第35話 シラユリ・リョウマ

 神聖キツソウ国の国王は変人として有名だ。


 私が魔法学園のときに交換学生として1箇月滞在したことがある。

 私を見るなり、なんでも手に入れてやる。すきなだけお金も用意しよう。儂のものになれと言った。


 私は12歳になったばかりだった。貴族は法律で決められていても実際にはいつでも結構できるから12歳だったら結婚できる。


 あいつは私の出生の秘密を知っていた。

 これからやろうとしていることも知っていた。

 今明かされると私の計画は頓挫とんざする。へたをするとこれからやつのなぐさみみ者生活を送ることになる。

 私はあいつのものになった。涙は出なかった。

 確かに王族は純血主義だから兄弟姉妹で結婚することはどの国でも普通のことだ。


 私はここの王族だが、アーメリア王国ではそれは忌避されている。


 やつは人として気持ち悪いやつだった。

 それは1か月間続いた。悪夢の1か月だったがやつは私を信用した。

 私は初体験をなかったことにした。頭から事実を抹消した。


「ああ~魔法学校に進学したら、とびきり美男子の王子様とるんるんするんだ」


 こいつを利用しつくすことに決めた。



 ダンタリア帝国とインキナ共和国で挟み撃ちにする作戦が失敗した。私はどこの国でもおたずね者となった。フタマタ商業国家にも種をいているが、ひとまず神聖キツソウ国に行くことにした。


 私は留学した頃によく来ていた裏通りを歩いている。

そうここはスラム街だ。私をじろじろ見るものはいない。


 ここには反神聖キツソウ国レジスタンスの本部がある。私の出生の秘密を知っている者たちは私をクーデターの旗頭、いえお飾りにするためここに留学した頃から連絡を取り合っている。


 私を護衛するように幹部が集まってくる。

「イコツシ・リョウマはいるかしら」

「へぇ!いつもの場所にいらっしゃいます」

「そう、あなたも大変ね」


「そうなんですよ。毎日毎日剣の訓練で、休憩のときでも、たまにはゆっくり休むのもいいな。お前もやれ、と言って腕立て伏せ300回ですよ。休憩って何もしないことではないでしょうか」


「そこだけがイコツシのいいところよ。そのうちあなたもわかるわよ」


 あの筋肉男は結局私と結婚してこの国の王になりたいだけだ。

 だが、いい。


 ビッターレは役に立たなかった。

 今度はこの男だ。

 利用して、利用される仲でいいではないか。

 最後に笑えばいいだけだ。


「リョウマ、来たわよ。あなたの奥さんになることにしたわ」

「そうか。では今から結婚式だ」

「これであなたもあいつが死んだら国王候補よ。フタマタ商業国家とは話ついてるのでしょうね」

「ああ、うまくいっている。いつでもいいぞ」

「そう、では今から国王に会ってくるわ」


 国王に会いたいと申し出た。

 手形を見せたが門番には“こんなもの儂は見たことない”と相手にされなかった。

 ちょうど筆頭神官長が門から出るところであったため、国王からもらっている“謁見手形”を見せると、筆頭神官長は慌ててすぐに王城に案内してくれた。


 国王に謁見した私は、外は雪が降っているのに

「あら今日はキツソウ晴れのいい天気ね」

 と国王に話しかけた。


 そして国王に約束を果たすように言った。


 あの男は信用ならないが、私はあの男と誓約書を交わしていた。

“私の願いは命に関わるもので無い限り、必ず実行すること。

 契約通りにしない場合己の首と胴体が離れることになる。

 これは正規の契約であり、申込を口にすることで発動する。

 その言葉は”あら今日はキツソウ晴れのいい天気ね“だ。

 私はこの魔道誓約書のために魔力を使い果たし三日三晩熱にうなされたのだから。


 私は王の下に行き、膝を落とす。

 王が私に会うときはいつも手を出す。

 その手に私の頭を垂れる。絶対逆らわないという証だ。

 そして私は

「” あら今日はキツソウ晴れのいい天気ね“」

 と言ったあとで、王の口元に私の真っ赤な唇を合わす。


 回りの貴族は驚き嫉妬しっとの目をした。

 外は初雪なのに変なことをいう女がスタンドプレーをしたのだと思っていた。

 王は苦笑いをしていた。


 私は「アーメリア王国の王女マリアンナに二度と立ち上がれないような屈辱を与えて」

 と願った。殺しは頼まない。

 もう私の自身の手でやる。そうしないと気が収まらない。


 それからすぐに王城を出ると真っ赤な口紅を拭く。

 目の前が少し霞む。


「大丈夫か」


 リョウマが私の肩を支える。


「遅効性だけど強い毒だから少し飲んだみたいね。

 解毒薬を飲んでるからもう大丈夫。さあ戻りましょう」


 1時間後に王は毒殺され国王争奪戦が始まるのだから。


 1時間後王城が消滅した。王城にいた者は皆死んだ。


 神聖キツソウ国は現王が強権で治めている。

 今の王が崩御すれば、弟が継ぐ。

 だがあの男ではこの国は治まらない。


 弟の筆頭神官長も一緒に亡くなった。

 王を承継する者はいなくなった。


 国内の貴族は反旗を翻し群雄割拠を呈することになるだろう。

 私は、あの男に復讐できただけでも、心の平穏がきた。

 私に王の継承権があってもこのクソみたいな国は欲しくない。

 ここにいるだけであの地獄のような1か月を思い出して吐いてしまう。


 国が欲しいのではない。

 国盗りは男にやらせておけばいい。

 予定と違ったがまあいい。


 あいつらにマリアンナが広域転移魔法が使えることを話したら、私の転移魔法よりすばらしいと言って私の存在を無視するようになった。


 もうこれからはあの子の能力を話さないことにする。

 そうしないと又やつらが私の存在価値を認めなくなる。

 あとはアーメリア王国王女のみだ。

 今度こそ失敗しない。



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