第33話 大陸竜

 ~少し前に戻って~


 遅い。

 いつになったら女を連れてくるのだ。

 もう待っとられん。

 儂のあそこが限界に達している。

 儂がじきじき連れに行く。


「牢屋番はどこだ?まあよい、さあ、儂の女は元気にしてるかな?おい、鍵が開いているぞ。女がいないぞ。牢屋番はどうした」


「はっ!牢屋の中でズボンを脱いだ状態で首を切られて死んでおります」

「捜せ!」


「いいか、王には知らせるな。兵を総動員しろ。魔法が使えないからまだ遠くには行っていないはずだ。城中を捜せ」


 城中では兵士が大騒ぎでマリアンナを捜索していた。


 その頃マリアンナは、足枷で重い足を引きずりながら、一直線に中央棟のやぐらを目指した。櫓に着くとドレスの膝から下を破り牢屋番から取り上げた火打ち石で燃やした。

 そこに兵士の残していった松明たいまつを重ね、救難“狼煙のろし”を上げるつもりだった。


 元の世界での知識なのだが、あくまでも近くにアーメリア王国の助っ人がいることを前提としている。

 そううまくいかないことはわかっていたが、何もせずにはいられなかった。


 櫓にいた兵士も今は櫓から下りて私を捜しているけどいずれここに戻ってくる。

 バリケードを築いておこう。

 うまく手が使えない。手枷が重たい。

 魔法が使えないのは不便だわ。


 いままでが便利すぎましたわ。これからはもっと感謝しないといけないですわ。

 毎日自転車で駅まで通っていた魔法のない日常を忘れていた。

 魔法がなければ自分でどうにかしなければならない。


「女を発見しました。櫓の上にいます。煙で救難信号を送っております。すぐに行って女を確保してまいります」


「第三歩兵団は櫓に向かえ!」


「あ!見つかった」


「えい。えい。私は櫓から其処そこらら辺にある鍋とやかんを兵士に投げつけた。」

 投げるたびに手枷が摺れて痛い。ほんと治癒魔法にもっと感謝しなきゃあ。

 手枷足枷が重い。

 それに首輪も。


「もう限界かな……」


「転生人生も悪くはなかったわ。最後はちょっと残念な結果だったけどね」


「月が出たいい天気なのに、もう月見もできないわ」


 バリケードを背もたれにして座った。


 そのとき城は真っ暗になった。大きな大きな影が城を覆う。それは数百メートルはあろうと思われる影で、その正体は今まで見たこともないあまりにも大きな竜だった。

 兵士たちは城が壊されるのではないかと恐怖に震えて動くことができなかった。飛竜などはこの竜に比べたら豆粒のような存在だった。


 竜が枷を外してくれたので治癒魔法をかけて顔の腫れは引き摺れた箇所きれいになった。

「神様、治癒魔法を使えるようにしていただきありがとうございます」

 この世界に神がいるかわからないが感謝は忘れない。


「あ、すごい大きい。かっこいいわ」

「これ、娘」

 竜が私に話しかけてきた。

 ふむふむ。どうやら、私を自分の思い人のところに連れて行くので会って欲しいみたいだ。会うだけでいいみたいなので、ついて行くことにした。


 私の回りが金色に包まれる。私の体は宙に浮き竜の背中に乗った。

 あたり一面野球場のようだ。東京ドームがすっぽり入るかな。


 竜は羽ばたくことで飛んではいない。

 この世界には反重力が存在する。

 この世界はどこまでも平らだ。

空は青いが遥か遠くまでは行けない。天蓋が邪魔をする。

海を真っ直ぐ旅すれば必ず南極に到達する。南極はこの世界を円周で囲んでいる。天蓋が他の領域に行くことを邪魔するが南極の一部から他の領域に行けるがこの世界の者はまだ知らない。

この世界の月と星は見えるがホログラムだ。


 反重力があるのだからこれほどの大きさの竜が羽ばたきもせずに空中に止まっていても不思議ではない。

 この世界にいきなりUFOが現れても何ら驚くこともない。宇宙の果てから来るのではなく他の領域からくるのだから。


(神聖キツソウ国の兵士たちはおとぎ話に出てくる大きな竜の突然の出現に恐怖を感じて動けずにいた。なかには恐怖のあまり弓を引くものがいたが、竜の障壁に当たって跳ね返される。恐竜対策用の大型弓で攻撃する者もいたが障壁はびくともしない。黒髪少女が障壁の中で竜と何やら話しているが皆初めて聞く言葉であった。誰も理解ができなかった。)


 竜が私を乗せて羽ばたいた。猛烈な突風が吹いた。

 台風の最大風速が微風に感じる。

 人は空高く舞い上がり、城は粉々に破壊され更地になった。

 城にいた者は皆生きて……無理だな。

 私が転移魔法を使うことを知った者はみな死んだ。

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