第13話 王都ダンジョン

 朝になった。全員喫茶サボリーナで朝食をとる。

 パン1個に目玉焼きと35階層にあるダンジョンオレンジのジュースセット・銅貨2枚だから約400円なので割と安い。


「あのね。私と行動すると私の秘密を知ることになるのよ。だからこれにサインして」

「なんだ。この誓約書というのは?」

「ビリット、これにサインしないで私と行動するといつの間にかドンマイ川に浮いてるの!」

「お前と俺たちの仲だ、いいぞ。みんなもいいよな」

「いいよ~」(カネヨ)

「いいわ」(キレイナ)

「いいですよ」(ミラージュ)

「問題ないよ」(ヒンセイ)


「これで何でも話せるし、どんな魔法も使えるわ。さあ、一気に6階層まで行くわよ」

「マリアンナが一番心配なんだけど」お前小さいからな。

「ビリット、私は大丈夫よ。浮遊魔法でもいいけど、今日は移動魔法で足下に乗れる雲を出して進むから。觔斗雲きんとうん!なんちゃって」

「はあ!マリアンナそんなことできたの。僕たちはマリアンナが歩くのが遅いからいつも遅刻ギリギリだったんだよ」

「ヒンセイ、私は目立たないようにしていたの!身長がないから歩くのも大変だったんだから。何度転移魔法で瞬間移動しようかと思ったことか」

「え!その瞬間移動ってなに!」

「ヒンセイにも機会があったら教えてあげるわ」


 1階層から5階層は四方3㎞ぐらい。小さい魔物に遭遇しつつもさっさと進む。


 5階層に現れた角が2本あるうさぎの魔物が一番大きかったが30㎝くらいなのでビリットのみで対処した。

 この肉は売れるのでとっておく。


「これ、抱えて歩くのじゃまだな」

「ビリット、大丈夫よ。魔道ポシェットを作ったから。この中に入れたものは時間が止まるし、馬車5台分くらいの荷物は入るわよ」

「そんな高級なものどうしたんだ。」

「魔道具の実技授業で作っておいたの。もっといい素材で作ったのもあるんだけど私にはちょっと素材が重くて。

 火炎竜の皮で作った魔道バッグであれば王城くらい入るけどね。

 これは小さな地竜の皮だからあまり入らないの」


「おいおい、そのポシェットだけで金貨50枚くらいすると思うぞ。素材はどうしたんだ」

「王都の外れのもっとはずれのチビット辺境伯領のそのまた先の隣国との国境沿いにある竜の住む山脈に行ってチョチョイと狩ってきたの。

 転移魔法でいけば一瞬だしね」


「授業では子豚が入るくらいの魔道袋の作り方しか習っていないよな。

 どうりでお前授業をまじめに聞いてないはずだぜ。素材も大事だけど、魔力もそれに比例して必要だからな。

 俺なんか授業の魔道袋作るだけで魔力がカスカスだったぜ。そもそもその程度のものだったら布袋に入れた方か早いから真面目にやって損した」


 8階層にD級の冒険者は数える程しかいなかった。この階層から10階層まで魔物の大きさは7階層の倍以上の大きさになる。


 さっそく目の前にイノシシの魔物が出てきた。

 1メートルはあるだろうか。2本の牙よりも頭上にある1本の長い角が危なそうだ。

 前衛の2人が交互に切りつけているが角がじゃまになって致命傷を与えることができない。


「私がやろうか」

「マリアンナは治癒魔道士だからそこで待っていてくれ。俺たちだけでなんとかする」

「あ~、あまり傷つけると毛皮の価値がなくなるから土魔法で囲むね」


 キレイナがたまりかねて魔物を土魔法で四方を囲む。


「さあ、頭をはねてちょうだい」

「できれば眉間を突いてもらえると傷が少なくて済むのだけど。その剣ではしょうがないね。私の冷凍魔法でもいいのだけど表面しか凍らないから使い物にならないのよね」

「そんなことなら最初から囲んでくれよ」

「私の壁は厚くないから弱っていないと使えないのよ。でも土のかまくらぐらい作れるから野宿には便利よ」

「お前、林間学校のとき朝起きたら雨で全部溶けて泥まみれになったことを忘れたのか!」

「大丈夫、今度はキレイナに素焼きにしてもらうから。マリアンナ、血抜きをして魔道ポシェットに入れといて!」


 魔道ポシェットに魔物を入れる作業だけなので暇だ。浮遊魔法で魔物に直接手を触れることもない。誰もケガをしないから出番はない。みんな優秀だ。


 9階層から10階層まで急いで通過したため魔物とは遭遇しなかった。


「なんで魔物を避けるんだ」

「だってビリットこの階層、にょろにょろ系だよ。昔から嫌いなの」


 12階層にきた。このあたりから気をつけるようにとギルドのお姉ちゃんに注意を受けていた。


 みんな慎重に歩く。

 ガサゴソと音がした。

 振り向いた瞬間に目の前を炎の塊がよぎる。

 でかい魔牛だ。なんで牛が火を吐くんだ。

 そういえばすき焼きをずいぶん食べていない。

 最近しょうゆを見つけたからこの魔牛は倒したい。


 しょうゆは大陸で一番小さな大和王国で生産しているらしい。商人に国境はないから手に入るのだが目の玉が飛び出るほど高い。


 この魔牛の大きさが3メートルはある。前衛2人のなまくら剣では切れない。学生の所有する剣では7階層までの魔物が限界のようだ。


 カネヨが火炎を放ったが魔力が足らないようで跳ね返されてしまった。


「カネヨ、私が後ろから魔力を渡すね」


 私はカネヨの肩に手を置いて魔力を流す。カネヨの炎が大きく3メートルの大きさに成長した。


「カネヨ!魔牛の頭にぶっつけて!」


 魔牛は頭を黒げになって横たわった。


「なんだ。カネヨ。やるじゃん」

「まだ生きてるから、ボロボロの剣で早く刺して」


 ビリットがめながら魔牛の首をボロボロになった剣で刺す。


「先生、今日はこれぐらいにしませんか。前衛2人の剣もボロボロだし、カネヨも魔力を使い果たしたみたいですから」

「そうねマリアンナ、戻って魔物を換金しましょう」


 ギルド本部に戻って魔物を換金した。お姉さんにお願いして魔牛肉の霜降りの部分を1キログラム返してもらった。


 先生の顔がほころんで話す。

「今日は、運良く魔牛が獲得できました。素材がおいしいので高く買い取ってくれました。20階層までの魔物の中では魔牛の肉が極上でいちばん換金額が高いということでしたから運がよかったですわ。全部で金貨1枚と小金貨5枚に魔うさぎが銅貨5枚になりました」


