第32話 筆頭神官長ノモリ・ギウラ

 俺の兄イガチキ・ギウラは前神聖キツソウ国国王の次男だ。

三男の俺と違い狂ったやつだ。


 俺は兄のしもべだった。そんな俺を姉はいつもかばってくれた。

次の王は長男のはずだった。だが、あいつは次期国王に決まっていた長男を殺した。そして俺と姉を犯人に仕立てた。


 俺たちは斬首刑になる予定だった。それをイガチキは国王に

「このままでは王族は私一人になってしまいます。この国の将来が心配です。どうぞ、私に免じて、妹と弟を許してください」

 と、涙をボロボロ流して国王と当時の筆頭神官長に懇願した。そのかいあって、俺と姉ハクサイ・ギウラの命は助かった。


 まもなく俺たちは国外追放になった。俺たちは影ながら兄の金銭支援を受けていた。数年して国王が崩御ほうぎょした。突然玉座で苦しみ吐血したのだ。前王も前々王も突然吐血して崩御した。

 この国の王は皆吐血するのだ。遺伝なのか、毒殺なのか、誰もが知っているが誰も語らない。


 俺だけは兄が国王に就任すると筆頭神官長として帰還することになった。流浪生活のときに姉は苦労して看護兵の資格を取っていた。アーメリア王国に国境なき看護兵として派兵されたときにゲリー・イイナと恋に落ちて子どもを一人産んだ。だが、やつは姉を大事にしなかった。あっちこっちに女を作った。姉は生きる希望を失い少しずつ病んで死んだ。あの国のやつらは絶対に許さない。


 心残りは姉の子の行方だ。




 そのころフタマタナリキン号の面々は、いつまでたっても迎えの舟が来ないため、大騒ぎになっていた。


「おい、ヒンセイお前この状況をどう思う」

「マリアンナに何かあったと考えるのが妥当だろうね」

「俺もそう思う。本国に知らせるにしても時間がかかる。だけど何もしないわけにはいかないからとりあえず異変が起きたことを知らせるぞ」


“緊急事態発生。王女様の身が危険”至急応援頼む。以上の文章を伝書鳩にくくり付け放った。


「ねえ、私思うんだけど、まだ昼ご飯食べてないのよ」

「ミラージュ先生、今はご飯の心配をしているときではないでしょ」

「そうよね~」

「キレイナ、カネヨお腹すいてない?」


 この人マジでおかしい。カネヨはちょっとイラついていた。


「そうですね。お腹が空いていたら、いい考えも浮かびませんしね。伝書鳩の返事があるまで待機しておきましょう。この伝書鳩は魔力持ちなので王都まで2日で行くことができます。4日後には返事がきますよ」


「さすが、ヒンセイ君」

「僕がいうのもなんですが、先生はもう少し大人になったほうがいいですよ」

「酷い、ヒンセイ君」


 キレイナとカネヨはヒンセイの言ってることを当然のように頷いていた。




~再び王城~


 私はやっと目が覚めた。もう日が昇っている。ここはどこかの牢屋かな?日差しが格子から若干入ってくる。日はかなり高めだわ。もう昼近くかな。あっちこっちが痛い。せめて布団を用意してよ。まあこの程度の痛みであれば年中怪我しているから問題ないわ。


 治癒魔法が発動しないみたいね。転移魔法も使えない。この手枷と足枷は魔道具のようね。どうやら魔力を吸収しているようだわ。奴隷じゃないんだから首に着けなくてもよろしくてよ。


 どうやっても外せないわ。豚組に知らせないといけないけど手段がないわ。


「おい、女、食事だ。ありがたく頂け!ぷふ……お前面白い顔してるな」

「すみません。顔が荒れるので水をいただけませんか」

「そうだな。それぐらいなら問題なかろう」

「ありがとうございます」


 あ~やっと汚い絵の具を落とすことができた。


「お、お前かわいいな。へへ、また来るぞ。手を出すと筆頭神官長さまに怒られるからな。まあそのあとなら……へへへ」


 牢屋番は行ったようだ。なんとかしなければいけないと思いつつ、3日目の朝が来た。

 あの男は私を好きにしたいようだ。今晩待ってろと言ってたから、今晩までになんとかしないとまずいですわ。


 夜になり牢屋番が来た。


「ノモリ様がお呼びだ。早く出てこい」


「……」


「何、モゾモゾしている。早く出てこい。

 鍵は開けたからな。出てきてもそれだけ手枷足枷じゃ逃げることもできんだろう」


「早く出てこんか」


「おしっこ!」


「そこでしろ」


「でも、オシッコ臭かったら嫌がれるかもしれません」

「そうだな。俺は好きだけどな。まあ、お貴族様には無理かもしれないか」

「すみません。手枷が重くて脱げません。脱がせてもらえますか」

「おお、そうか。いいぞいいぞ」


 牢番は扉を開けて牢屋の中に入ってきた。


「どうすればいい?」


「後ろのファスナーを開けてください」


 白いうなじが首枷でやや赤くなっているが、生つばが……ゴクリ。


 この女に比べたら城の女どもは小バエのようなものだ。比べものにならん。

まだファスナーを下ろしてないのに、想像するだけで、”あそこ”が元気になっていく。


 もうがまんできん。俺はズボンを脱いだ。


 俺は……ノモリ様に知られたらクビになるかもな。わからなけりゃいいぞ。


 もうどうでもいい。がまんできん。


 こんな美少女これまで見たことがない。


「お前が頼むから脱がすのだからな」


「俺は、ファスナーを下ろし女の白衣のドレスを脱がす」

 つもりだった。

 女は振り向きざまに、おれの“あそこ”を思いっきり蹴りやがった。

 お腹が、あそこが……悶絶する。

 女は俺の短刀を抜き……目に前に真っ赤な血しぶきが見えた。


 牢番は倒した。わたしはこの城で一番高い場所を捜した。

「早くのろしを上げて危機を知らせなきゃ」

 でも絵の具のせいで顔がヒリヒリするのよね。少しアレルギー反応で腫れたわ。あの神官絶対同じことをしてやる。



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