第24話 王都にて

 10月になった。


 わたしは毎日通勤距離徒歩5分の王都軍司令部のお爺さんたちの話相手をしている。

 今もダンジョンにはもぐっているわよ。


 今のところ75階層まで攻略したのよ。

 76階層の超巨大伊勢エビにはビックリしたわ。

 10メートルの巨体からくりだす海老固めはわたしでなければ抜け出せなかったわ。

 わたしのウインドカッターも通じなかったの。ウインドカッターがはじかれたのは初めてよ。体が成長していないから魔力が増えていないのかしら。


 これからたくさん食べて成長しないと76階層は攻略できそうにないわ。

 火炎魔法を使うことも考えたけど、あれを使うと丸げになるから。

 目的は伊勢エビ料理なのよ。

 前世のときだって食べたことないから、味は知らないけど、海老といえば伊勢エビよ。

 カニカマじゃないわ。


 来年の誕生日に12歳になるから、それまでには全階層を制覇したい。全階層というけどいったい何階層あるんだろう。底沼ダンジョンだわ。


 実は最近ちょっと胸が膨らんできたの。

 異変に気づいたマーメイダが「明日取りに行きましょうね」と言ってくれた。

「大丈夫ですよ、私が選んで注文してあります」


 今日マーメイダが着けてくれた。ちょっと恥ずかしい。

 今はもう女の子として生きている。胸が膨らみ始めてから俺というのが恥ずかしくなったもの。でも巨乳は好きよ。


「姫様、最近、益々美しくなってきましたね。身長も120㎝になりましたし、お胸もちょっと膨らんで、体も少し丸みを帯びて、これでは求婚者が後を絶ちませんよ」


「マーメイダ、冗談を言わないで!

コサミ、笑わないで、メイド長首にしますわよ」



 ◆マーメイダ視点◆


 マリアンナ様が女らしくなってきたわ。

 胸を痛そうにしているわ。

 ブラ特注しておきましょう。


 こんな日がくるとは思わなかった。

 桃の木事件のときは生きた心地がしなかったわ。


 意識が戻ったら言葉を喋るようになり、おまけに体中傷だらけだったのに、小さな声で「いちゃいのいちゃいのちょんじぇけー!」と言ったら、金色のシャワーとともにすべての傷が消えていたわ。誰も気づかないふりをしていたから、きっと大変なことが起きたのだと分かったわ。


 私も気づかないふりをしたわ。メイドたちも見ていたから隠しようがなかったので、私はとっさに、「キツソウ神が奇跡を起こした」と叫んだのよ。

 クドレイナ様も同じように叫んだ。

 続いてメイドたちも同じように叫んで騒いだ。


 どうやらクドレイナ様は気づいているようだけどメイドはキツソウ神の奇跡と思っている。姉のクドレイナ様は私のことを本当の妹のように接してくれている。


 私は先代頭領の六女として生まれた。

 クドレイナ様の側近として10年前に影の里からイイナ伯爵家にやってきた。


 先代頭領はゲリーの出兵のどさくさにまぎれてゲリーを始末した。

 イイナ伯爵家にとって入り婿はただの種馬の価値しかない。

 クドレイナ姉さんはゲリーを嫌っていた。とうとう一度も床を共にすることはなかった。

 ゲリーの死後は伯爵家がゲリー一族で汚染されていたことを嫌ってその日のうちに離れに引っ越した。


 ゲリーはダンタリア帝国が放ったスパイだった。

 ゲリーは「魔物退治をしないとイイナ伯爵領の領民が被害を受けてしまう。魔物が攻撃してくる前に退治をしなければならない。傭兵を募る。人選は儂が行う」

 と言ってダンタリア帝国の人間を部下にしていった。総勢200人の兵士で魔物退治に向かった。


 私はゲリーが毎夜色町に出かけては貴族風の男と密談をしていることを探り当てた。もっと早く計画を暴ければよかったのだけど、屋敷の執事やメイドに相当数の間者が入り込んでいたので表立って動けなかった。


 そこで前頭領はゲリーが挙兵するときを待っていた。


 ゲリーの計画はこうだった。


“帝国の者が侵入してイイナ伯爵領の領民を闇に紛れて魔物に襲われたように装いなるべく惨い殺し方で殺害する。

 魔物退治として挙兵し、傭兵を募るふりをしてダンタリア帝国兵士を傭兵団に入れ

 午前中に出兵し、領内の間者と合流し、夜に反転した後イイナ城を攻め落とし、ダンタリア帝国から本隊1万人を招きいれ、そのまま王都を奇襲し王を殺害し、逆らう者はすべてドンマイ川に沈め、その後ダンタリア帝国に併合する。”

 というものだった。


 前頭領は影に総動員をかけ、森で夜になるまで待機していた兵士とゲリー一派を闇討ちした。


 離れに引きこもっていたクドレイナ様はドキュメント様と出会い恋に落ちた。ゲリー死亡後3日目にドキュメント様とモンシロ様は結婚した。

 ドキュメント様は結婚後にイイナ伯爵家のゲリー一族を廃除した。


 桃の木事件が発生して、ドキュメント様はゲリー一派の執事とメイドを軍に預けた。

 他の者はチビット辺境伯に引き取ってもらい新たな執事長に影の里の頭領となった兄ビータンを任命し、メイドはすべて影の者にした。


 兄さんとメイドのミサコが結婚し、ミサコはコサミとなってメイド長に任命された。


 私はドキュメント様の命によりイイナ伯爵家の養女になり、そのまま伯爵家に残ってマリアンナ様専属のメイドとなった。


 このままマリアンナ様がすくすくと育つことが私の願い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る