第36話 メンドウ大陸竜

 儂にはもう時間がない。


 “あれ”が来いという。


 最後の最後まで世話をかけるやつじゃ。


 儂の大陸は大陸竜のいない大陸になってしまうのう。

 儂のせいなのじゃが。

 もう飛ぶのもきつい。

 あいつに最後の挨拶にいくかの。


 儂がいなくなると魔力が大陸から消滅する。

 本来の大地の姿に戻るだけだが。人は魔力の力を知ってしまったら魔力のない世界には耐えられないようだ。

 魔力が消失したとたんに他の大陸に移動していく。

 もうこの大陸は永遠に魔力のない大陸になる。


「せめて残り14日分の魔力ぐらい儂の命にかえて注ぐとするか」



 最近突然魔力の塊が生まれた。

 最近といっても数年前だが、儂らにとっては人の数年は数日と変らん。

 儂は卵から羽化したときに前イドリ大陸竜から名前がメンドウ大陸竜で寿命が100万年と教えてもろうた。


 人の一生は儂の生きた時間に比べたら一瞬じゃ。

 だがこの魔力は儂の生きてきた歴史の中でも指折りのものじゃ。

 そしてこれほど暖かい魔力は200年ぶりじゃ。

 最後にこんな暖かくやさしい魔力に出会えるとは。長く生きるのもいいもんじゃ。

 あやつにもこの魔力の持ち主を会わせてやりたいのう。200年ぶりに幸せな気持ちになる。ちょっと寄っていくか。


 おや、どうした!魔力の塊が歪んできたぞ。

 歪みは神聖キツソウ国の城に向けて動いている。今は歪みの元は櫓から出ているようだな。何かを嵌められているな。



 竜は山脈の頂上を飛び立った。山頂はマグマが煮えたぎっている。

 大陸竜はどこの大陸であってもマグマの煮えたぎる山頂をねぐらにしている。

 これは太古の昔より続いている。

 卵が羽化するには山頂のマグマが必要となるのだ。


 あれが原因か。

 あやつへの手土産てみやげにちょっと下りて話してみるかの。

 儂の話す言葉を理解できれはいいが。



「ビューーーーーーーン」


「これむすめ、儂の方を向いて手かせと足かせを見せてみい。外してやろう」

「助かります。私一人では外せなかったのです」

「そうか、お前は儂の言葉が理解できるのか?」

「そうか、そうか、大陸竜以外と話すのは200年ぶりだの」

「???」


 大陸竜が腕のあたりを見ている。


「ブチ、ブチ、ブチ……」


 大陸竜の目が光った気がしたような気がした。


「これで魔力が回復するはずじゃ」

「すごいですね。見ただけで外すのなんて」

「魔法が使えるのですね」

「魔法か?あれは儂の魔力を利用したものだからな」


「私おじさんのものを勝手に借りていたのですね。今まで使わせてもらってありがとうございます」

「儂らも魔力を大陸に流すことで魔力が体内で暴発することを防いでいるから持ちつ持たれつの関係だ。だからそんなに感謝しなくてよい」

「それでもおかげでこうして生きていけるのですから感謝です」


「よいよい。まあそういうことなら、お前にちょっとお願いしたいことがあるがいいかの?」

「いいですよ。わたしにできることなら。助けてもらったし」

「儂の、なんじゃ、いわゆる、“あれ”のところに一緒に行って欲しいんじゃ」

「?」


「何のことかわかりませんが、いいですよ」

「そうか、お前の魔力は暖かいでの。200年ぶりじゃ。“あれ”に教えてやりたいんじゃ」

「それに儂がいなくなったらあやつが寂しがるからの。人の寿命は短いがその間だけでも話相手になってやってくれ」


「その前に今の私の顔ひどいでしょう。あちこち腫れているし。それにおじさん苦しそうだし広域治癒魔法を使いますね」


 金色のシャワーが大陸竜の体全体に広がった。


「すまんの。儂までかけてもろうて。もう儂の魔力では治療できないでの」

「具合はどうですか?」

「楽になった!」

「これで長生きできます?」


「娘よ。とても楽になったが、儂はもう寿命での。それは無理のようじゃ」

「死んじゃうの?」

「次の世界にいくのだ。気にするな。だが、お前のやさしさは受け取った」


 そう言う大陸竜の顔は悶絶していた。もう時間がないのだろう。


「お前に加護を与えてやりたいがもうその魔力も残っておらん。すまんの」

「無理しないでください。奥さんに早く会いにいきましょう」

「最後の最後にまた人の優しさに出会えたわい」

「いえいえ、私も久しぶりに日本語を話せてとてもうれしかったです」


「お前は何度話してもやさしいな」


「初めてだけど?」


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