 日本円にして約30万円。どうも日本円に換算しないと金銭感覚がつかめない。


「ねえ、みんな、これで宿代もできたし、当分食事にも困らないから、前衛でがんばった2人の剣を買にいかない?」

 みんなに提案したら賛成してくれた。


 先生が「今日はもう遅いから、明日買い物に行きましょう」と言ったので、そのまま表通りの宿に2部屋を予約した。


 せっかくの霜降り肉だからすき焼きにしたけど一人200グラムだと全く足らない。今度はもっと狩らなければいけないと思った。


 この宿には風呂があった。大風呂だけど男女の区別はある。みんなといっしょに大風呂に行く。


「おい!マリアンナ。なんで一緒に入ってくる。お前は女風呂だろうが」

「もう10歳だから男風呂に入る年齢ではないよね」


いけない。「えへ!」

 これから愉快な仲間との冒険者人生が始まる。

 と、このときは思っていた。



 ◆姉シラユリ・イイナ視点◆


 私の腕に銀色星形の紋様が現れ卒業前に特級魔道士になった。


 以前より多方面から官職への招待があったが、紋様が現れたことを校長に話すと軍の人事部の人間が来た。


 伯爵家の地位に比べたらくそみたいなものだが妹を始末するため反王族派の軍に入隊した。元々軍に入隊する予定だったが、特級魔道士になったことで軍部の管理となった。

 現状最高位の特級魔道士ということで少尉ではなく少佐として着任したが、くそおやじどものいる軍は汚職まみれだった。


 妹の成人まであと6年しかない。

 1つの師団を自由に動かすことができるようにならなければ安心できない。私は切磋琢磨して女に磨きをかけた。


 くそジジイに抱かれてやるのはしゃくだが、引換えに地位を得るのだから安いものだ。


 あなたたち方が欲しているものは魔法学園のときに無くしているわ。

 これは内緒の話だから公式では言えないけどね。

 そのときあいつに教えて貰ったのよ。

 アーメリア王国の王位継承権はないのに他の国の王位継承権をもっていたなんて皮肉だな。


 私にはパトロンが沢山いるわ。

 ダンタリア帝国にも。

 好きもの同級生の糞野郎だけど、おかげであいつの国の陸軍第6師団の指揮権を手に入れたわ。

 とりあえず、この国で昇進しなければならない。


 在学中から軍部とはよろしくやっていた。

 何人ものくそジジイが私を通り過ぎた。

 今ではみんな私なしでは生きていけない。


 秘薬で夢の世界を楽しんでいなさい。


 私は毎月昇進した。入隊2箇月で大佐まで上り詰めた。

 でたらめだが、誰も文句いわない。

 15歳9箇月で中将に昇進した。


 特務機関の最高責任者に就任した。

 ジジイが今日も求めてきた。特務機関の最高責任者にしてもらったお礼だ。

 私にとってはもうどうということはない。大事の前の小事だ。

 こいつらが大将とは、この国も終わりだな。これで最後だ。


 ジジイどもはダンタリア帝国と内通しているとして軍法会議にかけられ国家反逆罪で即日死刑となった。特務機関は証拠をねつ造することもできるのだ。

 憲兵に命令した。

 ジジイどもを逮捕せよ。

 これで私は今日から自称”聖女”だ。


 国家反逆者の逮捕に多大な功績があったとして大将になった。

 もう2万人を自由にできる。

 ジジイ達ともおさらばした。

