ。これから様子を見に行く」

「待てよ、カネヨ。俺も行く」

「ありがとうビリット。そう言ってくれると思ったわ」

「僕を置いていかないでよ。僕も行くよ」

「よく言ったわ。ヒンセイ」

「当然私も行くわ」

「キレイナちゃん、先生だけ置いていかないで」

「わかってますわよ」

「みんなで行こう」


「船長、闇夜に紛れて港の灯りを目指します。それまで、みなさんゆっくり体を休めてください。マリアンナはたぶん王城にいると思われます」

ビリットは皆に指示した。


 夜になった。


 沖合に停泊して、避難用の小舟に乗り換える。総勢20名による王女救出作戦が開始された。接岸して全員が上陸し、港の倉庫の影に隠れる。


「さすが首都のある港ね。いろんな屋台が出ているわ。あ~イカの塩焼きね。でも魚類は飽きたわね。毎日魚釣りをして手が生臭いわ。肌も潮風で荒れたし。もう早く帰りたいわ。さっさと救出にいきましょう」


「ミラージュ先生、あまり食べ物のことばかり言っていると、マリアンナに言いつけますよ」


「やめて。本心ではないのよ。カネヨ」

「いいえ。本心でした。マリアンナが帰ってきたら、言いつけて、次は私が校長ね」


「先生今回は私が合図しますよ」

「そうねカネヨにまかせますわ」

「協力者のみなさ~ん。私たちの後ろについてきてください。今から中央突破します」


「トラトラトラ」


 ……突然港に突風が吹き王城が爆音とともに消滅した。




 ~アーメリア王国王城~


 使節団から毎日のように今回の訪問の成功を知らせる伝書鳩が送られてくる。王城ではドキュメント国王とクドレイナ王妃が夕食をしながら娘の数々の成功を喜んでいた。


「私はマリアンナに早く戻ってもらわないと困るのよ。最近ウエストがちょっときついの。夜には転移魔法で戻って温泉に連れて行ってと言ったのよ。そしたら他の人たちに悪いから“イヤ”て言うの。軍に入って言葉が益々悪くなっている気がするのよね。そのうち“ババア”とか言わないかしら」


「朝昼晩と王女様に結婚話がきております。もう断る理由がみつかりません。最近では軍部からも話しがきています。あまり王女様を外部に出さないように願います。今回の使節団が成功したことで、外国から申込みがくれば私はこれ以上対処できません。国王が全て断れと言われてますが、外国から正式に申込みがあったときは、“はいお断りします”とはいきません。私は内政専門です。王妃さまがやってくださいませ。


 約束お忘れではありませんよね。王妃様は伯爵家の家庭教師をしていた私をいつも“私勉強きらいなの”私を手なずけたいなら将来あなたがこの国の宰相にでもなったら、なんでも聞いてあげるわ。まあ、しょせんあなたは伯爵家の家庭教師ですからそんなこと天地がひっくり返っても起こりませんけどね”と、覚えてらっしゃいますよね」


「私はドキュメントがあなたを宰相にするなんて夢にも思わなかったの」


「クドレイナ、こいつは俺の家庭教師もしていたんだ。勉強嫌いな俺をどうにかしようと親父が100年に一人出るかでないかという神童を俺に付けたんだ。俺が王になろうがなるまいがこいつは宰相ぐらいなっていたさ」

 マリアンナの活躍で賑やかな食事時であった。


「失礼します。緊急事態です。緊急伝書鳩にて神聖キツソウ国の王都で王女様と連絡が取れなくなったと記してあります。至急軍本部にお越しください」


ドアを開けるなりドキュメントはプリット大将に尋ねた。

「食事中に緊急事態とは何があった?」


「影より緊急便がきました。結論を先に言います。『王城は警備が厳重なため、我ら数人では情報を聞き出すのが精一杯でお救いすることができませんでした。明日、使節団の代表が中央突破をする計画となっています。騒ぎに紛れてお救いいたします。我らも同行します。命に替えても必ず姫様をお救いいたします』とあります。


 詳しくは2枚目に記されているから読みますぞ。いいですか心して聞いてくだされ」


「王女様は投獄されているようで、手枷てかせと足枷がそれぞれ3個ずつ、首枷が1つ、顔は腫れ、食事は1日1回パンと水のみ・衣服はボロボロ……

 う!こ、これ以上は……

 もう話せませんぞ。便せんをお渡しします。ご自分でご確認くだされ」


 アーメリア王国王城は一気に暗黒事態に陥った。

 軍の緊急会議が開催され、開戦やむなしと結論された。

 神聖キツソウ国との軍事力の差はあきらかに不利であった。

 神聖キッソウ国はアーメリア王国の5倍の軍事力がある。

 それでも、ドキュメント国王と軍部は宣戦布告することにした。


「我らの天使を取り返すんだ」



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