 もう伯爵の地位なんて必要ない。


 父ゲリーにイイナ伯爵家の相続権がないことを知った。

 元々私はイイナ伯爵家を継ぐことはできなかったのだ。

 だが私は強い権力を得た、王位を簒奪さんだつする権力を。

 父さんの仇が討てる。

 父さんの夢が叶う。

 さあ血祭の始まりだ。




◆ビリット・ヤブレタ視点◆


 ミラージュ・シンキロウ先生が地方に転勤になった。

 教師の中で唯一俺らの味方だったのに。

 豚組は、校長が担任になった。


 校長は新学期早々マリアンナに意地悪した。


「マリアンナはこの問題もわからないのか。シラユリ様と大違いだな」

 後日ミラージュ先生に問題を見せたら「この問題は間違ってるわよ。答えはでないよ」と言ってたぞ。


「マリアンナはこの初級魔法も使えなの」

「ごめんなちゃい」

 おいおい、”宇宙魔法”だと。聞いたことないぞ。

 お前だってできないじゃないか。

 口で説明しないで見本を見せろ。


「マリアンナこの魔法の詠唱をしなさい」

「ようえんにゃるちぇんちのきゃみぎゃみにょ……」

「ははは、詠唱すらまともに言えないのか。姉に優秀な素質を全部もっていかれたのだな。はははは!」

 校長のやつめ1時間も詠唱させたらしゃべれなくなるだろうが!


「マリアンナ、ローカに立っていろ」

「くそ校長が!マリアンナは絶対に守ってやる」

「校長、俺もローカに立ってます」

「僕も」

「わたしも」

「じゃ~私も」

 翌日朝一で登校すると、俺の机の中に校長の破廉恥な写真が入ってた。30人以上だ。相手は明らかに女生徒。あまりにも沢山あるので黒板に貼るのに苦労したぞ。


 俺たち豚組は全員卒業した。


 俺とヒンセイは騎士学校との親善交流大会で代表者全員を倒したことで王都騎士団から破格の条件で誘いがあった。


 キレイナは公爵家からお抱え魔法使いの誘いがあった。


 カネヨは王都軍魔法師団から破格の給料で誘いがあった。


 四人とも青田刈り名簿の上位にいた。


 マリアンナは何処に申込みをしても面接すらしてもらえなかった。

 卒業1週間前にはもうどこも雇ってもらえないから王都で冒険者になると半分泣きべそで話していた。


 俺たちは最初から就職する気などない。

 マリアンナはこれからもシラユリから命を狙われるだろう。

 一人にしてしまうと卒業式の翌日にでも殺されてしまう。

 最後まで守ると皆で誓ったのだ。


 俺たちも冒険者になった。

 俺たちにはお似合いだ。

 先生も呼んだ。

 教師をクビになったと言っていたが、転校後もなにかと面倒をみてくれていた。

 マリアンナを守るにもお金が必要だったから、先生の援助はとても助かった。


 パンツを買うのに付き合わされるのは止めて欲しかった。


「先生の年齢で子供コーナのパンツを買うのは恥ずかしいの。あなたたちが買ってくれない!」だと。

 俺たちだってぴょんちゃんのパンツは恥ずかしい。

 カネヨも恥ずかしいと言って俺に買わせた。


 先生に冒険者になることを話すと一度やってみたかったとすぐに了承してくれた。

 この先生、実は3年前に魔法学園を歴代トップの成績で首席卒業していたのだ。

 人は見かけによらない。


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